A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第46話


光が弾ける。

大きく音が鳴った。

そして、レナードと男の両方の腕に痺れ混じりの痛みが襲いかかって来た。

「うあっ!?」

「がぁっ!?」

まるで何かがバーストしたかの様な音が部屋に響き渡り、それがきっかけとなってバタバタと慌ただしい

足音が部屋の外から聞こえて来た。

「何だ、今の音は!?」

「こっちから聞こえたぞ!」


2人が格闘戦を繰り広げていたこの部屋に向かって来るその複数の足音を聞き、男はチッと舌打ちをしつつ

ダガーナイフを床から引き抜いて素早く立ち去る。

「お前、覚えておくぞ!!」

それだけ言い残して、男は部屋の窓を開けてためらいもせずに外へと飛び降りて行った。

それとほぼ同時、まさにすれ違いと言えるタイミングで数人の騎士団員達が呆然としたままのレナードが居る部屋へと飛び込んで来た。

その中には先程、レナードが不審者の情報を伝えた騎士団員の姿もあった。

そしてアンリの姿も。

「何だ、どうした!?」


そのアンリの声に我に返ったレナードではあったものの、今の色々な出来事が一気に頭の中に押し寄せて来て混乱したまま

冷静さを取り戻せずにいた。

「おい、あんたしっかりしろって!!」

「え……あ、はっ?」

「俺だ、アンリだ!!」

「ああ……アンリさん……」

「今、ここから物凄い音がしたんだが何があったんだよ?」

そう問いかけられ、徐々に冷静さを取り戻して来たレナードは自分が今まで何をしていたのか……と言うよりも、

ここで一体今何があったのかと言う事をアンリに説明する必要があると思ってゆっくり立ち上がる。

「不審者です。不審者がいきなり私に襲い掛かって来たんです」

「不審者……賊か!?」


アンリが驚愕の表情になり、同じく驚愕の声を上げて若干レナードに詰め寄る。

詰め寄られたレナードではあるが、持ち前の冷静さで動揺せずに頷いて答えた。

「恐らくは賊の類でしょう。いきなり襲い掛かって来て、そして私に向かってナイフを振り下ろして来ました。

そして格闘戦の末、アンリさん達の足音で窓の外に逃げて行きました」

「外? どんな奴がどっちの方向に逃げて行った?」

まだ探せば近くに居るかも知れないと踏んだアンリはそうレナードに質問し、先程まで自分と戦っていたあの黒髪の若い男の

特徴を出来るだけ詳細に、しかしシンプルに伝える事にする。

「顔立ちとしては20代前半の若い男でした。髪の色は黒で目は青。黒いブーツを履いていて、武器はナイフでした。

服装は上下共に紫だったか青だったか、そんな色だった気がします。窓の外に逃げた以外はどちらに向かったかまでは分かりません」

「分かった。おい、城の周りや城下町全域でそんな男が居ないかを探せ!」


アンリの指示により、部下の騎士団員達が揃ってバタバタと慌ただしく捜索活動に飛びだして行く。

「もう少し詳しく話を聞かせて貰いたい。それから城に居るとまた賊がやって来るかも知れないから危険だ。

俺の部屋で一緒に寝て、少しでも安全な策を取るんだ」

「はい。お願いします」

調書の作成と安全性の確保を兼ねて、アンリの提案にレナードは甘えさせて貰う事にした。

が、レナードはまだこの時知らなかった。

この賊との遭遇が、これから自身に降りかかって来る大きな出来事のプロローグであろうとは。


「話がかみ合って無かった?」

「はい。見えているのに見えてない等と」

アンリの執務室と仮眠室を兼ねた部屋まで案内され、近くで見張りをしている騎士団員達にわざわざベッドまで

運び入れて貰ったレナードはあの時、あの部屋であの男と一体どう言う事になっていたのかと言う事をもう1度アンリに話していた。

執務室のデスクの前にもう1つ椅子を運んで貰い、何時も自分が執務をしている時に座っている椅子に座ったアンリと

向かい合う形になったレナード。

あの時、男が自分の姿を見て驚いていたのがレナードの記憶にはまだまだ鮮明に焼きついている。

『な……何で? お前、俺の姿が見えるのか!?』

あの時の男の驚き様は、演技の分野に関しては全く素人のレナードにも分かってしまう位に素の表情と声色だった。

「そんなに驚いていたのか?」

「はい。となれば、あの男は自分の姿が見えないと思っていたのでしょうね。しかし私にははっきりと見えていました」


その説明を聞いて、アンリは調書を取る羽根ペンの手を止めてうーんと唸りつつ腕を組んだ。

「魔術の類が失敗していたのか? しかし、この世界には確かに存在するんだ。自分自身にかける事で、自分の姿を

他の生物の目から見えなくしてしまう魔術がな」

「そうなんですか?」

まさにこれこそファンタジー、と言う魔術が出て来たのでレナードは地球の常識が通じないと言う事を実感している。

「ああそうだ。魔術の事に関しては俺は余り詳しくないが、そんな俺でも知っている。かなり上位の魔術だから恐らく

その男はかなり魔術に長けている人物だろうな」

「そして格闘戦もある程度は出来る男でした。この時点でさっきの容姿を含めると大分絞り込めそうですね」

だが、レナードはまだ思い出した事があるのだった。


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