A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第45話


部屋に戻ったレナードは、ふと違和感を覚えて動きを止める。

(……何だ?)

部屋の様子は何も変わらない筈。なのに、人の気配がする。

小さいながらもこの部屋は個室であり、身を隠す事が出来るスペースは限られる。

視線を思いっ切り感じるのだ。

「……誰か居るのか?」

部屋には魔術のテクノロジーを駆使して魔力のエネルギーで起動するシャンデリアがある。

そして地球にもあるテクノロジーで明かりを自動でつける為のセンサーまでついているらしいが、

これは体内の魔力を感知して反応するらしいので魔力を持っていないレナードには効果が無い。

勿論センサーが反応しなくなった時の非常用で明かりをつける為のスイッチがドアの横にあるので、

レナードはそのスイッチを白手袋に包まれた指で操作して明かりをつける。


「……!!」

その瞬間、レナードの顔と身体が一気に強張る。

何故なら部屋に置いてあるベッドのすぐ横に、無防備な体勢ではあるが見慣れない怪しい男が1人立っていたからだった。

「な、何者だ貴様!?」

即座にレナードは身構え、男に向かって怒鳴り声交じりで正体を問う。

だが、男の口と表情からも明らかに驚きの色が出て来た。

「な……何で? お前、俺の姿が見えるのか!?」

「はっ?」

思わず素の表情に戻り、レナードの身体から力が抜けるがすぐに身構える姿勢を元に戻す。

「……って、違う! 貴様は何者だと聞いているんだ!」

元格闘家であり、前線勤務希望の軍人らしい張りのある良く通る声で男に再度正体を問うレナード。

だが、男はまだ驚きの感情が抜けてくれない様でブツブツと呟いている。

「何故だ……詠唱が失敗しているのか? いやそんな筈は無い……さっきは現に何事も無く侵入出来たのに? しかも効力が

切れるまでの時間の余裕もまだまだある筈だ。だがこの男は見えている……」

一向に答える気配が見られない男に対して、これは埒があかないとレナードは判断して騎士団員を呼びに行こうと今しがた

入って来たドアを開けた。


しかし次の瞬間内開きのドアが、レナードとはまた違う黒いブーツを履いている足に全力で蹴られて思いっ切り閉められてしまう。

「おっと、行かせねえぞ!?」

見た目は黒髪で、まだ20代前半の顔立ちであろう若い不審者はどうやらレナードに騎士団員を呼びに行かせるつもりは無い様である。

何故ならドアを閉めたその足を踏ん張って身体を浮かせ、ドアを蹴った足で踏み切り空中でUターン。

そのままドアを蹴った足を使って、レナードの側頭部目掛けて飛び蹴りをかました。

見た目には地味なテクニックではあるが、足のバネの力と踏み切ってスピードを乗せられるだけの勢いを即座につけられなければ

成功しないテクニックでもある。

「ぬぐぅ!?」

ドアを蹴り閉められた事で、若干呆気に取られていたレナードはそのキックに反応し切れずダイレクトヒットさせられてしまった。

ドアで反動をつけて、そして空中から自分の顔目掛けて蹴られたので普通にキックを食らうのとは訳が違う。


更に男は地面に着地して間髪入れずに懐からダガーナイフを取り出して、速い動きでレナードに向かって来る。

そして今の状況に繋がる訳だが、男のダガーナイフを必死で回避しつつ反撃のチャンスを窺うレナード。

闇雲に振り回して来るだけでもなかなか近づけるものでは無い。

更に言えば、これはプロレスの様にあらかじめ決められているバトルでは無くて明らかに予期せぬ出来事である以上、

殺人事件の被害者になりつつあるのが異世界からやって来た帝国軍将校の現実だった。

そんな事になってたまるかと、一瞬の隙を突いてレナードは男に向かってタックルを食らわせてマウントポジションをゲットした。

マウントポジションを取ってしまえば相手を抑え込む事が可能なので、レナードは大声を上げて騎士団員を呼ぼうと息を吸い込む。

「……誰か来てくぐぁ!?」

背中に伝わる衝撃。男が振り上げた足でレナードの背中を蹴りつけたのだ。


その蹴りつけによってマウントポジションのバランスが崩れ、自分の方に倒れ込んで来たレナードの身体を男は両側からがっちりと

肩を掴む姿勢で受け止めて、崩れた姿勢のまま力任せに後ろにブン投げる。

「ぐうっ!」

男の方が体重が軽いのか、そこまで遠くに飛ばなかったレナードではあるが床に背中から叩き付けられた事に変わりは無かった。

男は身を起こしつつレナードの方を向き、ダガーナイフを振り被ってその胸に突き立てようとしたが背中の痛みをこらえながら

レナードも振り下ろされて来るダガーナイフを身体を捻って回避。

これだけの格闘戦にも関わらず、防音が行き届いているのかはたまた別の理由なのかは分からないが騎士団員が駆けつけて来る気配は無い。

(侵入者が居るのに、城の警備は一体何をしているんだ!?)

前にもそして今も賊に侵入されたと言うのに、セキュリティがこれでは何も学習していない事になるでは無いかとレナードは

思いつつ、振り下ろされて床に突き刺さったダガーナイフを目の前に見る。

そのダガーナイフを奪い取ってしまえば良い、とその瞬間に閃いたレナードはダガーナイフの柄を掴んだ……次の瞬間!!


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