A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第44話


今のレナードは窮地に追い込まれていた。

目の前で自分に向かって容赦無く武器を振り下ろして来る相手。

これが鍛錬であれば良い経験になるのだが、どうやら鍛錬と言うレベルでは相手は気が済まないらしい。

明らかにレナードの命を奪う為に振るわれる凶刃。

ギリギリで凶刃を回避しながら、何とか反撃のチャンスを窺うレナード。

そもそもそんな凶刃がどうしてレナードに向けられるのかと言えば、その発端は数分前までにさかのぼる。

王城カルヴィスでの仕事が始まってから、そのカルヴィスの城下町のマップだけでは無く王城内部のマップも

レナードは自分の分かりやすい様に纏めていた。

カルヴィスの城下町と同じ様にインハルトの王城内部のマップも事前にアンリから貰っているものの、

自分の分かりやすい様に纏めておく事で移動時間が少しでも短縮出来るのであればそれが良いとレナードは考えた。


騎士団の手伝いを始めた初日から割り振られた仕事をこなしつつも、時間がある時には手元の買って貰った

あの紙と自分の頭の中に王城の構図を出来る限り叩き込む。

元々後方支援職で戦術を考えるのは得意ではあったので、軍の業務での経験を応用して自分なりのマップを作り上げて行く。

あの騎士団員トリオとの話が終わって王城に戻って来て、就寝準備まで済ませた後にまたマップを作ろうと

頭の中で考えながら歩いていたレナードだったが、そんな今のレナードが歩いている廊下の突き当たりには大きな窓がある。

その窓は少しだけだが開いていた。

(あれ、開いてる……)

時刻はすでに夜。それも就寝準備の前には鍛錬場を使わせてほしいとアンリに頼み込んでトレーニングを自主的に

していた為に結構夜遅くになってしまった。


アンリからは「もし夜に窓が開いていたら、何者かの侵入もあり得るかもしれないので閉める様にして欲しい」と

頼まれている事を思い出してレナードは閉めに向かう。

不用心だな、と思いながらもレナードは窓を閉めるが、その窓を閉め切る直前に何の気無しに窓の下を覗いてみると、

すっと素早く誰かのシルエットが横切るのが見えた。

(……ん?)

王城であれば常に人の出入りがあるものなので、誰かが窓の下の王城の敷地を横切っても別に何ら不思議では無い。

しかし、それは昼間の話。今は夜だし鍛錬で部屋に戻るのが遅くなった事もプラスされ夜も更け気味となったこの時間帯で、

人が王城の周りをうろつくのは今までレナードは見た事が無い。

それに、明らかにその人影が騎士団員の恰好では無いのが窓から漏れる明かりで照らされた一瞬の姿で分かったからである。

(魔術師……では無い格好だな。私服に着替えた騎士団員や魔術師と言う可能性もある。夜遅くにこっそりと外から

城に戻って来た城の関係者かもしれない。騎士団の他にも城の関係者は沢山居る訳だから、一目で怪しいと決めつけるのは早いか)


自分の直感と言うものは余り信じず、事前に色々な可能性を徹底的に頭で考え、考えて分からなければ調べ、

そして確実な方法を導き出してから行動するのがレナード・サーヴィッツである。

それが仇となった5年前のトラウマはまだ記憶に強く残っているが、このスタンスは5年経った今でも基本的な部分では何も変わっていない。

そして、予想外の事態にも対処出来る様にしたいと常日頃から自分で思うのも変わらないスタンスである。

一応、あの人影が怪しい人物だったらまずいのでは無いかと思って手近な場所を警備する為に槍を持って直立不動の

騎士団員にレナードは聞いてみる。

「あの、この城の城門は何時まで開いているのでしょうか?」

「城門? 城門ならもうとっくに閉まってるよ。2時間位前にもう閉めた筈だよ」

「そうですか。それでしたら、この時間帯に城の外を出歩いている様な人間に心当たりはありますか?」


そう聞くと、見張りの騎士団員はうーんと首をかしげた。

「知らないなぁ……少なくとも俺の知る限りでは居ない。どうかしたのか?」

「それがですね……」

レナードは、たった今突き当たりの窓から城の外を移動する不審な人影が見えた事を報告した。

それを聞き、騎士団員の顔が険しくなる。

「……分かった。それは確かに怪しいな。この時間帯なら魔導師達も騎士団員達も就寝の時間だ。俺みたいな遅番担当の騎士団員が

出歩く事はあるかも知れないが、持ち場はこの様に何か特別な事情が無い限り離れてはいけないんだ。……その人影の服装は覚えているか?」

「少なくとも、今の貴方みたいな騎士団の装備ではありませんでした」

更に騎士団員の顔が険しくなる。

どうにも良くない方向に事態が向かおうとしている可能性がある様だ。

「ふむ……人影はどっちに向かった?」

「この方角ですと向こうですね。それ以降は分かりません」

「だったら侵入者の可能性があるな。俺は他の団員と一緒にその人影を探す。君を部屋に送る。部屋は何処だ?」

「あそこの曲がり角を左に曲がって、そして突き当たって右に行った所です」

「それじゃ行こうか」

その場は部屋まで無事に送り届けて貰い、後は騎士団に任せようとしたレナードだったがそうは上手く行かないのが人生らしいと

この後に実感する事になった。


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