A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第43話
「らしい、と言われても……見間違いかもしれない可能性もありますよ?」
思わずそんな疑問がレナードの口をついて出たが、騎士団員は何処か残念そうな顔つきで首を横に振った。
「ううん、それがね……その後に気になってアンリの執務室と寝室にその騎士団員が行ったんだってさ。
そうしたらそこにアンリの姿が無かった。夜の風に当たる振りをして詰め所中を探し回ってみたんだけどそれでも居なかった」
どう思う? とここで問いかけられたレナードにその話は懐疑心を抱かせるに十分だった。
「それは……確かに怪しいですね。でも、そのアンリさんの不審な行動を見たのはその時1回限りだったのでは?」
それに対して、今度は女の騎士団員から情報が寄せられる。
「それも違うわ。その辺境に行っていたグループは結局1ヶ月滞在していたんだけど、アンリ師団長はその間にも
3日に1回はその真夜中に何処かへ出かける行動を繰り返していたらしいわよ」
「結構な頻度じゃ無いですか、それは……?」
「そう。アンリ師団長は気がついているのかいないのか分からないけど、遠征から戻って来る前に思い切って
そのグループのメンバーがアンリ師団長に聞いてみたんだって」
気になる事を聞いてみるのは凄く勇気の要る事だが、今までアンリの過去について散々質問していた自分も
同じじゃ無いかとレナードは思ってしまった。
「それで、聞いてみたらアンリさんはどんな返答を?」
「アンリ師団長が言うには、最近この辺りで気になる事があるから時々様子を見に行っていたんだって。
でも、その内容については全部気のせいだったかも知れないからって教えてくれ無かったらしいのよ」
「俺達もさすがにそれは気になるけど、辺境まではなかなか仕事の都合上行けねーからアンリに聞くタイミングが無いんだ」
ぼやいた騎士団員もアンリの行動には不信感を覚えているらしい。
だが、今の話を聞いていてふとレナードは思い出した事があった。
「そうだ……私からも1つお伝えしなければ。王城で気になる事がありまして」
「城で……って、どんな事だ?」
ぼやいた騎士団員を始めとした騎士団員トリオに、この際だからやはり伝えておくべきだとレナードが思った
この話が後(のち)にレナードの未来に大きく関わって来る事になる!!
「数日前なのですが、私はアンリさんが来るまで待っている様にと言われて王城の一室で待機していたんです。
その時なんですけど、窓の外に不審な影がある様に見えたんです」
「影? 一体どんな影だ?」
ぼやいた騎士団員から詳細な影の形を聞かれたものの、レナードはその時はっきりと影を見た訳では無かったので首を横に振る。
「いいえ……あくまでも、見えた様に思えただけでして、はっきりとした影の形は見ていません。実際にその後すぐ窓の外を
見てみたんですが、それらしい人影も物も何もありませんでした」
「そうか……気のせいだったら良いけどよぉ、もしあんたがまだ気になるってんなら一応アンリの耳に入れておいた方が
良いんじゃねえのか? 俺達もそれなりに巡回を強化してみるからさ」
「分かりました。お願いします」
気になった事を自分1人で放っておくと、後々(のちのち)になって大きな問題に発展する可能性も無きにしも非ずなので
レナードはこうして報告した次第である。
レナードの体感時間的には騎士団員達とかなりの時間を使って話し込んでいたからか、王城に向かうレナードの足取りも急ぎ足である。
黒いブーツの底を石畳にぶつけ、カツコツと音を立てながら王城に向かって進むレナード。
とりあえず外での仕事は今の騎士団員達の場所でもう今日の分は無いので、後は王城に帰ってから何か仕事を振って貰う。
それも無ければ自主トレーニングの為に、王城の広い訓練場を使わせて貰おうと考えていた。
(あそこなら思う存分に身体を動かす事が出来るな)
レナードは国王に謁見した後、アンリに王城の色々な場所を案内して貰った。
王城で住み込みで働かせて貰うとなった事だし、アンリからも伝えられている通り城下町だけの仕事では無く王城内部での
雑用の仕事も発生する。
以前、王城に賊が侵入したと言っていたが自分の様な部外者をこうも易々と王城に招き入れて良いものなのかと当初の
レナードは非常に不安が大きかった。
しかし、それは自分が「異世界からやって来た人間」であると言う事でしっかりと調べ上げられた上に、王城の中でも
常に王城警備の騎士団員達が自分に対して目を光らせているのは、ここ数日の仕事の中で実感する事が出来た。
中途半端に城下町に放り出してそのままにするよりも、王城の人間だけにはレナードの事を周知徹底を図った上で
騎士団の手伝いをして貰った方が管理体制と言う面では都合が良いのだろう……とレナード自身も考えていた。
そう思いながら歩いていると、王城へと何時の間にか辿り着いていたレナード。
急ぎ足だった事もあって早めに着いたのは良かったが、それでも出来るだけ手早く城下町での活動報告をしようと
アンリが居る筈の執務室に向かって歩く。
そして報告も夕食も済んで就寝準備をそろそろ始めようとしていた時に「それ」がふと目に飛び込んで来るのだった。
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