A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第42話
アンリは城に忍び込んだ賊を取り逃がしてしまった。
そしてその責任を問われて辺境に左遷された。
ここまではさっきレナードがこの騎士団員達に聞いた話で間違い無いのだが、だとすれば将来的にアンリは
このカルヴィスに戻って来る可能性があるのだろうか?
その事を騎士団員トリオに聞いてみた所、穏やかそうな口調の騎士団員がそれについて詳しく説明してくれる事に。
「それは……恐らく無理かもしれないね」
「そうなんですか?」
「ああ。この王国騎士団は実力主義だからね。騎士として王国に雇われて身分が保証されている以上、
一応は生活に困る事は無いよ。食べていけるだけの給料はしっかりとそこは契約を交わして決められているから」
でも……と一旦言葉を切って、穏やかそうな騎士は腕を組んでレナードを見つめた。
「1度何か失敗をやらかしてしまったとしたら、それに対してもペナルティはやはり大きいのさ。他の仕事でも
そうだと思うけど、失った信頼を取り戻すにはやはりそれなりの時間がかかるだろう? 何度も言うけど
このリーフォセリア王国騎士団は実力によって上に上がれる者が決まっているからね。逆に言えば、
上の立場に居た人間が下に落ちて来るのも当たり前の事なんだよ」
それはアンリでさえも例外じゃないよ、と穏やかそうな騎士団員が言ってレナードも納得する。
地球でもこの異世界でも、人間の生活システムに関しては魔法があるか無いか、科学テクノロジーが
進化しているのかしていないのかと言う事以外では変わりは無い様である。
(そう言えば、我がヴィサドール帝国軍でも不祥事があって失脚した軍人を何人か見て来た覚えがある)
それと同じで、アンリがこの帝都カルヴィスに戻って来られる様になるのはまだまだ先の話か、
もしくは一生戻って来られないのか分からない。
それに、仮に戻って来られる様になったとしてもアンリ自身には「戻りたくない」と言う気持ちがあるかもしれない。
その辺りは個人の問題になるので、レナードが口を挟んで良い様な事で無いのは本人が良く分かっている。
なので結局、そうですかと一言の返事しかレナードには出来なかった。
しかし、騎士団員トリオにとってはやはりレナードがアンリについて聞いた事が気になる様だ。
「あんたはアンリの事が気になってるのか?」
「この世界に来て、私を保護して下さった方ですから。そのお方の過去が少し気になったものでして」
「あら、そうなの。アンリ師団長なら今はまだ城に居る筈だし、これから貴方も城に戻るんでしょう?」
「はい、このまま戻ってアンリさんに色々と報告がありますから」
「帰りが遅くなった事を何か言われる様だったら、別に僕等と話し込んでいたって事は言っても大丈夫だよ」
「はい。ご配慮ありがとうございます」
ここでこの騎士団員トリオと結構話し込んでしまった為に、これ以上戻るのが遅くなったらさすがにまずいだろうと
言う事で足早にレナードは城に戻ろうとした。
……のだが、どうやらまだレナードは城に戻れそうに無い話がこの後、穏やかそうな騎士団員の口から出て来る事になった。
「あ、そうだ……ちょっと待って!」
「何ですか?」
「君はアンリの最近の噂について聞いているかい?」
「噂……?」
噂とは一体何なのだろうか。
自分がアンリに対して聞いている噂と言えば、今までこの騎士団員トリオから聞いていた王都カルヴィスから辺境の地へと
左遷された事件のきっかけ位のものだったが、それは今のこの話し込んでいた時間で解消された。
つまり、それ以外の噂については何も聞いていないのが今のレナード。
「いえ、存じ上げませんね。アンリさんの噂で、何か私に伝えたい事があるのですか?」
「う、うう〜ん……まぁ伝えたい事と言えば伝えたい事なんだけど、これを知って君がショックを受けないかと思ってね」
「……一体何なのですか」
呼び止められた割には、穏やかな騎士団員の口籠るその態度にレナードは若干イライラした声のトーンが出てしまう。
「話しても良いんじゃないのか? 口は堅そうだし」
「それに、この噂はアンリのそばに居る人間には伝えておかなければならない事に違いないわよ」
残りの2人の騎士団員に文字通り背中を押され、口籠っていた騎士団員はまずレナードに約束してほしいと前置きを述べる、
「じゃあ、君の心の中にまだ留めておいてくれるかい?」
「分かりました。それで、アンリさんの噂とは一体どの様なものなのでしょうか?」
そう聞かれ、意を決した様に騎士団員が話し始める。
「これは以前、そのアンリが居る辺境に遠征に行っていた僕達の知り合いの騎士団員達から聞いた話なんだけど……アンリが
ちょっと変な事をしようとしているみたいなんだ」
「変な事?」
一概に変な事と言ってもその中身によるだろうと思いつつ、レナードは黙って話の続きを聞く。
「うん。アンリは仕事が終わった真夜中辺りに、自分の馬を走らせて何処かへ出かけるのを目撃したんだって。
夜にトイレをしに起きた騎士団員が見たって言うから、寝ぼけていた可能性もあるかもしれない。
だけど窓から見えた背格好とあの黒いハルバードはアンリの物だったらしい」
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