A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第39話
突然、ボソッと騎士団員の1人がぼやいた。
「まぁこう言う時でも無けりゃあ……あのアンリが俺達の勤務するこの王都に戻って来る事なんて無ぇよなぁ」
「えっ?」
荷物の整理をしていて、サインも貰ってさぁ帰ろうとしていた所に聞こえて来たそのぼやきにレナードの耳が反応した。
「あのアンリ…とは?」
「あれ、聞いてないのか? 昔は王城に勤務していたアンリが、今は何であんな最果ての地まで飛ばされてしまった理由」
「いいえ……個人のプライベートな事ですからそれは失礼かと」
「真面目だねえ……」
横に首を振ったレナードに対して、ぼやいた騎士はレナードが堅物な性格だと言う事を見抜いたらしい。
その横からは別の騎士団員の女が話し掛けて来た。
「結構これ、有名な話なのよ。アンリ師団長は大貴族の出身で王城に勤務している結構上の身分の人間だったけど、
辺境に飛ばされるだけの理由を作ってしまったのは私達城下町勤務の騎士団員達にも知れ渡る位だったからね、この話」
「そうそう。アンリから聞くのが気が引けるって言うなら、僕達から聞いた話って事にすれば
良いだろう? アンリもここには居ないんだしさ」
何だか上手く言いくるめられている様な気がしているが、正直に言ってしまえばレナードもアンリの過去の
エピソードには興味が無い訳では無かったのでここは聞いてみる事にする。
「じゃあ……お願いします」
「そこまで引き気味に聞く様な話でも無ぇよ。アンリが王城に勤めていたのは随分前の話になるんだけど、
結論から言ってしまえばあいつは王城の警備の仕事で失敗してしまったから、結果としてあんな辺境の警備隊長の
仕事を任される結果になっただけなんだ」
要は左遷って奴さ、と付け加える最初にぼやいた騎士団員と女の騎士団員、そしてアンリには黙っていれば良いと
提案した騎士団員の3人はその失敗の内容を事細かく説明し始める。
「失敗の内容って言うのは、その当時王城の警備をアンリが担当していた時間……真夜中だったんだけどね。
その真夜中の時間に王城に忍び込んだ族が居たのよ」
「賊が? 王城にですか?」
王城と言えば警備が厳重で当たり前だというイメージをレナードは持っている。
地球で例えてみるならば、それこそ軍の機密情報を管理している様な場所に侵入する様なものであろう。
「王城に侵入出来ると言う事は、かなり腕の立つ賊だと見受けられますね」
レナードの予想に女の騎士団員は頷く。
「そうなのよ。王城の警備は元々厳重過ぎる位だったんだけど、その時に城に侵入出来た族はその警備を
ものともしない様子で忍び込んだらしいわよ。私達の様に詰め所で働いている人間には王城に行く機会なんて
滅多に無いから、これは全部王城で働いている知り合いから聞いた話なんだけどね」
「えっ? でもさっき有名だって……」
単なる噂話として有名になっただけなのか? とレナードは首を傾げるが、もう1人の騎士団員が話に補足をして行く。
「ああえーと、有名って言うのはその後の事だよ」
「後?」
「そう。その族は王城の中で色々と暴れ回った後に城下町全域でも縦横無尽に暴れ回って、それが切っ掛けで
僕達も叩き起こされて捕まえに走る事態になったのさ」
「となれば城下町でも有名な話なのは間違い無いですね」
改めて納得したレナードだったが、その話の中身がアンリの過去として記録に残っているらしい。
「当時のアンリは王城の警備責任者、つまり警備隊長の任務をやっていてね。アンリの部下が王城に忍び込んだ賊を発見して、
それこそ大捕り物になったと言う訳さ。王城中をその族は逃げ回り、仕舞いには城のバルコニーの1つから夜空に向かって
飛び立ったと聞いている。そして、僕達の職場である城下町へと逃げ出したのが始まりさ」
「……それで、結果的にその賊は捕まったんですよね?」
まさかこの大人数が居て逃がす方が逆におかしいだろうと考えているレナードだが、そのおかしい予想はどうやら的中して
しまった様で最初にぼやいた騎士団員が首を横に振った。
「いや、捕まっちゃいねえ」
「はい?」
「捕まえられなかった。この王都カルヴィスのその広さが逆にその賊が逃げ切る為の手助けをしてくれたのさ」
「ここの広さがですか?」
まさかの捕まえられないと言う結果報告にレナードは唖然としつつも、その話の続きが気になるので自分の予想も交えて
質問して聞き出してみる。
「それはつまり、このカルヴィスの町の広さと複雑さを利用した多くの隠れ場所に潜んだ……とか?」
その予想も当たりだった様で、女の騎士団員が首を縦に振った。
「その通りよ。カルヴィスはこのリーフォセリア王国の首都と言う事もあって、他の王国の町や村なんかとはそれこそ
比べ物にならない程広いわ。まぁ、首都が広いって言うのは他の国でも同じ様なものだけど」
女の騎士団員が話すには、王城の中から飛び出して来た賊の人数は報告によれば1人しか居なかったらしい。
しかしその1人と言う人数の少なさが移動する際の身軽さと言う武器に繋がり、大勢で行動する騎士団員達の目を
盗んでまんまと逃亡したと言うのが結末だったのだ。
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