A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第37話


(……ん?)

自分の視界の端で何かが動いた気がする。

そう思ったレナードはすっと素早く立ち上がり、その「何か」が動いた様な気がする方向に目を向ける。

一体何が動いたのだろうか?

自分の気のせいかもしれないが、もしかするとこの城に忍び込んだ怪しい影がうろついているのかもしれない。

願わくば前者であってほしいと思いつつ、レナードは何かが動いた様な気がする窓に向かって足音を限界まで殺しながら近づく。

そして窓のそばの壁に背中から張り付いて、窓の外の様子を窺った。

(……気のせいか)

特に窓の外の様子に変わった所は見られない。

1階部分の部屋である為に、窓の外には城の庭の一部分が見える。

城自体が高い城壁で囲まれている為に城下町こそ見えないものの、明かり取り用の窓としては十分過ぎる程であった。


どうやら本当に自分の気のせいであると思ったレナードの耳に、その時コンコンとノックの音が聞こえて来た。

「アンリだけど入っても良いか?」

「は、はい!」

背中で壁に張り付いていたレナードは、そのノックに若干あたふたした声色ながらも返事をしつつソファーのそばに戻る。

これで来客を迎える為に立ち上がった様に見せられるからだった。

「あんたの処遇が決まったから話したい」

「本当ですか?」

「そうだ。とりあえず座って話そう」

部屋に入れられて待ち続ける事およそ30分。

ずっとこのまま待ちぼうけだけは勘弁して欲しいと思い始めていたので、レナードにとっては丁度良いタイミングだ。


「まず、これからあんたには色々と検査を受けて貰う事になる。仕方の無い事情があるのかも知れないと言うのは

俺が聞いた通りだが、こちらとしてもやはりこのリーフォセリア王国に対しての不法入国者と言う事になるからな。

あんたがこの国に対して危害を加える気が無いって事は陛下や宰相に説明しなきゃならない」

「ええと、ちなみにその検査の内容って言うのは……?」

「今までの事情を自分の口頭で説明をして貰う他に、持ち物検査を今一度させて貰う。後は何か病原菌を

持っていないかの健康検査、自分の素性をこれも自分の口で話して貰わなきゃな。アルジェルの町で色々と

調書を取らせて貰っただろうが、異世界から来たとなると我が国でも全く初めての事だから正直に言って対応に困るんだ」


もしヴィサドール帝国で同じ事が起こっているとしたら恐らく自分達も同じ事をするんだろうと納得しつつ、レナードは了承の意を見せる。

「分かりました。その後はどうなるんですか?」

「俺も実はそこについてはまだ聞いていない。でも、身分がきちんと証明出来てこの国に危害を加える気が無いと言うのが

分かったら処刑とかそう言う事は無いから安心してくれ」

とりあえず、弁解の余地無しで殺されてしまうと言う訳では無い事が分かっただけでもレナードにとっては一安心である。

「それじゃあ行こう。余り待たせるのはまずいからな」

「はい」

この先の処遇がどうなるのかは不安であるが、真面目に正直に答えれば良いだろうとレナードは変に気負わずに検査と

面談に臨む事にした。


結論から言ってしまえば、レナードの処遇に関しては彼が思っていた程大層なものでは無かった。

魔術を使った健康診断では、全く体内の魔力が無い事以外は健康そのものとの結果が出た事から始まって怪しい物を

あの没収されたスマートフォンとボールペン以外に持ち込んでいない事もきちんと証明された。

勿論、この世界にやって来てしまった時から持っていたボールペンとスマートフォンについては事細かく聞かれたので知りうる限りの

知識で答え、その後に王国の研究者達の前でスマートフォンの実演をしてみた所、驚きと感嘆が入り混じったリアクションをされた。

ちなみにスマートフォンに魔力を当ててみた所、何の反応も無かったらしく結果としては危険物扱いは受けなかった。

ただし、もう少し詳しく調べてみたいとの話を持ち掛けられたのでレナードは承諾した上で一旦スマートフォンを返して貰ってから、

城の中で生活する為に与えられた部屋に向かった。


(ふう、面談なんてもう長い事やって無かったし……やったとしても私は面談をする方だからされる側になったのは久々だったな)

それなりに長い時間付き合わされ、なおかつその相手がこのリーフォセリア王国のトップの存在である国王陛下や王国の政治を

担っているトップの宰相等と言ったそうそうたるメンツの前だったので、幾ら冷静沈着な性格のレナードですら緊張を隠し切れなかった。

(しかし、私でさえ自国の皇帝の姿は遠目でしか見た事が無かったと言うのにまさか国王陛下と謁見する事になるとは……)

国どころか世界が違う上に、大尉と言えどもただの1人の軍人である事に変わりの無い自分が国のトップである人間に

謁見する時が来るなんて思ってもみなかったレナード。

感動と興奮と驚き、そして威圧感もミックスされた空気の中で何を喋ったかまでは良く覚えていなかったが、こうして無事に部屋に

辿り着いただけでも今は良しと思う事にするのだった。


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