A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第36話


レナードはゴソゴソと軍服のポケットを漁り、あの丘で確認した時以来のスマートフォンを取り出した。

そしてカメラアプリケーションを起動して、アンリが指を差していた方向に向かって1枚の写真を撮影した。

その様子をアンリは不思議そうに見つめている。

「これでいかがですか?」

撮影した写真を記録したスマートフォンの画面をアンリに見せると、アンリの顔がみるみる内に驚きのものに変わって行く。

「これ……は……!?」

「こちらの世界には、こう言ったテクノロジーはございますか?」

期待半分、自慢半分でアンリにそう聞いてみたレナードだったがアンリの答えはそのどちらでも無かった。

「……仕方が無い。これも文献に載っていた事なのだが話すしか無いだろうな」

「えっ?」


文献と聞き、もしかしたらとレナードの頭の中に1つの仮定が生まれたがここは黙ってアンリの話を聞く事にした。

「城に記載されている文献の中に、古代のテクノロジーの中にはこうして風景の一部をそのまま切り取って

記録出来るものがあったらしい。それを人々は『マジックショット』と呼んだそうだ」

「マジックショット……」

いかにもそれらしい名前だなと感心するレナードの前で、そのマジックショットに関してのアンリの説明が続く。

「風景の一部を切り取る事で、画家に事細かく描いて貰いたい題材を説明せずともそのマジックショットの記録を

紙に貼り付けた物を見せる事で、いとも簡単に画家に依頼が出来る様になった」

アンリはそこで一息置いて、更にマジックショットの話を続ける。

「一部を切り取る事が出来るのは風景に限った話では無いそうだ。人の顔を記録する事も出来るし、

その時その場所で何が起こったかと言う事の証明の為にこのマジックショットが使われる事もあった。

最初はマジックショットのテクノロジーを搭載した道具は貴族だけの持ち物だったが、次第に庶民の間にも広まって行った」

そのマジックショットと同じ様な物が、あんたの世界には存在しているのか?」


これを見る限りではそうなんだろうけどなとアンリが最後に言うと、レナードがスマートフォンについて説明する。

「これは以前お話ししたテクノロジーの集合体と言える物です。風景の一部をこうして切り取って記録する事が出来る機能の

他にも、国をまたぐ程遠くに居る人間とその場から動かずに会話が出来たりしますし、遠くに居ながらにして一瞬で手紙を

送れる機能がついていたりもします」

「……」

それを聞き、アンリは黙り込んで何かを考える仕草を見せる。

「どうしました?」

「ん……いや、ちょっと気になる事があってな。とりあえずまずは王都の中に入ろう。話はそれからだ」

「分かりました」

自分がスマートフォンの機能について説明した途端、アンリの様子が明らかにおかしくなった。

文献の中に電話やメール機能が備わった、古代のテクノロジーの道具の情報でも記載されているのだろうかと

レナードは色々と憶測を立ててみる。

しかし、それはやはり憶測の中での話にしか過ぎないのでまずは王都の中にアンリと一緒に入る事にした。


そして、今。

地球のヨーロッパに位置している帝国の軍人は、城に連れて来られて応接室の様な場所へと通されていたのだった。

アンリに案内されるのかと思いきや、アンリとはまた別行動を取る形となったレナードは持ち物検査をくまなくされて

スマートフォンとボールペン3本を没収されてしまった。

別に見られてやましいデータはスマートフォンの中には入っていないのだが、現代人の性なのか何だかスマートフォンが無いと落ち着かない。

何か無いだろうかと部屋の中を見渡してみるも、綺麗に整えられている花が花瓶の中に入れられてテーブルに置いてあったり、

壁に掛けられている高級そうな絵画がその存在感を醸し出していたり、窓から差し込む太陽の光が綺麗なだけで他には何も無い様である。

(私以外の軍の人間は、今頃どうしているのだろうか……)

まだこの世界に来て数日しか経っていない今の状況である。

にも関わらず何だか慌ただしい事の連続だったが、一旦こうして1人になってみると自分でもこうしてソワソワとしてしまう程に

落ち着きを失っている事が分かった。

これはスマートフォンを没収されてしまった事とはまた別の理由、すなわち自分の中にある「地球に帰りたい」と言う気持ちが

そうさせているのだろうとレナードは自己分析する。


(やはり、私の居場所はあのヴィサドール帝国軍なのだろうな)

これから自分がどう言う扱いをされるのだろうか?

もしかしたら、最悪の可能性として異世界人と言うだけで拷問にかけられる可能性も完全に否定は出来ないのだ。

(それだけは勘弁して貰いたいものだ)

唯一この世界で自分が頼りに出来る存在であるアンリとも引き離されてしまった以上、不安はやっぱり付きまとう。

そして、自分の居場所は自分が所属しているあの帝国軍の中にしか無いと言うのを無意識に思っている事が、

この落ち着きの無さの原因に繋がっているのでは無いかと改めて不安になって来たその時だった。


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