A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第30話
アンリが素手で戦える事はもうあの路地裏でレナード自身が見ているから分かっているが、
考えてみればアンリが武器を使って戦う所は見た事が無かった。
彼の武器はあのアルジェルの町にある詰め所の時から装備していて、当然ここにも今持って来ている
黒いハルバードなのだろうと予想がついた。
「となれば、アンリさんはそのハルバードが愛用の武器であると?」
「そうだ。まぁ一目見れば分かるわな。ちなみに騎士団では素手の格闘戦のトレーニングもするし、
ハルバードもそうだけどそれ以外に剣のトレーニング、槍、弓、斧に盾に馬術、銃ももちろんやるからな」
アンリ曰く、騎士団ではリーフォセリアに限らず何処の国でも大体同じだと言うのだ。
一通りの武器のトレーニング、それから武器を失ってしまった時の格闘戦のトレーニングらしいが、
それはヴィサドール帝国のトレーニングカリキュラムでも似た様なものである。
それをレナードがアンリに伝えた所、アンリは「何処でも同じ様なもんなんだな」とポツリと呟いた。
「色々な部署がありますから訓練の内容は少し違ったりするんですけど、基本的に軍に入隊したら
最初は身体作りをさせられますね、我が軍では」
「そうなのか。ちなみにあんたはどう言う部隊に所属しているんだ?」
前線部隊に勤務しています、と答えられれば今の自分はまた違ったのかもしれない。
でも別に嘘をついてまで自分のプライドを優先させる程の事では無いし、何より惨めなだけだと思って正直にレナードは答えておく。
「私は後方支援の部隊に所属しております」
「へぇ、後方支援って事はあれか? 前線部隊の連中のサポートをしたり指示を出したりするって事か?」
「そうです。必要な備品の補充をしたり、今の戦場の状況を把握して指示を出したりですね」
実際の所では後方支援部隊から司令部にステップアップして行く立場であり、役割も下の階級の人間と
上の階級の人間では色々とやる事が違って来る。
幾ら望まない仕事であるとは言え、大尉の地位に就く位まで長く勤務していればそれなりにプライドが出来ている。
「戦闘訓練はしているのか?」
「はい。と言っても普段の業務が業務ですから、自主的な鍛錬しか出来ていないのですが」
「成る程な。後方支援部隊と言っても色々と種類があったりするのか?」
「そうですね。非常に多くの業務が存在しています」
どうやら軍の構造はこちらの世界でも地球でも同じようなものだとレナードは察知する。
ヴィサドール帝国軍でレナードの所属している陸軍の後方支援部隊では指揮支援から始まり、部隊の要となる後方支援、
武器や備品等を輸送する為の交通や輸送関係の業務もある。
他にも作戦情報関係や軍事訓練区域を管理する仕事もあったりするので、一言で後方支援部隊と言っても
その中での業務は非常に多岐に渡るものなのだ。
そんな多岐に渡る業務や部署の内容を一通り頭に入れているレナードに対して、アンリはこんな事を聞いてみる。
「分かった。そう言えばあんたが自主的に習っているのはプロレス……だったか?」
「そうです。プロのレスリングですからプロレスです」
「金を貰えるレベルと言う訳だな。それで……俺と前に手合わせをした時には素手で勝負した訳だが、プロレスには
武器を使った戦い方はあるのか?」
レナードは以前の手合わせの苦い経験がフラッシュバックしながらも、そう聞かれてみれば武器を使う事については
説明していなかったなと思い至った。
だけど武器を使う事に関しては、プロレスの場合は他の武術と違って特殊な状況での使用になる為に説明がしにくい。
「プロレスの場合は武器を使う事もあります。ですが状況によりますね。分かりにくいと思うので、それを踏まえた上で長くなっても良いですか?」
「勿論だ。時間ならたっぷりあるからな。分かりやすく説明してくれよ」
アンリからの了承も貰った上で、レナードはプロレスでの武器の使用について説明を始める。
「プロレスは四角い舞台の上でやる競技です。舞台の四隅に柱を立てて、柱同士をロープで結んでその中で戦います。
ですが、普通の戦いと違って最初から勝負が決まっている見世物の場合もあるんです」
「へぇ? だったら最初から誰が勝つか決まってるけど、その過程が重要って事か。それこそこっちの世界にもある様な演劇とかと同じで、
決められた台本に沿って展開するって言う話だろ?」
レナードに問いかけるアンリに対して、問いかけられた方のレナードははっきりと縦に首を振った。
「台本がある事を公表している試合もありますから。ですが勝敗が決まっていないものもありますので全てが全てではありません。
そして見世物と言う事で迫力を出した戦い方をするのがプロレスなのですが、そうした戦いの中で武器を使うんです」
その瞬間、アンリの目がギラリと輝いた事にレナードは気が付いた。
「さっきあんたも言ってた様に、普通の戦い方じゃないみたいだな。どう言う武器があるんだ? それからどうやって使うんだ?」
次々に出て来るアンリからの質問に、レナードは冷静に答える事で今まで覚えて来た事の復習としようと決意した。
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