A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第31話


「武器は例えば椅子とか、それからフォークとかですね」

「えっ?」

「意外ですか?」

「ああ、かなり意外だった。まぁ理由があるんだろうから続けてくれ」

今までの輝きを見せていた眼差しから一変して、アンリはキョトンとした顔つきになる。

その表情の変化を見て、レナードはそれも仕方の無い事だろうと思いつつ説明を続ける。

「確かに意外でしょうね。普通の武器と言えばそれこそアンリさんが使ってらっしゃるハルバードやロングソードでしょうから。

プロレスでそう言う武器を使うのは、先程お話しした見世物と言う舞台だからです」

「迫力を出す為……か?」

「はい。野蛮ではありますが、プロレスの試合ではそうした身の回りにある物を凶器として使用し、流血沙汰は勿論の事

乱闘騒ぎに発展する事も当たり前の世界です。勿論、台本がある上での乱闘騒ぎと言うのもありますが本当に

腹が立ってしまって乱闘になる事もあります」


「そう言う乱闘に見世物の要素があるならば、当然観客も居るのだろうが巻き込まれたりしないのか?」

何処か引き気味の声色でアンリが発したその質問に、レナードは頷きながら答える。

「こればかりは乱闘も含めた上での試合ですし、お金を払ってそう言う試合を見に来ている訳ですから自分の責任になります。

そもそも、乱闘は選手同士だけでは無いんです」

「はぁ?」

アンリにとっては理解が追いつかない。何故選手同士だけで乱闘が収まらないのだろうか?

その疑問にもレナードはしっかりと答える。

「プロレスと言うものは色々な派閥がありまして。その派閥で揉め事があるのが当たり前の世界です。試合前にお互いの

派閥の選手を挑発したり、試合後に挑発したり。中には試合の最中に挑発して、そして挑発に乗ってしまった選手、

それから関係者として来ていた他の選手や関係者が挑発をした側の派閥の選手や関係者と乱闘を起こすんです。

それからその試合を見に来ている観客に被害が及ぶ事もあったりしますし、解説を務めている人にも同じ様に

巻き込まれる事があります。中には解説をしている人にわざわざ向かって行く場合もありますね」


「そ、それは大変だな……それも台本なのか?」

更に引き気味になってしまった返事をするアンリに対し、レナードははっきりとうなずいた。

「そうです。さっきの凶器攻撃もそうですし、そう言った乱闘も全てをひっくるめた上でエンターテインメントとして

成り立つ見世物、それがプロレスなんです」

「そうなのか……であればやはり戦う為と言うよりは人々の為の娯楽と言う感じだな」

「はい。見ている分には迫力があって楽しいっておっしゃる人も居ますので」

「確かにそう言う血みどろの戦いを楽しむ人間も居るな」

引き気味ではあったものの、プロレスと言う物がアンリにはこれでどう言うものなのかが大体分かって来た。

そうなると今度はレナードの事である。

「あんたもそのプロレスの世界で活躍していたんだろう? 俺と前に手合わせした時はパワーが足りなかった様に思えたが、

実際のプロレスでの試合運びはどうだったんだ?」


この質問はレナードにとっては苦い経験ではあるが、今までの事を振り返ってみるのも悪くないかと思って素直に答える事にする。

「私は……この通りプロレスの世界で言えば小柄な部類に入ります。どちらかと言えば、プロレスの世界ではアンリさんの様に

大柄で筋肉質な人の方が、はっきり言ってしまえば迫力が出るので見世物の部類ではお客様が集まりやすいでしょう。

ですから、試合運びとしてはパワーが足りない分を自分のテクニックを磨く事で補おうとして来ました。その為の努力も

十分に積んで来たつもりです」

「だが、上手く行かなかった……か?」

その問い掛けにレナードは沈黙を貫く事で肯定の返事とする。

「そうか。でも、不利だと分かってて何でプロレスの世界に入ったんだ?」

アンリにはそこが不思議でたまらない。


数秒の沈黙が続き、意を決した様にレナードはその理由を語り出す。

「憧れ……と言うのはおかしいでしょうか?」

「憧れ? いや、別に俺は変では無いと思うけどな。と言う事は誰かに憧れてプロレスの世界に飛び込んだと言う事なのか」

アンリの答え方にレナードは首を横に振る。

「いえ、特定の選手の誰かに憧れた訳では無いんです。ただ純粋にプロレスの試合を目にするきっかけがありまして、

それでそのテクニックや迫力に魅了されて私もプロレスを始めようと思ったのが切っ掛けでした」

レナードがプロレスに入る切っ掛けになった理由は、別に特段珍しいものでは無い。

しかしそのプロレスでトップの座を1回も取る事が出来ずにその舞台から降りてしまった自分が、以前アンリに負けてしまった事で

結局の所「逃げてしまった」となるのでは無いかとアンリの質問に答えながら思っていた。

(私にとってのプロレスとは一体何だったのだ?)

その疑問を自分は何時か見つける事が出来るのだろうか?

レナードはそんな疑問を覚えずにはいられなかった。


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