A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第15話
なので、この様に危険なテクニックが多くなっている今のプロレス技を安全確認もしない内から安易に
アンリにかける訳にはいかないのだ。
「危険ならば場所を移せば良いのか?」
「そうですね。芝生の上……いえ、出来れば毛布やタオル等を何重にも重ねた、着地の時の衝撃が可能な限り
吸収される場所を作って貰わなければ私としてはお引き受けする事は不可能であると申し上げます」
その真剣なレナードの眼差しに、思わずアンリはこう聞いてしまう。
「もしかして、俺を見くびっているのか?」
「はい?」
アンリが何を言っているのか、一瞬レナードの頭脳を持ってしても理解出来なかった。
師団長の立場であり、辺境の警備の責任者の立場と言う肩書きを持っている程の人物であれば、
当然それなりの体術や武器術のトレーニングを積んで来ている筈だ。
ましてや戦場はプロレスのリングの上とは違ってルール無しの無法地帯。何が起こってもおかしくない以上、
格闘技の世界よりも更に危険なフィールドである事はこの世界に来てからやっと前線に出た経験が出来たばかりの
レナードですら、軍人の端くれと言う事もあり理解出来る。
責任者と言う事でちょっとやそっとの攻撃で動けなくなる訳では無いと言うのは分からないでも無いのだが、
それでもプロレスのテクニックはやはり危険な物ばかりなので何と言われようともレナードは場所を変える事を譲ろうとはしない。
とは言うものの、もしかしたら自分の早とちりと言う可能性もあると思い直してレナードは今のセリフの真意をアンリに尋ねた。
「……失礼ですが、それは一体どの様な意味でしょうか?」
「言っておくが、俺は強いぞ」
「そう言う訳ではありません。ですがプロレス技の危険性は並大抵のものではありませんよ。この世界では確かに
あなたは強いかもしれませんが、プロレスの世界では全くの素人。自分に自信を持っているのは分かりますが、
プロレスのテクニックを1つも知らない内からそう言う事を言わないで頂きたいですね」
自分でもかなりきつい口調になってしまったかなーとレナードは若干後悔してしまったが、それでも自信たっぷりに
プロレスのテクニックを軽々しく見られるのは元プロレスラーとしてはなかなか腹の立つ事であるのに間違いは無かった。
でも、ここで勝負を挑むなんて事をするのはいただけないだろうと思いぐっと我慢する。それ以上何も言わなくなった
レナードに、アンリはついて来いと場所を変える事にした。
「あの路地裏での活躍を見る限りは、あんたに怪我をされたら俺も困るからな」
それはつまり、自分だけが怪我をすると言う事なのか? とレナードはますますムッとする。
(何なんだ、この人の自信は一体何処から溢れて来るんだ?)
その疑問は場所を変えてからすぐに分かった。
鍛錬場から裏庭の芝生のある部分に場所を変更したのだが、ここでレナードは愕然とする事になるのだった。
「では、どの様なテクニックをお見せすればよろしいのでしょう?」
「そうだな、それじゃあ……あの路地裏でやっていたあの飛びつく技を見せてくれないか」
「……分かりました」
言っても分からない様であれば身体で分からせるのも必要だと、もうこうなったら仕方無いとばかりにレナードは一種の覚悟を決めた。
「貴方も受け身だけはしっかり取って下さいね」
それだけを忠告のつもりで言っておき、あの路地裏でリーダー格の男に対して成功させたフランケンシュタイナーを今度はアンリにやる事にする。
「それでは……行きます」
責任なんか取れないからな、と心の中で呟いてからレナードは棒立ち状態のアンリの頭目掛けてジャンプ。
しかしそのままでは到底届かないので、アンリの肩を掴んで腕の力だけで自分の身体を上に押し上げるのと同時にアンリの肩を
下に押して体勢を崩させ、その押した勢いもプラスしたジャンプで肩に乗っかる。
股間にアンリの頭が埋まる姿勢になった所で、レナードは身体を捻って地面に手をつく姿勢を空中で取りながら綺麗に
自分は受け身を決め、アンリを一気に地面へと引き倒す事に成功……。
「なっ!?」
「力が足りんな」
成功しなかった。
何故なら引き倒す途中でレナードは、肩に乗っかった自分の両太ももをアンリが手でがっちりホールドしていた事に気が付いたからであった。
このままでは引き倒す事が出来ない為に何とかアンリの腕から逃れようとするものの、レナードよりも大柄なアンリのパワーは
ちょっとやそっとでは緩みそうに無い。
「ではこちらの番だ」
戸惑う素振りがそれだけで大きな隙になってしまったレナードに対してアンリはそう呟き、太ももを持ち上げてレナードの膝の方へと重力に従って
手を滑らせてがっしりと掴む。そして、そこから元プロレスラーのレナードがこれも教えようとしていたジャイアントスイングをアンリが繰り出した!!
「うう、うおおおあ!?」
ブンブンと音をさせてレナードが振り回され、力加減はしているし緩やかな角度ではあったもののそのまま芝生の生えている地面へと
投げ飛ばされてしまったのだった。
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