A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第16話


「こう言う技、そのプロレス? と言うものにはあるのか?」

「……は、はい……あります……」

呆然としながらもレナードは起き上がり、今の自分の状況を確認。

投げ方が上手かったのか怪我はしていない様で、白い軍服について目立ってしまった汚れをパンパンと手で叩いて払う。

だがそこで、今のアンリの行動に対してハッと我に返ったレナードは怒りの声色で彼に問い掛ける。

「ちょ、ちょっと待って下さい! 貴方が私に対して反撃をしたら意味が無いと思いますけど!?」

「……ああ、そうか。見せてくれって言ったんだから反撃するのも変か」

「変です!」

訂正の意味も込めてはっきり言い切ったレナードに、アンリは1つ頷くと申し出を修正した。


「ならば変じゃなければ良いんだな」

「はっ?」

「この芝生の上で手合わせだ。仕切りなおしで今から始めよう。……今のあんたは劣勢だぞ?」

口元にゆるく笑みを浮かべ、レナードの返事も待たずにアンリが今度は自分から突っ込んで来た。

「な、ななななっ!?」

唐突な展開にレナードは動揺を隠し切れないが、それでも持ち前の冷静さとプロレスで鍛えた足腰の強さで素早く頭を

戦闘モードに切り替えてから横に飛んでアンリの突進を回避。

(まさか、この私が逆にジャイアントスイングで投げ飛ばされるとは!)

プロレス技を実演するつもりが逆にプロレス技を実演されてしまった屈辱。

レナードの精神的ダメージは大きい。


それでも、まだ1回投げ飛ばされてしまっただけなのでレナードも全然戦闘続行可能。

アンリがその気であるならば、レナードも不本意ではあるが迎え撃つだけだ。

突進を回避したその勢いのままで素早くターンし、今度はアンリの後ろからジャンプして彼の首を掴み首を支点にぐるっと

アンリの前に回り込むレナード。

「でぇい!!」

勢いの良い掛け声と共に肩に飛び乗って彼の首に足を絡ませ、再びフランケンシュタイナーをかまして今度は成功させる。

「ぬおう!?」

アンリに足を掴ませる隙を与えない位の高速フランケンシュタイナーで地面に引き倒す事に成功したレナードは、

プロレス技の中で最もオーソドックスな押さえ込みのテクニックである「体固め」に移行する。

今のアンリの様に仰向けに倒れている相手に対し、相手の上半身を押さえ込む形で自分の上半身全体で

覆いかぶさって相手の両肩が上がらない様にする姿勢を取る。

それにプラスして、レナードはアンリがパワー任せに固め技を解除出来ない様に押さえ込む為プロレスのトレーニングで

習ったテクニックの1つとして、柔道の今朝固めでがっしりとロック。


……した筈だったが。

「ぬん!!」

「うわあ!?」

何とレナードがアンリの身体をがっしり押さえ込む前に、アンリはパワー任せにレナードの身体をひっくり返してしまったのだ。

勿論レナードが油断していた訳では無い。

本能的に「これはまずい」と察知したアンリはレナードが押さえ込みを完璧にしてしまう前の中途半端な段階がラストチャンスだと感じ、

持てるパワーの全てを出し切って窮地を脱出する事に成功。

再びアンリが優勢になってしまった。

ひっくり返されたレナードだってアンリにこのまま押さえ付けられる訳にはいかないので、お返しとばかりに自分もアンリの身体を

素早くひっくり返して再度逆転……。

「……甘いんだよ」

「ぐう!?」

アンリはそれを見越してレナードに逆転を許さない様に、ポジションを入れ替えようとするレナードを体格を活かして全力で押さえ込んだ。

レナードはアンリをひっくり返そうとしたがそれは敵わず、のし掛かられたアンリの身体を退ける事も出来ずに、アンリがズボンのポケットから

取り出した銀色に輝く手錠を素早く片手にはめられてしまった。

「はい、これであんたの負けだ」

すぐに外されるまで手首にはめられた手錠の重さが、見かけよりもかなり重く感じた。


その手錠の重さの感覚は、取り外されてかなり時間が経った今でもまだレナードの左手首に残っていた。

手合わせの後で、ひとまずは詰め所に居て貰うとアンリから指示を受けたレナードは寝る場所と食事まで用意して貰ったのである。

その食事を終えて、レナードは割り当てられた部屋のボロボロなベッドに仰向けで寝転がりながら自分の手首を見つめていた。

魔力を利用して部屋を明るく照らし出す部屋の天井に備え付けられているランプが、今のレナードにとってはやけに眩しく感じられる。

その眩しさのせいなのかは分からないが、自然とレナードの目頭がじんわりと熱くなって目の前が潤んで来た。

(あ、あれ……? 何故私は涙なんか流しているんだ?)

アンリに負けてしまった悔しさなのか?

前線勤務を希望していただけに、その前線で活躍する人間との格の違いをまざまざと見せつけられてしまった惨めさなのか。

それともプロレスのテクニックがアンリに少しだけしか通用しなかった、これ程までの実力差があると思い知らされた無力感なのか。

今のレナードには分からなかった。


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