A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第14話


プロレスは基本的にロープを張っているリングの上で行われるスポーツだ。

これはボクシングや総合格闘技も同じで、試合のテレビ中継等を見た事がある人間なら誰でも知っている

有名な初歩の初歩である。

だが、プロレスのリングは時として場外乱闘に及ぶ事が日常茶飯事。

むしろ、その場外乱闘もエンターテインメントの一種であり選手同士の抗争も台本として組み込まれている場合がある。

素手での対決は元より、フォークやパイプ椅子等を使っての凶器でデスマッチを行ったりするので流血も

半端では無い血生臭い世界として見られる事もある。


こんなプロレスの世界で、一応上流階級出身のレナードは最初はそれこそ戸惑った。

だけど、1年プロとして活動した中でこうしたエンターテインメントとして「お客を喜ばせる事が出来る格闘技」の

プロレスの世界を存分に分かり、そして味わう事が出来たのだから悔いは無いとも思っている。

そんな悔いの無いエンターテインメントな世界のテクニックを、まさかこの異世界までやって来て披露する事になろうとは

勿論レナードは予想だにしていなかった。

だけど第4師団師団長であり、辺境ではあるが警備の責任者を任せて貰っている人間直々に頼まれたとあれば

レナードもその性格故に断る事が出来なかった。

でも、この地面で色々なテクニックをアンリにかけるとなると怪我をさせてしまう危険性が高い。

「技をお見せする事自体は構いませんが、ここじゃあ危ないですね」

「危ない?」

「はい。プロレスのテクニックは色々と大きな動きで相手を地面に叩きつけたり、勢い良く身体と身体をぶつけ合ったりと

言う動きをしますからこの固い地面でそんな事をすれば最悪命に関わります」


そのダイナミックな技の掛け合い、それから流血沙汰に発展する事も良くある場外乱闘の数々等で、

プロレスでの死亡事故は他の格闘技よりも多い。

実際の所は相手の頭を中心に上半身にパンチを繰り出すボクシングの方が圧倒的に多いのが実情だが、

それでもプロレスも試合中やトレーニング中、または試合後に死に至る可能性がある事が高いのは事実なのだ。

プロレスの場合、選手であるレスラーは他の格闘技と同様に厳しいトレーニングを積む。総合格闘技の一種としても

知られているプロレスでは普通のパンチやキック、関節技だけでは無くレナードがあのリーダー格の男に繰り出した様な

ダイナミックなテクニックも含まれている為、特に受け身のテクニックが重要だ。

その他にもパンチやキック等の打撃技、ラリアットやボディプレス等の勢いのあるテクニックによる身体全体への衝撃に

耐えうる様にトレーニングをしたり、試合中に選手同士で間合いを取る為のトレーニングもする。

更には、生命に関わる位に相手選手に負担がかかる危険なテクニックは試合中に限度を決めてなるべく使わない様に

すると言う暗黙のルールで、大怪我をする事はあったとしても最悪の死亡事故は1980年代後半までは非常に少なかったのである。


だが、人間の欲求が更にエスカレートして行くにつれてパフォーマンスに過激さを求める傾向が1990年代に入ってから強くなった。

代表的なものとしては受け身が取りにくいテクニックが多く考え出されて、しかもそれを多用するスタイルが人気を博す様に

なってしまった為に1980年代と比べて確実に身体へのダメージが大きくなったのは言うまでも無い。

身体へのダメージが大きくなると言う事は、怪我のリスクもそうなのだがそれ以上に後遺症が残る程の深刻な後遺症を

与えてしまう可能性がアップする。

それから運営スタイルの変化も死亡事故の増加に繋がった。

自分の経済面での都合だったり団体の運営状況、興業上の都合だったりで、怪我から癒えていない状態の選手がリングに上がり、

そして危険なテクニックの応酬で最終的に命を落としてしまう様な事故に繋がった事故の例も見られる様になった。


例えば日本においては、小さな会場で簡単に興行を行える風潮が強くなった結果としてトレーニングも満足にしていない様な

素人同然のレスラーがリングに上がり、そして怪我をする危険性がまた増えてしまう事になっている。

テレビ番組などの企画で芸能人等の本職レスラー以外の人間がリングに上がって戦う事もあり、その場合も同じく付け焼刃程度の

トレーニング、あるいは全くトレーニングをしないで戦う事になるのでますます危険性がアップする事はイメージしやすいだろう。

こうした怪我やアクシデントに対して迅速に対応する為に必要な「リングドクター」の存在があるのだが、このリングドクターについても

資金面等の問題で大手団体以外は常駐していないのが実際の所だ。

レスラーやレフェリー等が救急救命講習を受ける事はあってもそれ自体もまだまだ浸透しておらず、この様なアクシデントや怪我に対しての

取り組みは日本では甘いと言わざるを得ない。

レナードもプロのレスラーとして活動していた時は、この様なアクシデントの危険性は十分理解していたのでアンリの申し出に

条件を付ける事にしたのである。


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