A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第12話


魔道具を試すのであれば身体能力のチェックもしたいと言う事になり、取調室から移動して

詰め所の中に存在している訓練場へとアンリに案内されるレナード。

小さな体育館位の広さはあるが、今の時間帯は誰も使っている人間が居ないので気兼ね無く

身体を動かす事が出来る様だ。

しかし今はまず、魔道具を装着した上で自分の身体能力がどうなるのかと言う事をチェックさせて貰うのが

先なのでレナードは軽くストレッチ。

レスリングに限らず、どんなスポーツでもストレッチをして身体をほぐす事は重要だ。

身体が暖まらずに負けてしまうだけならまだしも、思わぬ事故に繋がって怪我をしてしまっては選手生命にだって関わる。

最近は合同訓練の準備でなかなか身体が動かせなかった事もあり、さっきの路地裏での戦いの時には

怪我をしないだけ良かったと思い返しつつストレッチを続ける。


(特に股関節はしっかりやっておかないと……)

相手に飛びついたり、足を使って投げたり、ドロップキックをしたり、組みついてから相手を地面に叩きつけたりと足を使う事が

多いプロレスでは、そう言う動きをした場合に足の踏ん張りが足りないと自分まで一緒に体勢を崩して自爆してしまうだけだ。

そうで無くても股関節をストレッチする事で身体が暖まるので、それだけでも効果は他の部分のストレッチよりあると言われている。

十分にストレッチをして身体を暖めたレナードは、いよいよその魔道具と言う未知の物体を自分に装着する事に。

「普通に腕に取り付ければ良いんですよね?」

「ああそうだ。そのまま腕にはめてみるだけで、驚く程世界が変わったのを実感出来る筈だぞ」

若干誇らしげにそう言うアンリは更にこう続けた。

「もし可能であれば、俺と手合わせをしてくれないか? あんたがあの大男を投げ飛ばしたのを俺は見ていたからな。

どんなテクニックなのか知りたいんだ」

「私とですか? 分かりました」


レナードが路地裏であのリーダー格の男を投げ飛ばした事もあり、彼の体術にはアンリも非常に興味があるらしい。

だから自分自身が模擬戦の相手をしようとわざわざここまで連れて来たのだが、レナードが腕輪状の魔道具を受け取って

いざ取り付けようとした……その瞬間!!

「……ぐぅっ!?」

「うわ!?」

一瞬の出来事だった。本当に突然だった。

それでも、その出来事がレナードとアンリに与えたインパクトは非常に大きいものであった事は間違い無かった。

「……えっ?」

「な、何をした!?」

「い、いや私は何もしていません!! これをつけようとしたらいきなり……」

冷静な性格のレナードも流石にこの事態には動揺を隠しきれるものでは無い。


一体何が起こったのか?

それは、レナードがアンリから受け取ったリングに腕を通したその瞬間だった。

いきなりそのリングから強くて眩しい光と風船が破裂する様な音、そして腕全体に広がる何とも言えない痛み。

この3つが原因で、思わずリングを地面にレナードは落っことしてしまった。

「あ、あの……このリングには何か仕掛けがしてあるんですか?」

率直な疑問をレナードはアンリにぶつけてみるが、アンリも状況が呑み込めていない様で困惑した表情で否定する。

「仕掛けだって? とんでもない。それは俺が日常的に身に着けているものだぞ。いわば貴族の婦人達が身に着けている

ネックレスやイヤリングと同じだ。それに仕掛けが施されているなら俺が見てみたいものだ」

アンリの表情や声色を感じる限り、レナードはアンリが嘘を言ってない様に思える。


「確かに、貴方が私に対してその様な事をするメリットはありませんね」

違う世界から来た、そして魔力を持っていないと言う怪しい人物ではあるもののリーダー格のあの男にプロレス技で

応戦した以外では、アンリを始めとした周りの人間に危害を加える様な事はしていない。

アンリはわざわざ仕掛けをしてまでこんなイタズラをする様な性格でも無さそうだ。

だとしたらリングから謎の現象が起こったのは自分の身体に原因があるのでは? とレナードは考えた。

「もしかして、私の身体が原因では無いでしょうか?」

「え? 何か持病があるのか?」

「いえそう言う事では無くて、私の身体には魔力が無いって事ですよね? もしかしたら、その事とこの魔道具の今の現象に

何らかの関係があるのかもしれません」


レナードは更に自分の予想をアンリに聞かせる。

「アンリさんは私に対してこの様な事をする意味が無いですよね?」

「そうだな」

「それに日常的に身に着けていらっしゃる物であれば、そもそもイタズラをする意味も無いですしただ単に手間が掛かるだけですよね」

「ああ。そんな面倒くさい事をする程、俺は暇な人間じゃ無いからな」

「だとすると私も特に自分に何かをした覚えがありませんから、考えられるのはやはり私の身体そのものに原因があるのでは無いでしょうか?」

落ち着いた口調で自分の意見を述べるレナードに、アンリは内心でしっかりしてるなーと思いつつ頷いた。


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