A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第10話


レナードはそんな気持ちを抱えつつ、アンリと一緒にここまでやって来てしまった。

騎士団の詰め所に。

そして、ここでようやくアンリの正体が明かされる。

「じゃあ、そこに座って」

詰め所と言ってもこれだけの町の大きさ。

交番と言うよりは警察署の分署並の大きさがあり、右へ左へと歩いて到着したのは地球でも良く見かける

取調室とそっくりな造りをしている部屋だった。

鉄製のデスクが1つ、それに向かい合う形で椅子が2つ。

それから調書を製作する為のデスクと椅子のセットが部屋の片隅に置かれている。

見張りの兵士が部屋の外にも中にも1人ずつ立っており監視体制にも抜かりは無い様である。


その警備が厳重な取調室において、いよいよアンリの正体が明かされる。

「では、まず俺から自己紹介をしておこうか」

何処か優雅さを感じさせる動作で椅子にぎしっと音を立ててもたれ掛かり、リラックスした様子でアンリは口を開く。

「俺はアンリ・ルイ・ボワスロ。リーフォセリア王国騎士団の第4師団で師団長を務めている。32歳。辺境警備の責任者だ」

「責任者……」

通りであれだけの人数差があっても全く動揺した様子を見せていなかった筈だ、とレナードはあの路地裏に連れて行かれる

前のアンリの様子を思い返していた。

それに行く先々で兵士達に話しかけられていたのも、責任者と言う立場であるならば……とこれもレナードは納得出来るものだった。


「さて、それでは次にあんたの自己紹介をしてもらおうか」

「あ、はい! 私はレナード・サーヴィッツ。ヴィサドール帝国の陸軍後方支援部隊に所属しております。30歳です」

「ヴィサドール帝国ねぇ……」

聞いた事の無い国だなとアンリは首をかしげる。

だったらこの世界の地図をここに持って来てくれと部屋の中にいる兵士に頼み、その持って来て貰った地図をデスクに広げる。

その瞬間、レナードの表情が凍り付くのをアンリは見逃さなかった。

「……どうした?」

「嘘だ……ありえない、そんな事ある訳無い……」

ブツブツとレナードが呟いてしまうのも無理は無い。

何しろ、レナードにとっての世界地図はその持って来て貰った世界地図と全く一致していなかったのである。

大陸の数は1つ……に見えるのだが、繋がっているのか離れているのか分からない微妙な場所もあったりするので正式な数は分からない。


どう考えてもこの世界地図の形が地球とはまるで違う事もそうなのだが、それよりもレナードにとって重要な事は、

今の自分が居るリーフォセリア王国と言う国が何処にあるのか?

それから前にこの国の隣国に現れたと言う「魔力を持たない人間」はどの様な人間だったのかと言う事だ。

「どうだ、その地図に見覚えはあるか?」

「……いいえ、全くありませんね。私の住んでいる世界の世界地図とはまるで違う物ですよ」

内心は物凄いパニック状態なのだが、それでも何とか冷静さを取り戻して受け答えするレナード。

前線の人間程では無いにせよ、予想外の出来事が前線で起こってしまった場合にはその都度柔軟な対応と

冷静な判断力が求められるので、ここで今までの成果が発揮されたと言えよう。

それがまだまだ出来ていなかったからこそ、5年前の初の合同訓練において苦い思い出として心に残っているのが現状だが、

そこから考えてみると自分も少しは成長出来ているのかな、と心の中でレナードは自分で自分を評価した。


まず、今の自分が居るリーフォセリア王国はこの世界地図で言う所のどの辺りに位置しているのかを聞いてみる事にする。

「ええと、それではこちらから2つ程質問があります」

「何だ?」

「この王国は世界地図のどの辺りに位置しているのですか?」

レナードがそう尋ねると、アンリは調書作成用のテーブルに置いてあったペン立てから羽根ペンを1本拝借し、そのペン先に

ついている黒いインクで王国の位置を囲んで行く。

「この世界の左上に位置している陸地を統括しているのが、俺達が今居るリーフォセリア王国だ」

次に、羽根ペンはスススッと右の方に移動して行く。

「その魔力を持たない人間が現れたのが、このソルイール帝国。しかしソルイール帝国は色々ときな臭い情報があったから、

むしろそっちの方で注目する過程で手に入った情報だな」

「きな臭い?」


と言う事は何かやましい事があったのか、とレナードは想像を巡らせる。

「ああそうだ。余り情報は流れてきていないのだが、国の重要拠点に侵入したその魔力を持たない人間を騎士団長が追い詰め、

逆に殺されてしまったらしい」

「ふむ……」

そう言えばさっき、アンリがその事について少しだけ触れていたなとレナードは思い返していた。

それも含めてやはり、レナードにとってはこちらの方が重要な質問だ。

「では隣の国に現れた、私と同じ「魔力を持たない人間」についても教えて頂きたいのですが」

「俺もそれについては詳しくは知らない。ソルイール帝国のきな臭い話以上に話せる内容は少ないぞ?」

「それでも構いません。お願いします」

自分と同じ魔力を持たない人間。それだけでも重要な手掛かりになるのだから。


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