A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第19話
「うっ……うぐ……」
一体どれ程自分は意識を失っていたのだろうか?
そう考えながらリオスが身を起こすと、既にさっきの集団の姿は周りに1人も見当たらなかった。
周囲にも人の気配は無い、完全にここに取り残されてしまった様である。
手を縛られている状況に変わりは無い事も分かったが、身体は特に異常は無さそうだ。
まずはこの縛られている後ろの手のロープを解くべく、限界まで柔らかい身体を折り畳んで
自分の身体の前に腕を持って来る。そこまで持って来られたら、今度は手首を縛っているロープにリオスはかじりついた。
「ぐぐ……むう……」
手首と口をグイグイと上下左右に動かし、固く縛られているロープを少しだけ緩める事に成功したがまだ解けそうに無い。
(ならば……)
スッとリオスは立ち上がると、近くの岩の壁に自分の手首を縛っているロープを擦り付けて上下に動かした。
そうすると段々ロープが緩み、ついには手首を動かすだけで完全に外す事が出来たのである。
(ふぅ、これで何とか一安心か)
だけど、まだ不安が完全に拭いきれた訳では無い。
何故かと言えば、自分が気絶してしまう前に嗅がされてしまったあの薬の存在に気が付いたからだ。
となれば、その嗅がされてしまった薬が自分の身体にどの様な影響を与えるのかが分からない以上は
まず医者に見て貰うのを優先するべきだと考える。
(しかし、ここから脱出するのが今はやるべき事だな)
はーっと息を吐き、あの気絶の原因でもある殴られた衝撃でまだ少しだけズキズキしている自分の頭を
押さえながらスタスタとリオスは歩き出した。
「暗いな……」
思わずリオスの口からそんな呟きが漏れる。
それもその筈、鉱山の外はもう陽が落ちてしまい真っ暗になっていたからだ。
(今の時間は……)
自分のスマートフォンを取り出して時間を確認しようとしたリオスだったが、考えてみればここは異世界なのだから
時間の概念も違うかもしれないと思い直す。
それでも一応……とスマートフォンの電源を入れる。
向こうの世界では確かに野外訓練の途中だったが、自分の部隊の出番が終わって着替えて他の部隊の演習を
見ていたのでスマートフォンを今自分が着込んでいる制服のコートと一緒に持って来ていたのを忘れていた。
電源を入れ直していなかったのでバッテリー切れに関してはまだ問題なさそうだが、向こうからトリップして来た午後2時の
時間のままで止まってしまっている為にやはりスマートフォンは役に立ちそうに無かった。
アンテナも圏外なのでどこかに電話を掛けるのにも使えない。
それにこんなものを余りおおっぴらに持ち歩いて居たりしたら、誰かに掠め取られるかも知れないと考えも浮かぶ。
なのでもう1度スマートフォンの電源を切り、また何時か使う時の為にバッテリーを節約する事にした。
(一先ずさっきの町に戻るとしよう。そして病院に向かおう。確かに騎士団に捕まる可能性はほぼ100パーセントに近いけれど、
さっきの薬の影響の方が俺には不安要素として大きいからな)
けど、リオスはまだここで動こうとはしない。
この下に広がる木々の間に魔物が居ないとも限らない。まして今は夜だし、見下ろす限りでも真っ暗なこの自然の中を
1人で歩き回って遭難でもしてしまったらそれこそ本末転倒だからだ。
と言う訳で、洞窟のすぐ横で眠って体力を温存すると共に夜が明けるのを待つ事にした。
「……何か、こんな自然を見たのは久しぶりな気がする」
自分が所属している軍を有するヴィサドール帝国でも、地球の国の1つとして自然破壊がそこそこ進んでいる。
勿論自然も沢山ある事はあるのだが、リオス自身が住んでいるのはヴィサドール帝国で3番目に大きい地方都市の軍施設で寮生活だ。
街から程近い所に建てられたその寮ではこうして自然に囲まれた場所と言う訳では無く、こんな大自然の中で寝転がって
星を見る事になるなんて戦場で何時しか体験した事のある野営生活の時以来だった。
前線で活動する事もあった以上、こうした野外生活に慣れていた事がこうして役に立つなんて……とリオスは思わず苦笑いを零す。
(この星を見続けていれば、少しはこの非日常な世界の事も忘れられるかも知れないな)
まさかこんな非日常の世界にトリップしてしまうなんて事なんて無いと思っていたのに、実際に自分はこうしてここに……この世界に存在している。
目が覚めたら元の地球に戻っていれば良いな、と少し期待しながらリオスは意識をゆっくりブラックアウトさせていった。
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