A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第20話
目が覚めると元の世界……では無く相変わらずの状況。しかもゴツゴツした地面でコートを丸めて
寝ていた為に腰と背中が痛いのを認識しながらリオスは起き上がる。
陽は既に高く昇り、周りの環境だけを見てみればここが異世界じゃなくて地球かもしれないとも思ってしまう程だった。
(身体は……まだ何とも無さそうだな)
ネクタイを緩めてワイシャツの胸元から上半身を覗いたりスラックスを膝の関節一杯一杯まで捲って
足の状況も確認してみたが、やはり不格好な体勢で寝ていた事で腰と背中が痛い事以外はこの異世界
エンヴィルーク・アンフェレイアに来る前の何時も通りの自分の身体だった。
……いや、身体が痛い事以外にまだ違う所があったとそこでリオスが気がつく。
(どうやら、まだ俺にはやる事が沢山ある様だな)
自分の手首を見て、リオスの目に静かな炎が燃え上がる。
手首に付いた、あの時のロープで後ろ手に縛られて水責めをされた時の忌々しい痕。
服はとっくに湿気が抜けきって乾いているが、リオスのその瞳に燃え上がった炎は水責め程度では消せそうに無かった。
その為にもまずはあの町に戻る事を今の目的にしたリオスは息苦しさを少しでも和らげるべく、今回ばかりは癖を止める事を
あえて意識してコートは羽織るだけにしてボタンは留めず、ネクタイも緩めたままであの獣道を周りの気配を探りつつ戻り始めた。
「はぁ……」
一旦休憩、と林を抜けた所でリオスは後ろの木にもたれ掛かって日陰で休む。確かに軍人として毎日の体力トレーニングが
仕事の1つではあるのだが、そこはリオスも人間。スタミナだって無尽蔵では無いし歩き続ければ足だって痛む。
おまけに現在35歳のリオスは四捨五入すればもう40代になると言うだけあり、なかなか若い時の様な体力の維持が出来なくなってきている。
(俺も歳かな……)
さんさんと照り付ける太陽を、白い手袋を外した左手でひさしを作って薄くリオスは見上げる。
右手も同じく手袋を外しており、その両方の手袋を顔のそばで右手で振って少しでも暑さを和らげていた。
(季節で考えると今は夏……では無さそうだ。山を下りて来たから暑いと言うのもあるし、太陽の光をこのコートが
吸収しているせいも暑さに関係あるだろう)
そもそも、このエンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界に季節の概念が存在するのかどうかと言う事すらリオスにはまだ分からない。
なので、何時か機会と時間があればもっとこの世界について調べてみる必要がありそうだと実感する。
そんな実感を胸にしつつ、その後もリオスは歩いては休憩を繰り返してようやく夕暮れ時に元の町へと辿り着く事が出来た。
結局はまた振り出しに戻ってしまった訳なのだが。
(まだ金は大丈夫だな)
その時、リオスの腹の虫がぐぅ〜と音を立てる。考えてみれば朝から飲まず食わずで歩きっ放しだった為、身体が水分も食事も欲しがっている状況だ。
手近な町人に酒場の場所を聞き、酒場に足を運んでスタミナなら肉だと肉料理を注文。
ついでに酒も頼もうかと思ったが、自分は余り酒には強くないタイプなので止めておこうと思いここはオレンジジュースで糖分補給。
そうして料理が運ばれて来るまでの間、何と無く店の中をリオスは見渡してみる。
木目調の材質で建設された、地球であれば若干レトロチックな雰囲気の店内には自分と同じく夕飯を摂りに来たのであろう若い男や、
酒と軽い食事を肴にしてテーブルを挟んで仕事の愚痴にに勤しむ2人の女、カウンターでちびちびと酒を呑む中年の男という様に様々な
夕暮れ時の光景を見る事が出来る。
(ナイトクラブみたいだなー……)
リオスは余りそういう場所には足を運ばないのだが、気まぐれで気晴らしに1人でそういう所に行った事位はあるし、同期とのパーティで
そういう場所に付き合った事もある。
そんな過去を思い出させるこの酒場において、何やら気になる会話が聞こえて来たのはそんな時だった。
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