A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第7話
レナードの方も男の表情の移り変わりを見逃さなかった為に違和感を覚えたのだが、今はそれよりも
優先する事がある為に気にしていられない。
「この町は何処の国の、何と言う名前の場所なのでしょうか?」
その問いに、男はキョトンとした表情になってから口を開いた。
「ここはリーフォセリア王国のアルジェルと言う町だ」
「リーフォセリア王国……アルジェル……?」
同じヨーロッパの何処かの小国だろうか?
少なくとも、自分は聞いた事が無い国名であるのに違いは無かったのでレナードは続けて質問をする。
「ヨーロッパ……ですよね?」
だが、この質問がどうやらまずかったらしい。
男の顔がキョトンとした顔からポカンとした顔になった。
「ヨーロッパ……? 何だ、それは?」
(あ……)
どうやら、自分の悪い予想の方向に事態は向かっているらしいとレナードは確信。
その一方で、自分が口に出した疑問符をきっかけに男の口から次々にレナードに対してのクエスチョンがスタートする。
「ヨーロッパ等と言う国は聞いた事が無いな。それにあんたの格好は何だか貴族階級みたいだが、御者とか従者とはぐれてしまったのか?」
「あ、いえ……」
どうにかして悪い予想を良い結果に変える為に、レナードは自分の頭脳をフル回転させてそれらしい理由を男に述べ始める。
「私はお忍びで色々な国を旅している身で、ここまで当ての無い旅を続けて来ました。行き先も特にこだわりが無くて、
それで気が付いたら自分の居る場所が分からなくなってしまいまして……」
「嘘だろ?」
「えっ?」
レナードのセリフを遮って、驚きの意味では無く確認の意味のアクセントで男はそう聞く。
「嘘……と言うのは?」
「だから、あんたの話には真実味が感じられないんだよ。理由言ってやろうか?」
「はい、是非お願いします」
そこまで自信満々に言うのであれば是非とも言って貰いたいものだ、とレナードは心の中で若干ムッとしながら男に願い出る。
そして次の瞬間、今度はレナードがポカンとした表情になるのだった。
「あんたの身体からは魔力を一切感じられないんだよ。こんな事は初めてだ。少なくとも俺は今まであんたみたいな
人間に出会った事なんて無い」
聞いた事の無い単語が出て来た。
「ま……りょく……?」
その瞬間、悪い予感が完全に的中してしまったと少し立ちくらみまで覚えるレナード。
「ああそうだ。魔力を感じられない人間が、この世界に居る訳無いだろうが。エンヴィルーク・アンフェレイアならガキでも知っている
当たり前の話。はっきり言えばこの世界の生物の常識だぜ?」
そんな常識、知らない。
今まで30年間生きて来た自分の人生で、魔力が身体の中にどうのこうのと言う話なんて1度も耳にした事が無いと言うのが
レナードの正直な感想であった。
知らないのはそれだけでは無い。
エンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界の名前も聞いた事が無ければ、リーフォセリア王国だって分からない。
目の前の男はそれが当たり前だという自然な口調なのがレナードにも分かる。嘘では無いだろう。
で無ければ、こんなにスラスラと世界の名前や魔力がどうだこうだとの発言が出切る訳が無いからだ。
もう、この世界は地球では無いのだと完璧に理解してしまった。
「……分かりました。どうもありがとうございます」
と言う事はこれからの身の振り方を考えなければならないと思いながらレナードはその場を立ち去ろうとするが、そんなレナードに男が声をかける。
「待った」
「何でしょう?」
「俺からも質問があるんだけど良いかな?」
その質問の内容はレナードには大体予想出来るが、それでも一応聞いてみる事にする。
「……質問、ですか?」
「ああそうだ。と言っても、あんたの顔を見ると大体予想ついてるみたいじゃないか」
ポーカーフェイスを装っていたつもりだったのだが、それ程までに自分の顔に表情が出てしまっていたのだろうかと困惑しながら
レナードは男の質問を待つ。
「君はこの世界の人間では無いな?」
「……そうだと思いますけど」
やはりそう来たか。
ほぼ間違い無く100パーセント、この様な質問が飛んで来るのでは無いのかと予想していたレナードはまだ戸惑いがちな声色で答える。
諦めが悪いと言ってしまえばそうなるのだが、やっぱりまだこれはタチの悪い夢か何かであると心の何処かで信じているレナード。
夢であるのならばすぐにでも覚めて欲しい。
「何だ、随分と曖昧な答え方をするじゃないか」
「諦めが悪いのかもしれませんね、私は。魔力とか生物の常識等とおっしゃられましても、正直に申し上げますと未だに信じ切れていませんよ。
貴方は嘘をついてない様に見えますがね」
決して意図的に曖昧な返事を選んだ訳では無く、曖昧な返事しか出来ないのが今のレナード。
嘘をついて無い様に見えても、実はこの男がかなり嘘をつくのが上手い人間だったとしたら自分は騙されていると言う事になる。
ならば曖昧な返事をしておくのが今は最良の選択であると思いたかった。
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