A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第3話
そんな毎日を過ごしながら、レナードはいよいよ今年も合同訓練のシーズンを迎える事になった。
今回の訓練は4か国と多いので、色々と準備をするのにレナードはバタバタ忙しい日々が続く。
その後レナードは上官であり、同期の軍人として一緒に後方支援部隊に配属されてしまった
アルジェントと言う軍人の副官に任命された。
このアルジェントと言う軍人は真面目な性格のレナードとはまるで正反対の飄々とした人物で、
軍人らしく無いめんどくさがりな性格だった。
だが、そのアルジェントとレナードに共通する事柄として「前線で働きたい」と言う気持ちがあったのだ。
性格こそ水と油と言える位の違いがある2人だったが、アルジェントとはその理由だけで意気投合するには十分だった。
アルジェントは実の所一時期前線に駆り出されて、人手不足から戦時昇進していた事も
あって色々と前線での話をレナードは聞かせて貰っていた。
その後もレナードの戦闘シミュレーションの勉強や射撃術や格闘術と言った実戦に向けたトレーニングにも
付き合ってくれるアルジェントの面倒見の良さもあって、レナードにとってアルジェントが無二の親友になるまで
そう時間はかからなかった。
飄々として掴み所が無いそんな友人であり上官でもあるアルジェントや、レナードの希望していた前線の部隊で
活躍して来た経験を持っているリオス・エルトレイン等が一緒に演習に向かった。
演習でもレナードの立ち位置は勿論前線になる訳が無いので、上官のアルジェントと一緒に後方支援の演習に徹する。
状況を見極めて前線に必要な物資や武器を送るのもそうなのだが、基本的には支援要請があればその都度
対応しなければならない為に臨機応変な対応と機転の利かせ具合がカギになる。
前線では戦う相手に対して対応し、後方支援部隊は自分の軍の状況をサポートする為の対応と言う、同じ軍の業務でも
少し違う対応の仕方が求められるのだ。
これこそが紙の上でペンを動かすだけでは分からない、演習でも実戦でも実際に動く現場に対してのリアルタイムでの経験なのだった。
理想と現実は違う。
レナードも頭の中で自分では分かっていると思っていた。
だからこそ色々な状況を想定してシミュレーションもして来たのだが、記念すべき最初の合同演習では洗礼を受けてしまった。
色々なシミュレーションをしていたのは良かったのだが、人間の心の中まではシミュレート出来なかった。
何故なら、合同演習の中で命令を無視して作戦を変更する者が居たり想定外の場所から軍勢が現れたり、1人が勝手に
突撃をしてその結果多くの人員を壊滅させると言う結果が演習の中で見受けられる事になった。
当然演習である為に致命傷は負わない様にカリキュラムが組まれているのだが、それでも勝手に突撃した兵士は謹慎処分を食らった。
それに、アウェイのバトルフィールドであるが故に自分達も気が付かない場所から攻撃する事が可能だったのでレナードは
自分のリサーチ不足を嘆くしか無かった。
初めての演習は散々な結果に終わってしまい、その演習はレナードの心にトラウマとして刻み付けられる事になった。
それからしばらく……およそ半年位は真面目な性格が逆に仇となり、自分の今まで築き上げて来た分析能力が信じられなかった程である。
アルジェントの言葉も耳に入らず、悶々としたまま半年が過ぎようとしていた時だった。
そのアルジェントから呼び出しがかかったのだ。
「何ですか、話って?」
「ん? それはだな……オラッ!!」
「ぐあっ!?」
いきなり容赦の無い右のパンチが、レナードの顔面に飛んで来た。
「なっ、何するんですか!」
動機であるとは言え、上官の立場であるのでいきなり殴られた事にビックリしつつもレナードは反撃せずに理由を問いただす。
「てめぇは何時までへこんでやがる? 失敗なんて誰にでもあるんだよ。大事なのは気持ちを切り替えて同じ事をしなきゃ
良いだけの話だろうが。なのにてめぇが何時までもそうやってへこんでたらなぁ、俺達まで気分が悪くなっちまうんだぜ!」
「……」
そんなのは自分でも分かっている。
レナードだって、こんな自分に嫌気が差していた。
アルジェントの言う事は特に間違っていない。
なのに、心の何処かでそう言う自分を認めたくない気持ちがあるのだ。
ワンフォーオール、オールフォーワンと言う言葉がある様に、軍の中では1人のモチベーションが全体の士気に関わる事もある。
それがレナードの様な将校であれば尚更だ。
折角、信頼している部下が自分について来てくれていると言うのにトップのレナードがそう言う気持ちのままだとしたら、それは隊全員の
モチベーションの低下に繋がってしまう事になる。
軍人と言うものは気持ちのコントロールが大切だ。 最初の演習で命令を無視して作戦を失敗に終わらせてしまった前線の
部隊を見ていた訳だし、勝手な行動で予想外の動きをしてしまう人間も居る。
なのでそう言う事も全て引っくるめた上で戦術を考えなければならないのだが、この所のレナードはそれが出来る気分では無かった。
アルジェントはそんな彼を見かねて、忠告をしに自分の副官をこうして呼び出したのだった。
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