A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第4話


何時までも過去に縛られていたら、将校として……いや、人間としての成長は望めないだろうと言う

アルジェントの思いがそのパンチに表れていた。

しっかりとプランを練ってから行動するレナードとは違い、考えるよりもまず行動! のモットーがある

アルジェントらしいやり方ではあったが、レナードはそれ以前にいわれの無い暴力を振るわれる事が分からなかった。

確かに自分は前線で戦う事を希望していたが、それはあくまでも軍としての任務での話だ。

こう言った忠告であれば別に口で言えば良い話の筈なのに、どうしていきなり殴られたのだろうかとキョトンとする。

「言いたい事は分かりました。ですが、いきなり殴るのは例え上官であっても如何なものかと」

「何ぃ!?」


思わずカッとするアルジェントだが、言われてみればそれもそうかとちょっと納得する。

「あー、まぁ………俺も悪かったよ。俺はすぐに手が出ちまうタイプだからなー。だが、それでも今言った俺の話は

それが本音だ。それだけは分かってくれ」

そんなアルジェントとのエピソードを胸の内に抱えたまま、レナードは合同演習をこなす為にヴィサドール帝国を出て

2回目の演習に向かう。

そして今では場数もこなし、5回目の合同演習にこうしてやって来た。

もう初回の様なヘマはしない。

今回だけでは無く、2回目の合同演習の時からそれだけを考えてレナードは今まで軍の業務と自己鍛練に励んで来た。


知略面での徹底的な地形のリサーチは勿論の事、どうすれば効率的に兵士が動いてくれるのか?

何をすれば最小限の被害で敵に勝つ事が出来るのか?

事前に実際に旅行で演習先に向かい、分かる範囲で自分の目でチェックしてその結果を自分の戦略にフィードバックしたりもする。

レナードは以前、リオスの副官から東アジアの日本と言う国で言われている「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言う

言葉を教えて貰った。

意味は「敵の実力を知る事、同じく自分達の実力を知る事でより優位に勝負事を進める事が出来る」と言うものらしい。

その言葉を肝に命じ、レナードは1回目の演習時よりも格段にレベルアップした作戦内容や戦術の応用でヴィサドール帝国軍の

成績アップに貢献する事に成功している。


そんなレナードではあるが、4日目の演習を終了して自室に戻る途中にトイレに寄る。

ヴィサドール帝国軍の演習の成績はまずまずと言った所ではあるが、最終日まで油断は出来ないと考えながら用を足していると、

不意に個室の方が一瞬まばゆく輝いた気がした。

「……?」

トイレの電気が切れかかっている訳では無さそうなので、勘違いか何かだろうと特にレナードは気にもせずに己の軍服のズボンの

ファスナーを閉めながら手を洗う為に洗面台へと向かった。

そもそもこの合同演習で使われている軍事施設は厳重なセキュリティで守られている。

別にここに限った事では無く、軍事施設は一般的には武装した兵士がしっかりとセキュリティとして機能している事が一般的だ。

確かにこうした大規模な演習では軍事施設内での合同演習もあるのだが、やはり国と国同士で大規模に行う演習と言う事も

あって山の中で実戦的な訓練をしたりと、例えば運転免許の試験で言う所の路上検定の様なものであるとの認識がレナードの

中にも存在している。


そう言った場所でなら部外者の人間が紛れ込む可能性も無くは無いのだが、合同演習をするに当たってはその演習をする国が

きちんとその場所の使用許可を取り、そして演習を行う兵士達にここからここまでのフィールドで訓練をするのだと周知させ、

部外者が訓練に巻き込まれない様に分かりやすい場所で立ち入り制限を設ける事は軍人で無くても容易にイメージ出来る。

それが軍事施設となれば尚更であるから、不可解な現象が起こるのならば内部の犯行か非科学的でオカルトなものとしか思えない。

(この科学技術の時代に、そんな馬鹿げた話があってたまるか)

そう思いながら手を洗い終えたレナードだが、手をハンカチで拭いている途中で今度はハッキリと個室の1つがまばゆく光るのを彼は目にする。

(なっ、何だ!?)

流石に今度は見間違いでは無いと確信。

何か爆発物の類いが個室に置かれている可能性も十分に考えられる。


慎重に個室に近付き様子を窺うレナードだが、個室をゆっくりと覗いたその瞬間にまたもや光がまばゆく個室を包む。

「うわっ!?」

しかもその光は個室だけでは無く、自分の身体まで一緒に包み込んで行くのにレナードは気が付いた。

「な……んだ、これっ……!」

まばゆい光の中でその光から逃れる為に個室から離れようとレナードは踏ん張るが、光の眩しさで思う様に身体が動いてくれそうに無かった。

「うっ、うわあああああああーーーっ!?」

誰かが気が付いてくれるかもしれないと言う淡い期待を込めた、レナードのそんな絶叫を最後に彼の身体はトイレの中から消え去ってしまった。

そして運の悪い事にトイレの外には誰もおらず、レナードがトイレから忽然と姿を消してしまった事に関しては誰も気が付く事が無かったのである。


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