A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第1話
時は2016年の11月16日から22日。
このおよそ1週間と言う期間の中で、4か国の軍隊が合同演習の名目でヨーロッパに集結していた。
ユーラシア大陸最大の国土を持っているロシア連邦。
ヨーロッパの中心的存在の国の1つとして知られているドイツ。
それから東ヨーロッパに位置している海沿いのガラダイン王国。
最後に、今回の事件に巻き込まれてしまう事になる男が所属しているのが同じく東ヨーロッパの、
しかしガラダイン王国とは違い内陸国であるヴィサドール帝国。
このヴィサドール帝国軍に所属する、まだまだ若き青年将校が自分の身に降りかかる恐ろしい経験をこの訓練の
最中にしてしまう事は勿論知る由も無かった。
今年で丁度30歳、20代の若手と呼ばれる世代を終えて、中堅の立場に立とうとして居るのがこの金髪の軍人、レナードだった。
レナードの家は国内でもなかなかの地位を持つサーヴィッツ家。このヴィサドール帝国の発展に関して主に市民からの
要望を聞き入れて町の発展や外交政策等の政治面で活躍して来た歴史を持っている。
しかしながら、レナードの立場は次男。
代々受け継がれている政治家としての立場は長男が受け継いでいる為、次男のレナードは自分の進みたい道を
選んで良いとのお達しが父親から下されていた。
そんなレナードは政治面での勉強が余り自分に向いていない事を知り、何が自分の適性にマッチしているのかを
考えた結果として13歳の時にプロレスの道を選んだ。
良い家柄や真面目で堅物な性格のせいで、彼がプロレスの道に進むと周囲が知った時は誰もが驚いた。
と言うよりはリアクションに困った、と言うのが正しいだろうか。
何故彼がプロレスの道を選んだのか?
政治家としての道は何故目指さないのか?
親戚や学校の友人達、そして彼の事を知っている政治家達が皆一様に同じ事を考えた。
ありきたり、と言われればそれまで。
だが当の本人がプロレスと言う、上流階級にはまるで縁の無さそうな野蛮なイメージの強い世界に興味を持った切っ掛けは
学生時代の友人と一緒に見たテレビ番組のプロレス中継だった。
今まで見た事の無い人間の豪快な動き。
そのダイナミックな迫力満点のテクニック。
一目見た時のショックは、レナードにとってそれは大きな物であったのだ。
それからはプロレスの雑誌を買い、知識を身につけてからプロレスのジムにも入門。
プロレスの為に今まで少食気味だった体質を変えるべく食事の量も増やした。
世界で活躍しているプロレスラーは現代でも山程居るし、伝説として語り継がれるプロレスラーも沢山居る。
そんなプロレスラーの様な体型を目指し、レナードは日々トレーニングと知識を増やして行った。
だが、典型的なプロレスラー体型になるには体質が問題だった様だ。
体質は個人の先天的な要素も多分に含まれる為、大柄でムッチリとした体型を目指していたレナードだったが、
結果的にはそれなりに筋肉を付ける事が出来た。
……と言う時点で終わってしまい、着やせするタイプのいわゆる「脱いだら凄い」ボディビル体型……しかもどちらかと
言えば細身のボディビル体型になってしまった。
別にプロレスの場合は体重制限等は無いのだが、自分の体型をこればかりは呪うしか無かったレナード。
(何故だ、何故私の身体はもっと大きくならんのだ!?)
サプリメントやステロイド等も試してみたが、結局は健康面の事も考えてすぐ止めてしまう。
身長183cmではあるものの自分の体質だけはどうしようも無かった。
17歳でプロテストに合格。ヨーロッパのプロレス団体に入門し、高校生活の合間を縫いつつ食事量を増やしたり
トレーニングを重ねたりして国内の試合に出場する。
レナードは元々の性格も相まって真面目にトレーニングをしていたが、やはりプロレスの舞台ではその体格が災いしてか
大技を繰り出す事はあっても、どうしても迫力の無い試合運びに見えてしまうと言うのが観客からの正直な感想だった。
そんな評価では当然試合のチケットもなかなか売れず、パワーの無さはテクニックで補おうとしてもやはりプロレスの世界は
迫力と試合の盛り上がりが何よりも重視される派手な世界。
プロの世界は果てしなく厳しく、そして自分は才能にめぐまれていなかったのだとレナードに認識させるのは1年もあれば十分だった。
こうして高校生活の中でレスリングの舞台から降りたレナードだったが、同時にプロレスの舞台を目指して今までトレーニングし、
夏休みには政治家のコネを使ってメキシコまで行かせて貰い現地プロレスのルチャリブレのトレーニングも経験していただけあって、
生きる意味を失ってしまったのと同じ事でもあった。
そんな時、自分のプロレスの経験を活かす事が出来て尚且つ親と繋がりがある政治家はメンツも立つと言う一石二鳥な職業の紹介を父親から受けた。
それがヴィサドール帝国軍の士官学校の入学試験である。
プロレスをするにあたり、レナードは父親から学校での成績を常に学年で上位10位以内に入れておく事を条件にされていた。
真面目なレナードの性格はここでも発揮され何とか10位以内をキープ出来ていたのだが、それがここに来て士官学校の入学試験に
知識面で役立つ事になるのだった。
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