A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第56話


遺跡の中をプーツの音を響かせながら進むジェイヴァスは、このまま何事も無く最深部まで

行く事が出来ればそれで良いと考える。

地球に居た頃のこれまでの戦う事が好きだった自分だったら、心が強敵との戦いを望んで止まなかっただろう。

しかし、この異世界にやって来てからその考えは少し変わったと思っている。

(あのケルベロスとか、魔法使いの女……それから酒場で叩きのめされたのもあって……上には上が居るんだよなぁ)

別に格闘技や戦う事が嫌いになった訳では無い。

だけど戦う事には色々な要素が絡み合う。

格闘技の世界に関しては自分のテクニックや身体能力は勿論の事、反射神経の良さ、相手の攻撃を予想出来る事、

集中力の高さ、フェイント等の駆け引き、負けたくないと言う闘争心の強さ、そして運。

これ等の自分の能力を全て引っくるめて、レベルの高い試合運びが出来る者が「強い」と言えるだろう。


無論、人間の強さと言うものは腕力の強さや頭脳の良さだけで決まるものでは無い。

心が強ければそれだけ困難に立ち向かう事が可能になる。

運が良ければ一攫千金のチャンスだってある。

センスがあれば物事に対しての呑み込みが早くなる。

こうして考えるだけでも、ジェイヴァスは自分に何が足りないのかを考える切っ掛けになっている。

(勇猛果敢なのは別に悪く無いけど、それで部下を死なせる様なヘマをしてしまう様ならリーダー失格だぜ。

……昔の俺だったらこんな事考えもしなかっただろうけどな)

勢いが良すぎて空回り、と言う事にならない様にするのがやっぱり丁度良いんだなとジェイヴァスは今までの出来事を

振り返りつつ纏めてみた。


そんなジェイヴァスの目の前には分かれ道が現れていた。

(……どっちに行くかな?)

この分かれ道が自分の運命の分かれ道、そして人生の分かれ道になるかもしれない。

大げさかも知れないが、それでもジェイヴァスは何だかそんな気がしていた。

(どうか悪い方に結果が出ません様に……)

今までの自分だったら間違い無くどちらかの道に向かって突き進んでいた筈なのに、ここまで慎重になるとは人間も変わるもんだなーと

ジェイヴァスは運を味方につける様に、1度だけ黒手袋をはめた右手をギュッと握り締め、自分の右胸に強く押し当ててから

右の通路に向かって歩き出した。


その祈りが通じたのかどうかは分からない。

ジェイヴァスの目の前には大きなホール状の部屋が広がっている。

部屋の中央には大きな碑石があり、その奥には大きな両開きの扉が鎮座している。

更に、碑石の中央には非常に見覚えのあるシルエットの窪みがあった。

(……これってまさか……)

自分の記憶が正しければ、この碑石の中央に彫られている窪みにピッタリとはまるのは……。

「成る程な、そこにこのバッジがはまる訳か」

「そうらしい……え?」


何処からか聞こえて来た声に思わず返事をしてしまったジェイヴァス。

しかし、この場所に居るのは自分だけの筈。

それに、この声には聞き覚えが少しだけだが記憶の中にある。

窪みの事に続いて2度目のまさか……と思いつつ、後ろを振り向いたジェイヴァスの目に映ったものは。

「な、何でお前等がここに!?」

「何でって……入り口が何時の間にか開いてて、しかもドアが開きっ放しだったからここに入って来られたんだよ」

当然だろ? と言わんばかりの顔つきと声で、ジェイヴァスがこの世界に来て初めて出会った時から因縁を持ってしまった

紫色の髪の男……盗掘団リーダーのフランコはバッジを掲げながら勝ち誇った様に言う。


フランコのそんな表情とは対照的に、ジェイヴァスの顔つきには怒りと驚きと絶望がいっぺんに浮かぶ。

(しまった! 俺、あそこのドアを……!!)

あの過去の忌まわしい事件で疑り深い性格に代わってしまった筈の自分が、遺跡に上手く進入出来たと言う事で

油断をしてしまった事への自分への怒り。

その油断が原因で、あの盗掘団の連中がここまでやって来てしまったと言う驚き。

そして何よりも、騎士団とのバトルで生き残った連中が全員……と言ってもフランコと副リーダーの女を含めて6人だが、

その全員が自分にそれぞれの武器を向けて対峙していると言う絶望。

とどめに、あの酒場の事が今になってフラッシュバックして来る。

(くそっ……これじゃあの時と一緒の状況じゃねえか!!)

大人数に囲まれている今の状況は、間違い無くあの酒場での乱闘に巻き込まれたのと何も変わらない。


でも。

「だったらそれがどうしたってんだ? あん?」

今の自分は変わっている……いや、変わる事が出来た筈だ。

失敗から学ぶ事は沢山ある。負ける事から学べる事は多いものだ。

確かに酒場の様なテーブルや椅子が無ければ、武器になりそうな物だって無い。

だけど、この場所に限定しなければ戦える可能性だって見えて来る筈。

そう信じて、ジェイヴァスはここでこいつ等との決着をつけるべきだと判断した。

「ほう、威勢が良いじゃねえか。しかしこの人数が相手だ……お前に勝ち目なんかねーんだよ」

相変わらずの勝ち誇った口調で、フランコは部下に指示を出す。

「俺は副長と一緒にここの謎を解く。お前達はこいつを殺せ」


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