A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第53話


(動きは見られないな)

あの町で買って来たパンをかじりながら、ジェイヴァスは遺跡の近くで様子を窺う。

そのパンを買った店の店主から教えて貰った通り、あの町から歩いておよそ20分で地下の遺跡がある場所に

辿り着いたのは良かったのだが、あの見張りの兵士が言っていた通り騎士団の連中っぽい武装した男女が

遺跡の前辺りにわんさか常駐しているのがジェイヴァスには見える。

やっぱり一筋縄ではいかないかと苦々しく思いつつも、ここまで来てしまったのだから後戻りは出来ない。

(テントは5つか……俺は見ての通り1人だしなぁ)

真っ向勝負を挑んで勝てるなんて映画やドラマの中だけのファイトシーンだけだ。

それにあの酒場での出来事も、やはり確実にジェイヴァスのこうしたバトル前の動き方に変化をもたらしてくれた事に

間違い無いなと彼自身が実感していた。


しかし、それはそうとジェイヴァスには気になる事があった。

(そう言えばここに来る途中で山崩れみたいな落石があって通行止めになってるって話だったけど、そんな場所あったっけ?)

肉料理を注文したあの町の酒場で、店員から聞いたのが記憶に新しいその情報。

だけどここまで歩いて来る途中、確かに山の近くを通ったには通ったのだがそんな落石の跡なんて全く見当たらなかったのである。

(1週間位は撤去にかかりそうだってあの店員は言ってたけど、一体何日前の情報なんだよ?)

また俺は騙されたのか!? と物凄い疑心暗鬼の心境を抱えながらも、撤去作業が終わって通れる様になってくれたのは

正直言って待つ手間が省けたので、良かったのか悪かったのか良く分からないままジェイヴァスはこうして遺跡の前までやって来た。


だけどやはり遺跡調査をしている部隊だけあってガードは固そうである。

見える範囲ではテントが5つ。

そのテントのすぐ前にはあの町の見張りの兵士と違い、直立不動で周囲の監視業務にしっかりと取り組んでいる2人の兵士の姿も。

目の前にノコノコ出て行けばそれだけですぐに見つかってしまい、囲まれて連行されて問い詰められる所までは簡単にイメージ

出来てしまうのでここはじっくり様子を見る。

(やっぱり騎士団の人間って言うのは、ただ見張りの番をしている様な兵士とは意識が違うって事なのかもな)

ロシア軍でも一般の兵士は軍服着用の上で任務に当たるのだが、特殊部隊として世界的に有名な「スペツナズ」では破壊する様に

命じられたターゲットに対して、平時にしかも私服でのスパイ活動を実行している為に常に緊張感が漂っている事は言うまでも無い。

ジェイヴァスもスペツナズの恐ろしさは同じロシア軍所属として何度も耳にしているので、そう言う類の連中が騎士団には

ゴロゴロ居るのでは無いか? とイメージする。


(騎士団も軍人だし、俺達と同じく戦う事に関してはプロフェッショナルだからな。幾ら俺でもこれだけの人数差がありながら

突っ込んで行く程考え無しじゃねーっての)

自分自身に突っ込みを入れながらも、早くしなければあの盗掘団の連中が追い付いて来る可能性は高いので色々と考えてみる。

(このまま突っ込むのは無謀だし、かと言って迂回出来る様なルートは……)

パンを歯で挟んだままキョロキョロと辺りを見渡してみると、1つだけちょっと無謀そうなルートが見つかった事には見つかった。

(あそこか……まぁ、ちょっと無茶すれば行けそうだがもう少し暗くなってからの方が良さそうだな)

ジェイヴァスが見つけたのは、木々が生い茂っている林。

そこを通ってぐるっと迂回して行けば、何とか裏側から回り込めそうだ。

この遺跡の入り口には階段が作られており、そこを地下に向かって下りて行くと入り口がある様なのだ。

そしてそこの入り口が封印か何かで閉ざされて入れないと言う事らしいので、騎士団の連中も待機状態になっている様である。

(林があるとは言え、迂闊に動いてしまえば見つかるよな。ここはもう少しだけ暗くなるのを待つとしよう)


何だか今の俺、何時もと違うなーと感じつつジェイヴァスは自分の姿が目立ちにくくなる日の入りを待ってパンをかじる。

腹が減った状態では満足に動けない。

あの肉料理を食べてからかなり時間が経っている上に、ジェイヴァスはもともと格闘家でしかも前線で活躍して来た

軍人の為に日頃のトレーニングに相当なエネルギーが必要になる。

もう少しパンを買って来れば良かったかな、と3つ目のパンをかじり始めたジェイヴァスの耳にふと、馬の足音が聞こえて来た。

それも1つでは無く、恐らく2つなのがジェイヴァスにも分かる。

「……ん?」

今の自分が隠れている崖のそばの岩陰により深く身を隠しつつ、ジェイヴァスは騎士団の交代か伝令か増援がこの場所まで

やって来たのだろうかと思いながら注意深く観察を始めた。

切り立った崖のそばで発見されたこの地下遺跡の為に、隠れられる所は意外と限られているのが現状だ。

だがこの後、ジェイヴァスは思いもよらぬ光景を目の当たりにする事になる!!


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