A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第52話


「よーし……成功か」

兵士達の様子を見下ろして、ジェイヴァスは悠々自適に町の詰め所を出て行く。

その背後にはすやすやと寝息を立ててテーブルに突っ伏している1人の兵士、それに椅子にもたれ掛かって

寝込んでいるもう1人の兵士が。

何故こんな状況になったのかと言えば話は少し前までさかのぼる。

あの兵士達が部屋に戻って来る前にテーブルの上に「とある物」を見つけたジェイヴァス。

そして自分の軍服のポケットからも「ある物」を見つけた。

この世界の人間に効果があるかは分からないが、ズボンのポケットの中で見つけた「ある物」……軍医の知り合いから

貰った粉末状の睡眠薬の封を切って、テーブルの上の「とある物」……兵士達が飲んでいたであろう何かの飲み物が

入っている2つのコップにその睡眠薬を半分ずつ位までサラサラと量を調整しながら流し込んで行く。


流し込み終えたら、素早くあの自分が様子を窺っていた通路まで戻ってドアのそばで気配を窺う。

「終わったか?」

「ああ。さーて続きやろうぜ。お前からだっけ?」

「ああ俺からだ。今日は負けねーぞ」

のんきに再びボードゲームに興じる兵士達。

(警戒心が薄いにも程があるぜ)

あれだけあたふたしてたのに良く気が付かれなかったなーとジェイヴァスは思いつつ、限界まで己の気配を消して2人の兵士の様子を見守る。

(どうだ……効くのかあれは……)


そしてとうとう、2人の兵士が時間差ではあるがそれぞれボードゲームのそばに置いてあるカップに手を伸ばす。

口のカップの端を近づけ、中に入っている液体を喉に流し込んで行く。

(味は大丈夫みたいだな)

ばれてないならそれで良いとばかりにしっかりとカップの液体を飲んだ事をジェイヴァスは確認し、そのまま兵士達が

この後どうなるのかと言う事をドアの陰から見つめ続ける。

(効かなかったら効かなかったで、またチャンスを窺うだけなんだがな)

1番良いのは睡眠薬が効いてくれる事だが、止むを得ない場合は実力行使も辞さない考えだった。


そんな事を思っていた矢先、ふと兵士達2人の様子が変わった。

(……お?)

1人が頭を押さえたかと思うと、もう1人はこめかみを指でグリグリと押し始める。

それからしきりに両手で頬を叩いたり、手のひらで両目を覆い隠してみたりとジェイヴァスにも経験があるその動作は

まさに眠気から逃れる為の手段だった。

だが地球の睡眠薬の効果の前には些細な抵抗も徒労に終わってしまった様で、結局片方の兵士はテーブルに突っ伏す形で眠りこけてしまう。

もう1人も1人が眠ってから3分程頑張っていたものの、ついには椅子にもたれ掛かるスタイルで眠り始めてしまった。

(流石、良く眠れるって評判の睡眠薬の事だけはあるな)

自分にあの睡眠薬をくれた軍医に感謝しながら、ジェイヴァスはすっかり夕暮れ時になってしまった町へと繰り出して行く。

何日目の夕方なのかは知らないが、さっさと遺跡を目指して歩いて行かないと夜になってしまうしあの兵士達を

せっかく眠らせたのだから急がなければならない。


この村は遺跡近くに存在しているとあのリーダーと副リーダーが言っていた。

それが本当だとすれば、さほど時間を置かずにその遺跡に辿り着ける筈だとジェイヴァスは踏む。

(地下にある遺跡だって聞いてるから、どうせ暗闇の中の探索になるかも知れねぇな)

それだったら尚の事夜になる前にその遺跡に辿り着かなければ、地下の遺跡だって見つかりにくくなるかも知れないのでジェイヴァスは急ぐ事にする。

今度はあの兵士に道を聞いた時の町の様にドジは踏まない。

事前にきちんと、それも明らかに兵士達の知り合いでは無さそうな出店の人間を選んで情報収集。

そしてそう言う人間でさえ騎士団員達やあの盗掘団の連中と繋がっている可能性があるかも分からないので、遺跡の情報が得られ次第

さっさとそこに向かうのは当たり前だった。


ジェイヴァスはそう思って近くにあるパン屋に向かう。

「ちょっと良いかな?」

「何だい?」

「この村の近くに遺跡があるって聞いて旅をしてるんだけど、何処にあるのかな?」

「ああ、それだったらこの町を出て左に向かって歩いて行けば、大体20分位で着くと思うよ。騎士団の知り合いかい?」

「そんな所だ。感謝する。お礼にパンを少し貰おうか」

情報提供のお礼に、あのヴィスの服から移動させた金の入っている袋の中にあった金でパンを3つ程買い、これで遺跡の情報は手に入れた。

しかしパン屋だから騎士団の人間が買いに来ないとも限らないので、変に目立つ前に町を出て左に向かって歩く。

……いや、ロードワークトレーニングの要領でランニングをしながら行く事にする。

(町を離れて遺跡の近くに行けば、少しは落ち着けるかもしれねぇな)

食事もそう言えばあの研究所の町で肉料理を食べて以来何も摂っていなかった事を思い出し、もう少しの辛抱だから

我慢してくれと音を立てる自分の腹に心でエールを送りながら、ジェイヴァスは夕日が照らす道をブーツが踏みしめる音を響かせた。


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