A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第51話


スマートフォンでの会話は勿論していない。と言うかそもそも電波が繋がっていないので出来る筈が無い。

これはもし地球だったらアカデミー賞ものの演技だったかも知れねーなとジェイヴァスは自画自賛しながら

牢屋の出入り口を抜けて通路を進む。

と言っても全然広くは無い場所の様で通路も一直線。

突き当たりまでおよそ30メートルと言う短い距離を歩けば、その奥には地上部分へと上がる階段が見えていた。

ここの通路の出入り口となっている、階段の上のドアに張り付いて先の様子と気配を自分の感覚で

探れるだけジェイヴァスは探ってみる。

(人の気配は……あるな)

このままドアを開けていれば間違い無く見つかっていた筈だ。

それを考えると、突っ走りがちな性格がこの旅を通じて少しは落ち着いて来たのかも知れないと言う事に気が付く。

(俺も少しは変わって来たのかもな)


人間が自分の性格を変えるのは並大抵の事では無いし、1度そう言う性格になってしまえば死ぬまで変わる事が無いのが一般的だ。

しかし、変われる年齢には制限なんて無い。

変わろうとするその意思がゆっくりと自然に自分を変えてくれる事があれば、ジェイヴァスの様に衝撃的な体験を通じて

急激に変わって行く事もある。

悪い意味での変わり方も、そして良い意味での変わり方も同じだ。

自分自身のそうした変化に気が付いたジェイヴァスだが、ドアの向こうに気配があるとすればこのままいきなり

バーンとドアを開ける訳にはいかない。

だったら気配だけで無く、実際に自分の目で見てみる為に少しだけドアを開ける。


そのドアの隙間から見えた範囲では、2人の騎士団員が小さな木製のテーブルに向かい合ってチェスの様な

ボードゲームに打ち込んでいる姿が見えた。

(こっちには気がついてねぇみてーだな)

けれどこのまま出て行けば間違い無く見つかってしまうのは避けられない。

(困ったな……どうすりゃ良いかな……?)

何とかしてあの見張りの兵士2人の気を逸らす事が出来ればなー、とジェイヴァスが考えていると兵士達が2人揃って外に行ってしまった。

「え? 喧嘩!?」

「何だよこんな時によぉ、全く……」


このタイミングでジェイヴァスにとってはチャンスがやって来た。

(よっしゃ、今の内に外へと逃げるだけだぜ!)

またと無いこのチャンスを絶対に逃すまい、とジェイヴァスは目の前に見えるドアに向かって突き進んで行くが、その奥には何と左右の

突き当たりにそれぞれ1つずつのドアが鎮座している通路があった。

「んなっ、ど、どっちだ!?」

迷っている時間は無い。

自分の直感を信じて、ジェイヴァスは右のドアへと進む。


その先には。

「と、トイレかよ……」

こんな時に限って何だかついていない自分を呪いながら、もう1つのドアだとばかりにジェイヴァスは突進する。

その先に続いていたのは今度こそ、この村の騎士団の詰め所の出入り口だった。

(よっし、あそこから出れば……!)

逃げおおせて遺跡に向かう事が出来る。

偶然を作り出してくれたこの世界の神へ感謝して、出入り口へとダッシュするその一連の動作だけで自然と

ジェイヴァスの口に笑みが浮かんだ。

(うおおお、感謝するぜ神様ぁぁぁ!!)


……が。

「あーあ、全くしょーも無い事で喧嘩するなってんだよ」

「ほんとだぜ。さー続き続き」

「あ、俺その前にここの書類片付けるわ」

「なら俺トイレしてから待ってる」

(げっ!)

タイミングが物凄い悪かった。

反射的にジェイヴァスは、今しがた自分が出て来た牢屋へと続くドアに続く部屋に飛び込んだ。

こんな偶然を作り出しやがったこの世界の神に恨み言を吐きながら、これで結局最初に戻ってしまう事になってしまった。

(くっそ、この世界の神ってのも当てにならねー奴だな!!)


僅か十数秒の間に自分の考えが矛盾している事に気がつかないまま、ジェイヴァスは兵士達が戻って来る前に何処か

別のルートから脱出出来ないかを考える。

(窓は……小さいから脱出出来ねぇ。他の出入り口は……くそっ、ねーじゃねーか!!)

牢屋のある廊下に戻ったらまた見張りの動向を窺いながらの待機になってしまう。

しかし、他に出入り口は見当たらない。

(くっそ、俺はどうすれば良い……どうすれば!!)

あたふたしながら小さな部屋中を見渡すジェイヴァスだったが、そんな彼の目にある物が飛び込んで来た。

「…………あっ」


「それ」を見たジェイヴァスは即座に行動に移す事にする。

時間が無いので素早く行動しなければ、兵士達がこの部屋にまた戻って来てしまう。

(くっそー、神様俺を見捨て無いでくれよおおおおおおお!!)

感謝したり恨んだりしたこの世界の神に今度は願い事を心の中で絶叫しながら、ジェイヴァスは再びここから脱獄する為の

思いついた方法を行動に移して行く。

兵士にばれてしまう危険性もそれなりにあるものだが、ここで迷っている暇はさっきのドアの時と同じ様にある訳が無い。

(やっぱりあなたを信じます。だから俺のこのやり方を成功させて下さい神様!)


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