A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第50話


最後の質問、それはジェイヴァスのこの後の待遇についてなのだが帰って来た答えは非常にシンプルだった。

「お前には死刑を宣告する。どんな拷問よりも惨く殺してやるからな。精々残り少ない人生を生きてくれよ?」

「また後で来るから、ちゃんと大人しくしてる事ね」

そう言い残して男と女は去って行ったが、今までの話の流れからしてもジェイヴァスは即座に脱獄を決意する。

かと言って、鉄格子を自分の腕力だけで捻じ曲げられる様なパワーは持っていない。

(どうすっかな……)

牢屋の中を見渡しても、あるのは排便用の丸い穴が1つ床に設置されている位で本当に後は何も無い。

何か持っていなかったかな、と思いつつゴソゴソと軍服の至る場所をジェイヴァスは漁ってみる。

あの槍使いのヴィスに襲われる前にもゴミ箱の中に隠れたので、まだその臭いが残っている事に顔をしかめながらも

3つの物を発見する。


(ちっ、やっぱり今はこれだけしか無えのか)

ボールペンが胸ポケットから1本、内ポケットからスマートフォン、そして軍医の知り合いから貰った睡眠薬と

あのケルベロスと対峙していた時と何も変わっていなかった。

その時はまだバッジも手に入れて無かったので、軍服と一緒になっている物はその時の状況と同じだ。

(あいつ等がこの軍服を漁らなくて良かったぜ)

命がけで手に入れたあのバッジにばかり気が行っていて軍服を探るのを忘れていたのか、もしくはこの3つのアイテムを

発見しても使い道が無いと判断したのかは分からないが、とにかく持ち物として残っていてくれたのだけは良かった。


これ等を使ってどうにか脱獄出来ないかと考えてみるが、やっぱり知略が苦手なジェイヴァスには何も思いつかない。

(ボールペンで壁に穴を開ける? いや無理だろ。スマートフォンの電磁波で……いやいや、何を考えてるんだ俺は)

焦る余り突拍子も無い事を考えてみるが、幾ら考えた所で効果的な脱獄方法はさっぱりだ。

(駄目だ……ここは一旦落ち着こう。焦れば焦るだけ体力も消耗しちまうぜ)

精神的な疲れがそのまま肉体の疲れに繋がるのは有名な話なので、一旦ここは落ち着く為に軍服から出て来た

持ち物を全てズボンのポケットに突っ込んでから、壁に寄りかかって体力を温存するジェイヴァス。


そんな時、出入り口のドアが開いて1人の男が姿を現わした。

手には小さな木製の椅子を持っている。

「ふぅん、お前が魔力を持たない人間ね」

「誰だお前」

「お前が逃げ出さない様にする見張りだよ」

その男はジェイヴァスにそれだけ伝えて、持って来た椅子を牢屋の前に置いて鉄格子を背にする形で座った。


「逃げ出さない様にって言われても、俺の頭じゃここからどうやって逃げ出すかを思いつけねーっての。外に連絡出来る様な

手段も無ければ、窓も無いので逃げ出す事も出来やしねーんだからなぁ」

半ばぼやく様にしてジェイヴァスはその男にそう言ってみるが、男からの反応は無かった。

魔力を持たない人間、と言うのはこの男にとってはどうでも良い事であるらしい。

だが、ここで新たな閃きがジェイヴァスの頭にやって来た。

(外への……連絡手段……!?)

自分のぼやきでふと気がついた事。それはこのスマートフォンを使う事だった。

それを実行するにはこの見張りの協力が必要である。


だから、再びジェイヴァスは見張りにぼやきを交えて話しかけてみる。

「なー、俺がもしこの場所から外に連絡出来る手段を持っていたらどうする?」

「……」

「何だ、だんまりかよ。なら喋るよりも実際にやってやるからそこで見てろよ。びっくりさせてやっからな!」

「……え?」

迷いを感じさせないジェイヴァスのその声色に、思わず男は上半身を動かしてジェイヴァスの方を見た。

そして男が見たのは、何か得体の知れない小さな物を持って会話を始めるジェイヴァスの姿。

「よう、俺だよ。悪いんだけどさぁ、遺跡近くの村に閉じ込められてるんだ。俺の部下がそっちに居るだろ? とりあえず5人くらい

寄越して助けに来てくれや。……え? あっはは大丈夫だよ。見張りの奴はこの新開発の通話機器の存在なんて信じてねーみてーだし」

「なっ、何してやがる!?」


思わず腰のベルトに取り付けていた牢屋の鍵を手に取り、ガチャガチャと錠前を外して乗り込んで来る見張りの男。

それこそがジェイヴァスの狙いだった。

「こんな子供騙しに引っかかってんじゃねえよ!」

勢いそのままに自分に向かって来た男の顔面に頭突きをかまし、男が怯んだ所で首をグイッと腕で絞め上げて素早くへし折った。

牢屋のカギは勿論開きっ放しである。

「どーもサンキューな。さて、さっさと逃げるとしよう」

応援を呼びに行かれる可能性もあったので危険な賭けだったが、どうやら良い方に転がってくれた様でジェイヴァスは一安心。

しかしこの先に何が待ち受けているか分からないので、さっさと脱出したい衝動を抑えて慎重に出入り口から先の気配を探りつつ進む事にする。

(俺があんな奴等にそうそう簡単に殺されてたまるかってんだ。見てろよ、俺に死刑宣告をした例はたっぷりさせて貰うぜ)


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