A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第44話


屋上へと上がったジェイヴァスの後ろから追っ手がやって来るが、ジェイヴァスは屋上に干してある

洗濯物の物干し竿で追っ手の1人の喉を突いて下へと文字通り突き落とす。

その後も階段を上がって来る追っ手を1人ずつ下へと突き落とし、投げ落とし、そして蹴り落とす。

階段は1人分のスペースしか無いので、必然的に屋上に上がって来た時にはジェイヴァスとタイマンで向かい合う事になるのだった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

総勢で大体10人程を全員下へと落とし切り、何とか追っ手の脅威から逃れる事に成功した。

だが、下の方が段々と騒がしくなって来ている。

(ちっきしょう……町の市民か? それとも騎士団の人間か?)

いや、両方だろうとジェイヴァスは思い直して退散する事にする。

あれだけの騒ぎを町中で繰り広げただけあって、人が集まって来るのは当然の事と言えよう。

となれば、ほとぼりが冷めるまで何処かに身を隠すしか無さそうだ。


(かと言って、ここに来るまでに身を隠せそうな場所って……)

屋上から地上の様子を窺いつつ、ジェイヴァスは必死で逃げる途中の景色を思い出す。

だが、逃げるのに必死だった自分の記憶は自分に向かって来る敵の様子ばかりで何の役にも立ちそうに無かった。

(くっそー、これじゃあ捕まるのは時間の問題だぜ)

ここに居ても目撃情報等からいずれは見つかってしまうだろうし、かと言って下に下りて歩き回ればもっと捕まる可能性が

高くなってしまう八方塞がりの状況の中で、ジェイヴァスは身の振り方を必死に考える。

(どうすれば良い……どうすれば……)

しかし、その時また追っ手が屋上にやって来た。

「居たぞ、あいつだ!」

「くっ……!!」

追っ手は2人。しかも下から複数の足音が聞こえる事からまだまだ居るらしい。

だけど今までの走り回ったツケが身体に来ており、ジェイヴァスはすでに限界だった。


「っのやろおおおおお!!」

向かって来たロングソード使いの男の振り下ろしを横に避けて、男の股からグイッと手を差し込んで持ち上げて

もう1人の追っ手である女にぶつける。

「きゃあああっ!?」

女は男の身体を受け止め切れずに、2人仲良く下へと真っ逆さまに落ちて行ってしまった。

だけどこの後にやって来るであろう増援の追っ手を相手にするだけの体力はジェイヴァスには残っていない。

(くそっ、限界か!)

キョロキョロと辺りを見渡し、ジェイヴァスは1つ頷いて決心すると屋上の端目掛けて一目散に脇目も振らずにダッシュする。

そして屋上の端のギリギリから、生きるか死ぬかの運命をかけた大ジャンプで大空へと舞った。

「うおあああああっ!?」

その先には予想通り、1階層低い建物の屋上があったので見事にジェイヴァスはそこに走り幅跳びの要領で着地する事に成功した。


コマンドサンボで鍛えられた強靭な下半身は伊達では無い事を証明した訳だが、まだこれで逃走劇が終わった訳では無い。

飛び移ったのは良いが、勿論追っ手にも知られている為に早く身を隠さなければ。

その屋上の階段を一気に駆け下り薄汚い路地裏へと出て、周囲に気配があるかどうかと言う事と何処かに隠れる事の

出来る場所が無いかを見回す。

そして、ジェイヴァスの目に丁度良さげな物体が目に入った。

(あれは……!)

迷っている時間は無い。

ジェイヴァスは迷わずその物体目掛けて突進した。


「何処に行った!?」

「こっちには居ないぞ!」

「向こうか!?」

バタバタと慌ただしく駆け巡る何人もの足音がすぐそばから聞こえて来るのを耳にしながら、ロシアからやって来た軍人の

ジェイヴァス・ベリルードは心の中でポツリと呟いた。

(ちっきしょう、何で俺がこんな目に逢わなきゃいけねえんだよ……っ!?)

外から聞こえる喧騒と、鼻をつくツンとした臭いに顔をしかめながらもジェイヴァスはひたすら我慢。

今出て行けば間違い無く見つかってしまうからだ。


それもその筈、今のジェイヴァスが隠れている場所は路地裏に置かれている大きなゴミ箱の中だったのだ。

(うう……くせぇ……)

それでも一時の苦しみ、と考えればまだ耐えられるジェイヴァスは、臭いと格闘しつつ周りの気配や音を自分の感覚の全てを総動員して感じ取る。

(……行ったか?)

慌ただしそうに走り回る足音と、それから自分を探しているであろう怒声がようやく聞こえなくなるまでずっと息をひそめ続けたジェイヴァス。

実際の時間はそこまで経過していないと思うのだが、ジェイヴァスにとってはゴミの感触とそのゴミが発している臭い、そして追っ手や

騎士団の人間が自分を見つけてしまうのでは無いかと言う緊張感で1時間にも2時間にも思える時間の感覚だった。

(くっそぉ! この町に来たばっかだって言うのにもう移動しなきゃいけねえじゃねえかよ!!)

ゴミまみれになった自分の服を見下ろしながら、ジェイヴァスは大きく舌打ちをして頭を掻く。

だがその時、ジェイヴァスの頭の中に1つの考えが浮かんだ。

(ん……服?)

そうか、その手があったかとジェイヴァスは自分の咄嗟の閃きに自画自賛した。


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