A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第43話


人が空を飛んでいる。

……いや、正確にはジャンプで人間達を飛び越えて来ていると言った方が良いだろう。

それも、何も使わない状態でだ。

ジェイヴァスの常識ではそんな事、当然考えられなかったからだ。

「な……んだとぉ……!?」

人込みをかき分けながらも、ようやくその喧騒も収まって抜け出す事が成功したと思った目の前にその人間が着地して来た。

エンブレムのついた装備。間違い無くあの集団の追っ手だった。

地球ではあり得ない光景に呆気に取られつつも、ジェイヴァスは自分の目の前に空中浮遊を駆使して下りて来た男目掛けて、

人込みをかき分けた勢いそのままにダッシュ。

走り幅跳びの要領で踏み切り、全力で男の顔面目掛けてドロップキックをかました。


ジェイヴァスの前に回り込んだ事で若干の油断が生じていた男はそのドロップキックに対処仕切れず、ジェイヴァスの狙い通りに

顔面に食らってノックアウトしてしまった。

1人1人を相手にしている暇は無い。

後ろからは今ノックアウトしたこの男と同じく空を飛んで人込みを飛び越えて来る男女のメンバーが次々にやって来る。

人込みを軽々と飛び越えられる程の芸当が出来るなんて人間業では無い。

これも魔法の類なのかも知れないが、ジェイヴァスにとってはさっぱり訳が分からない事に変わりは無かった。

(くっそぉ、ファンタジーな世界だからこんな事は当たり前なのかよぉ!? どう考えても地球じゃこんな事CGとか

ワイヤーアクションでしか出来ねーだろうがよ!)


魔法と言うこの世界独自の現象をフルに活用し、因縁の集団はジェイヴァスを追い詰めようとする。

それだけ自分の捕獲に躍起になっている様だとジェイヴァスは思いながら、目の前に今度は2人で回り込まれたので

スライディングでその2人の間を滑り抜ける。

滑り抜けた勢いのまま立ち上がって再びダッシュ。

その時、目の前に見えて来た露店の鍋の中に入っているお湯……いや、油を発見。

(これだ!)

商売をする人には悪いと思いながらも、こっちだって命がかかっている。

その鍋の両側についている取っ手を黒手袋をはめた手でむんずと両手で鷲掴みにし、中の油を自分を追いかけて飛んで来た

追っ手に思いっきりぶちまける。

「うがああああっ!?」

「ぎゃああああああっ!!」

油の熱さにのた打ち回る追っ手にとどめとばかりに鍋を投げつけ、再びジェイヴァスは走り出す。


この際騎士団でも警備隊でも誰か助けてくれる様な援軍が欲しいと思いつつも、この人込みの為なのかなかなか来てくれそうに無い。

追っ手は少し減っているものの、まだまだ数も多い、

(ちっきしょう、このままじゃ埒が明かねーぜ!)

町中を走り回って撃退して行くだけでは、何時この追いかけっこが終わるかも分からない。

40歳と言う年齢故に幾ら鍛えていたとしても全員撃退するまで体力が持ってくれる筈だって無いし、囲まれでもしたら

あの酒場の時の二の舞になってしまうのはジェイヴァスにも目に見えていた。

ならば、イチかバチかでここは思い切って勝負に出る為にクイックターンで地面を蹴り、大通りから細い通りへと入って行く。

当然後ろの追っ手も追いかけて来るし、細い通りに入った事でこれはチャンスとばかりに建物の上から魔法か何かは知らないが、

さっきからジェイヴァスを悩ませる空中浮遊の移動手段を駆使して追いすがって来る。


道の真ん中だと大勢に囲まれる可能性が高いので、ジェイヴァスは走りながらキョロキョロと周囲を見渡してみる。

すると、1階部分に商店がありその上の階層から住居スペースに使用されている建物を発見。

5階建てのそう言う建物が何件も並んでいる区画に突入した様で、上の階層に上がる為に設置された外の階段がある。

そこを上がっていけば嫌でも狭い場所での1対1になるのが予想できるが、槍や長斧等の長い武器を持ち出されてしまうとアウトだ。

だが、備え付けの階段を上がる途中でジェイヴァスが気が付いた事がある。

どうやら一定の高さから上には上がれないらしい事だった。

事実、階段を5階部分まで一気に駆け上がる途中に階段の上に回り込まれた事が何回かあったのだが、

4階部分から上に来た時にその事に気が付いた。


(あれっ、あいつ等何で階段に掴まってるんだ?)

回り込んで来た敵の攻撃を回避し、思いっ切り顔面を壁に叩き付けてから階段の下に投げ落とす。

その過程であの有り得ない移動の仕方にもウィークポイントがあるのだと悟ったジェイヴァスは、これはチャンスだとばかりにこの先の展開を考えてみる。

(あいつ等は3階部分から上にはあの動きで上がって来られない。ってなれば、上に行けば行く程俺が有利になるって事じゃ無えのか?)

非常にシンプルな考えだったが、今はこの自分の考えを信じて進むしか無い。

後ろから追いかけて来る連中に、階段の踊り場に置いてある木のバケツや物干し竿、制作中の看板のパーツ等とにかく

散乱している物を投げつけつつ屋上へとジェイヴァスは駆け上がり切った。


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