A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第42話


肉料理を胃の中に収めて満足したジェイヴァスは、酒場を出て改めて情報収集に向かう。

そこそこ広そうな町の為、情報収集には事欠かない筈だと確信しつつ色々な場所を回ってみる事にした。

ジェイヴァスが向かったのはまずこの町の服屋。

騎士団に護送されていた時のこのままの恰好では何処で誰に見られているか分かったものでは無いので、

まだこの町に来て時間が経っていない今の内に変装をしておく事で自分の身に危険が及ぶのを避ける手筈だ。

(ここだよな?)

町の人間に教えて貰った服屋の場所を確認し、肉料理の代金を差し引いた分でも変装出来るだけの

服を買えるだけの余裕があると見て、ジェイヴァスは辺りに注意を払いながら服屋へと足を運んだ。

……のだが、そこで思わぬ事態に遭遇する事になってしまう!


「何処に行った!?」

「こっちには居ないぞ!」

「向こうか!?」

バタバタと慌ただしく駆け巡る何人もの足音がすぐそばから聞こえて来るのを耳にしながら、

ロシアからやって来た軍人のジェイヴァス・ベリルードは心の中でポツリと呟いた。

(ちっきしょう、何で俺がこんな目に逢わなきゃいけねえんだよ……っ!?)

それと言うのも、あの服屋に足を踏み入れた瞬間から今の状況に繋がるまで非常に慌ただしい展開になったからであった。

服屋を見つけ、若干錆がついている金属製のドアを開けて服屋へと足を踏み入れるジェイヴァス。

キィィ……と音を立て、ドアに取り付けられた小さなベルがカランコロンと鳴った事で服屋の店内に新たな来客がある事を知らせる。

それは服屋の店員のみではならず、ジェイヴァスと同じ様に服を見に来ていた他の客の耳にも勿論届く音だった。


そして、今しがたドアを開けた張本人である招かれざる客のジェイヴァスにも……。

「……!?」

「なっ……!!」

目と目が合う。

お互いの時が止まる。

ジェイヴァスと目が合った男の手が、腰の武器にかかる。

それを見て、ジェイヴァスはドアが閉まり切る前に再びそのドアを開けて店の外へと飛び出した。

(なっ……んで……!?)

その男は久しぶりと言える……位の時間はまだ経っていない筈だが、それでもジェイヴァスにとっては久々に出会ったあの遺跡で、

そしてこの世界で1番最初に出会ったこの世界の住人である紫の髪の毛をした因縁の集団のリーダーの男だったからだ。


何故彼がここに居るのだろう。

考えられる可能性はジェイヴァスの頭の中に幾つも浮かんで来るが、分析をする暇は勿論今の所無い。

とにかく今は、この土地勘の無い場所でさっさと逃げるしか無さそうだった。

自分の後ろの方でさっきの男が、一緒に服屋に居た部下達に対して指示を出しているのがジェイヴァスの耳にも聞こえて来る。

「おい、絶対に逃がすなよ! 町中の奴等を集めろ!!」

町中にこの男の部下が居るのか……と後ろから聞こえる声を聞きながら、ジェイヴァスはさっきの自分の決意が

これで全てパーになってしまったと心の中で頭を抱える。

(あーくそっ、しつっけえなぁ!)

騎士団の世話にならない様に、そしてこの町で目立つ事はしない様に。

自分で決めたその自分自身への約束を、あれからおよそ30分もしない内に破ってしまう事になるとはジェイヴァス自身

「まさか……」と予測が出来なかった。


(この世界に神様が居るかどうかは分からねーが、もし居るとすればその神様とやらは相当残酷な試練を俺に与えてくれちまったみてーだなぁ!!)

幾ら何でもそりゃねーぜ、と恨み節を吐きつつブーツの音を響かせながら全力疾走。

後ろからは数人の足音が自分を追いかけて来る音が聞こえるので、絶対にジェイヴァスは止まる訳にはいかなかった。

止まったら何をされるか分からない。

と言うよりも止まったら捕まって何処かへ拉致されるか、はたまたその場で殺害されても何ら不思議では無い事を今までにして来ただけ

あるのでジェイヴァスはまず大通りをひたすら突っ走る。

路地裏で挟み撃ちにされたら逃げ場が無くなってしまうからだ。

今までの町と比べて大きな町である為か、大通りの人の往来もやはり多めだ。


その分逃げ難いものの、一旦人込みに紛れてしまえば易々と追い付いて来られはしないし人ごみに紛れて姿を消す事も可能になるかもしれない。

それを考えたジェイヴァスは迷う事無く人込みをかき分けて通り抜けて行くが、この時点で彼は失念していた。

ここは異世界。地球とは違う常識の存在する場所。

すなわち、自分の常識の範囲外の事が当たり前に起こってもおかしくない世界だと言う事に。

それは人込みをかき分けるジェイヴァスの上空で起こっていた。

「ど、どけっ、どいてくれ!!」

大声を上げながら往来をかき分け、何としてでも逃げ切る為にジェイヴァスは大通りを抜ける。

その後のプランは特に考えてはいないのだが、そもそもプランを考える事が苦手なジェイヴァスにとっては何時もの事だと余り気にしていなかった。

だけど流石に、上空に見えた「その」光景にはジェイヴァスも唖然として足が止まりかける程だったのである。


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