A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第26話
街道に出たジェイヴァスは町まで向かう為に歩き出そうとしたが、もっと良さそうな移動手段を見つけた。
それがこの世界では一般的と思われる乗り物。ジェイヴァスは数少ない友人に誘われて何回か乗りに行った事がある、
地球でも一部の地域では馴染み深い移動手段だ。
(ああ、馬か)
恐らくではあるが、さっきの弓使いの女が乗って来たものでは無いかと推測するジェイヴァス。
これに乗って行けば速いだろうし、移動時間も大幅に短縮出来る。
それに肩の痛みもなかなか酷くなって来た。
(車と違ってれっきとした生き物だから、なついてくれるかどうか……)
迷っている時間は無さそうである。
木に括りつけられているロープを外して馬を解放し、その背中に素早く飛び乗る。
「よーし、良い子ちゃんで町まで連れて行ってくれ」
スリスリと馬の背中を撫でてみるとそんな思いが通じたのか、馬はゆっくりと方向転換して街道をあの最初の町の方角へと進み出した。
乗馬経験は片手で数えられる位しか無いのだが、これがいわゆるビギナーズラックなのだろうかと思いながら
ジェイヴァスは馬に乗って町への道のりを逆戻りし始めたのだが、とある疑問にその馬の背中で気が付く事になった。
(あれ、そう言えば俺……あの矢を触っても何であの変な現象が起きなかったんだ?)
馬の機嫌を損ねない様に一定のペースを保ちつつ、ジェイヴァスは脳裏によぎったその疑問点について考え始める。
(確か俺はあの時、槍使いの槍もそれから防具も装備する事が出来なかったな。
もし、その事がさっきのあの女の弓にも当てはまるんだったら、俺は矢に触った時点で音とか痛みとかに襲われていた筈なんだが……)
もしかして、触る事の出来る武器や防具があったり無かったりするのでは? とジェイヴァスの疑問は大きくなって行く。
(……町に戻ったら武器屋に行って確かめてみっか。色々考えた所で埒があかねーし)
実際に武器に触れてみる事で自分の疑問が解決するのであれば是非ともそうしたいのが今のジェイヴァスだったが、
町に辿り着いた所でまず向かうのは診療所だった。肩の手当てが先だからである。
何時までもこの肩の傷を放って置く訳にはいかないので、馬に揺られ続けて太陽が高く昇る頃にはジェイヴァスは最初の町に戻る事に成功。
そのまま町の人間に場所を聞き診療所に向かう。
が、この町でやる事は肩の傷を手当てして貰うだけでは無い。
(この血が染みた服じゃ目立ち過ぎるな。元々あの野郎の服を奪って着てる訳だけど、せっかく町まで
戻って来た訳だしどうせなら何か新しい服でも買っておくか)
もしあいつ等の仲間にこの先でこの服装を見られて、そこで自分の存在がばれてしまうのは避けたい所だとジェイヴァスは
考えを巡らせた結果、診療所で治療をした後の彼の足は衣料品を扱うショップに向いていた。
(この服が着られるんだし、まさかこの店にある普通の服が着られないってこたぁねーだろ)
あの路地裏での不思議な現象による痛い思い出がフラッシュバックしたものの、色々サイズを見る為に身体に服を近づけようが
くっつけてみようが何も起こらなかった為、衣料品に関しては特に何も問題は無いだろうとジェイヴァスは判断した。
(よっしゃよっしゃ、色々欲しい服はあったが、手持ちの金が少ないからちょっとは抑えておかねえとな)
すぐに手や足が出てしまう熱血漢な性格の上、戦略や知略に関してはお粗末極まりないジェイヴァスの頭だが、
こう言った普段の生活の色々なやりくりについては妙に頭が回る事がある。
(余った分は酒代にでも回すとすっか)
しかし、こうした考え等の詰めの甘い部分と言うか考え無しに突っ走ってしまう部分が大きい為かやっぱり周囲からの評判は良いとは言えない。
そんな脳味噌まで筋肉や運動神経に侵されてしまっている様なジェイヴァスは、あいつ等の仲間にこの町で
また出会ってしまったら厄介だと考えてさっさと町を出る事に。
乗馬は町に戻って来るまでに少しだけ慣れたとは言えども、まだまだ馬術の面で不安が残る為に急ぎたい気持ちと葛藤しつつの出発となった。
服も着替えた事だしさぁ行くぞ、と意気込みながら馬を預けた場所に向かったのだが、ジェイヴァスはそこに行く途中で気になる情報を耳にしてしまう。
「なぁなぁ、聞いたかよ……宿屋のマスターが殺されたって話」
「ああ聞いた。宿泊客か誰かに殺されたって噂だろ?」
「いいや違う。この辺りを荒らし回っているならず者の集団らしい。一説によれば傭兵団だか何だかって……」
「うっひゃー、物騒だなそれ。って事はそんな危険な集団がこの辺りをうろついてるって事か?」
「どうもそうらしい。しかもその集団には魔力の無い人間が仲間に居るって話だぞ」
魔力の無い人間。
その単語を耳にして、2人の住人のその噂話に聞き入っていたジェイヴァスの足はその場から立ち去ろうとする。
だが、もう少し話の続きが気になる気持ちが足をストップさせた。
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