A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第27話
「えっ? 誰が言ってたんだ?」
「その宿屋に泊まっていた別の宿泊客達さ。しかもだぜ、その魔力の無い人間は路地裏の殺人にも関与しているらしい。
これはその殺された男の仲間が証言した事だからあくまで噂なんだがな。だけど、今はもうその男は行方不明だそうだ」
「この町から逃げたって事か?」
「かも知れないな。その殺した男の服を奪って変装か何かをしたんじゃないかって話だぜ。殺された男は素っ裸だったって話だったしな」
思わずジェイヴァスは物陰に隠れながら自分の服装を見下ろす。
(着替えてて良かったぜ……。けど、このままこの町に居続けるのは無理だ。それにもう戻って来るのも止めにしねえとな)
あの宿屋のマスターが死んだと言う事だけでも十分ジェイヴァスはびっくりする出来事だったのだが、
それ以上にあの集団の仲間だと言う疑いをかけられているのが今のジェイヴァスには到底信じられない事である。
ひとまず誰かに見つかる前にこの場所を離れるべく、若干早歩きになって顔を伏せ気味にジェイヴァスは馬の元へと向かう。
(マスターを殺したのはおそらくあの集団の仕業だろうな。確証は無いけれど、それでもこの辺りをうろついている様な怪しい集団と
言えば今の所あいつ等しか居ねえしよ)
自分が蒔いた種であるとは言え、向こうも相当頭に来ていると言う事は良く分かるジェイヴァス。
そうでも無ければこんな嘘の情報を流す様な事はしないだろうからだ。
(大体、何で俺があいつ等の仲間なんだよ。誰が流したか知らねえけど、勘違いも程々にして貰いてーな。
もしかしたら事実半分、それにあいつ等の流した噂半分って可能性もあるがな……)
とにかくこの町から脱出するのが先決だと思いつつ、馬の元へと辿り着いてジェイヴァスは町の出口へと馬を駆けさせる。
小さな町である為かセキュリティも厳しくは無く、またそれほど時間も経っていないからか彼の事を見咎める兵士の存在は
無い様でここは簡単に突破出来た。
(ふう……まずは第1関門突破って所か。だけど疑われている事が知られた以上、次の町でも余り滞在出来ねーな)
時間が経つに連れて、いずれ自分の容姿も国中に公けにされて行くのだろうか。
だったらその前に国を脱出するか、あるいはあの集団に誤解を解いて貰うかの2択しか無い。
(ちっきしょう、めんどくせー事になっちまったぜ!)
悪態を盛大に心の中でつきながら馬を疾走させるジェイヴァスだが、今更後悔したってもう遅い。
ゲームであればリセットボタンがあるのだが、これは現実なので選択ミスをする前には戻れないのだ。
そうして悪態をつきつつも、馬を操るのに慣れつつ次の町を目指して気ままな……では無くて非常に緊張感のある1人旅がスタートした。
そんなジェイヴァスは、さっきの町で噂話をしていた2人のその会話の中に出て来ていた話題に引っ掛かりを覚えていた。
(魔力の無い人間だって……?)
魔力がどうのこうの、と言うのは格闘ゲーム位しかプレイしないジェイヴァスにはまるっきり疎い話である。
世界的に有名なファンタジー映画等は一応知ってはいるものの、特に興味が無い故に別にどうでも良い情報の1つにしか過ぎなかった。
当然、魔力や魔法等が地球に存在する訳でも無い。
(あんなのはフィクションの出来事だろ。信じてるのなら空想に浸ってる奴かタチの悪いカルト集団位なもんだぜ)
元々、自分の手足を存分に使って戦う格闘技の世界に身を置いて来たジェイヴァスは魔法なんて物には縁がまるっきり無いのも当たり前だった。
(もしかして、この世界には魔法が実在してるって事なのかよ?)
思い返してみれば、あの山の中で出会ったケルベロスの様な地球に存在しないファンタジーな生き物が居る世界だと言うのを
文字通り身を持って知った経験を持つジェイヴァス。
だったら魔法の存在があってもおかしくは無いのかも知れないと妙に納得してしまった。
(でも……今の所魔力とか魔法っぽいものは見た事ねえな。どんな魔法があるのかって位は気になるが、今は調べてるだけの余裕はねえしなぁ)
そして魔力を持たない人間と言うのは恐らく自分の事だろうな、とジェイヴァスは確信に近い物があった。
(路地裏で人間を殺し、更に服を奪って立ち去った人物と言えばあの町では間違いなく俺しか居ないだろう。
だから魔力が無い人間って言うのも俺の事だろうな)
ここからジェイヴァスの頭で推測出来るのは2つのパターンだった。
(1つは、俺と同じく魔力を持たない人間がこの世界にも居るって言う事。そしてもう1つは、魔力を持たない人間と言う俺みてーな存在が珍しいものって事だ)
前者のパターンであれば自分がこの世界に居ても何ら問題ないのだが、後者だったら魔力を持たない人間と言う事で話題に上る
可能性は非常に高くなると言う事だった。
(くっそ〜!! もし2番目のパターンだったら俺は間違い無く追い込まれ始めてるって事だぜ。どっちにせよ、もたついている時間なんかありゃしねーんだがなぁー!?)
心の中で絶叫して奥歯を噛み締めつつ、ジェイヴァスは馬を少しスピードアップさせて次の町に急ぐのだった。
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