A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第24話


こうなる事はジェイヴァスも予想していたのだが、どう考えても戦力差が明確な状況だ。

(……あいつ等、真面目に命が惜しくねえみてえだな)

あの女に警告した通り、自分にあの連中が近づいて来るのであれば容赦はしないとジェイヴァスは心に決めている。

事実、あの路地裏において既に集団の1人である槍使いの男を絶命させたばかりだったからだ。

恐らく、あの馬車の御者から自分がここに向かったとの情報を手に入れたのだろうとジェイヴァスは推測する。

(それよか、今はこの状況じゃ外に出られそうにねえな……)

確かに戦うのは好きなジェイヴァスではあるが、今の状況で出て行くのは正直に言って勝ち目はゼロパーセントに等しい。

(あいつ等はここに踏み込んで来るつもりか? それならそれでとっとと踏み込んで来てくれりゃあ外に出て行くチャンスも出来そうだけどな……)

実際、この遺跡のドアは難無く開いてしまったのだから。


だが、そこでふとジェイヴァスの頭に疑問が浮かぶ。

(難無く……?)

これだけバタバタと慌ただしく動き回っているのが中からでも分かる位なのに、少しだけ待ってみても一向に

外の集団が踏み込んで来る気配は無い。

もしかしたら踏み込んで「来ない」のでは無くて踏み込んで「来られない」のでは無いかとジェイヴァスは頭を働かせてみた。

それでもこの状況では時間が経つに連れてここから出辛くなってしまうのは文字通り目に見えているので、

ジェイヴァスは正面で入り口から出るのは諦めて2階へと戻る。

(ちくしょう、こうなったら何か使えそうなものは無いか!?)

2階には窓があるが、飛び下りでもしたら思わぬ怪我をしてしまう可能性もあるのでなるべく避けたい所。

なのでここは色々と探し回ってみる事にする。


すると、2階の倉庫の中でホコリまみれではあるもののまだ使えそうなロープの束を発見した。

(おっしゃ、これは行けそうだぜ!)

そのロープを迷い無く掴んで、あの謎のモンスターと戦った大きな窓のある部屋から脱出を試みる。

窓のロックを解除する前に下を覗いてみて、まだこっちの方にはあの集団が来ていない事を確かめる。

安全をそうやって確認したジェイヴァスは、ロープの束を解いて長さをチェック。

どうやら1階には十分に届きそうである。

次にロープの端を窓の外に備え付けられている落下防止の柵があるのでそこに結び付けてガッチリ固定して準備完了。

(強度は問題無さそうだな)

グッグッと引っ張ってロープの安全確認も済ませ、柵の外側に垂らしたロープを伝ってヒラリと飛び降りる。


ここまでは順調な滑り出しになった訳だが、完全に町に辿り着くまでは油断は出来ないのだ。

(焦るなよ……)

心の中で自分にそう言い聞かせながら、この遺跡の前にある森の木々の中に身体を滑り込ませる為に様子を窺いながら向かう。

真上から見るとこの建物は長方形の形をしており、ジェイヴァスの居る場所から見て丁度反対側の面……つまり正面玄関の方に街道がある。

だったら大きく迂回してあの集団の視界から消える様に進んで行けば良いのでは? とジェイヴァスは思い付く。

(なかなか厳しそうだが、今はそれっきゃねえな)

あんまり同じ場所でまごまごしていれば、それだけで見つかってしまう可能性は格段にアップしてしまうのでここは

慎重にかつ迅速な行動を心掛ける。

卵の様な楕円形を描くラインで、急ぎたい気持ちを堪えつつ遠回りしながらジェイヴァスは遺跡の正面から左右に向かって

広がる森の中に飛び込む事に成功した。まずはこれで第1段階はクリアだ。


(軍服に着替えられりゃあ、緑色だから多少は森に溶け込んで行く事が出来るだろうがな……)

あいにくそこまでの時間の余裕は無いので、今の奪い取った服装であるくすんだ灰色のジャケットに黒い長袖の

ハイネックのインナー、同じく黒色をしている長ズボンに、ふくらはぎの中程まで覆い隠す明るい茶色のブーツ姿で行動するしか無かった。

その後も何かの準備をしているあの集団の動きを木々の間から注意深く窺いつつ、木から木へと幹を使って身を隠してジェイヴァスは移動して行く。

(一体あいつ等は何をやってんだ?)

そんな疑問から好奇心に駈られ、ジェイヴァスは少しだけ建物に近づける位置の木の陰から集団の様子をもっと見てみる事にする。

まるで魔法使いが着込む様なローブを身に纏った人間が最も動き回っているのが、この距離からでもジェイヴァスには分かった。

それ程までに動き回る理由があるのだろうかと思いながらも、様子を気にし過ぎて見つかってしまっては計画が大失敗なので退散する事に。

(もうここには用事もねえしな)

用事の無い場所でウロウロし続けるのは危険だ。

特に敵地である今のこの場所では尚更なので、ジェイヴァスは足元と周囲に警戒をしつつその集団から遠ざかって行く。

そうして、何とか見つかる事も無しにジェイヴァスは無事に森を抜けて街道に出る……筈だったのだが、まだまだこの世界の神は

ロシアの軍人に試練を課すらしかった。


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