A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第22話
今のジェイヴァスは非常に危機的な状況に追い込まれていた。
木箱を思いっきり開けてみた瞬間、まるで風船が破裂するかの様な衝撃でその木箱から
飛び出して来た1つの紫色のシルエットが空中でスライムの様に形を変えたのだ。
その形は人間型ではあるのだが、明らかに人間では無い異形のモンスターの類いである事に間違いは無かった。
手には三叉槍(トライデント)を持ったシルエットで地上に降り立ったモンスターは、そのトライデントで攻撃して来た。
パンドラの箱と同じくギリシャでは有名な武器で、しかも槍の使い手がまたもや相手になってしまった。
「くっ!!」
あの女の槍裁きよりはスピードが遅いものの、若干こっちの槍の方がリーチがある為かなかなか間合いに
飛び込めそうに無い。 槍自体は手で切っ先を弾いてブロックする事が出来たので、格闘ゲームで言う所の当たり判定は
あるのだとジェイヴァスは理解した。
(チャンスはまだあるかも知れない!!)
あの時のケルベロスの様に圧倒的な戦力差があるのならいざ知らず、今は姿かたちが「人間っぽい」と言うだけで
モンスターを相手にしている事に変わりは無いのだが、それでも人間らしい形をしているだけでいくらかジェイヴァスに
勝機を予感させるのに大いに役に立つ。
リーチがある分取り回しが利き難いのが欠点になりがちなのだが、それはこの部屋の広さが上手い具合にそのデメリットを
無くしてくれている為にジェイヴァスはやっぱり不利な状況だ。
例えばナイフとか銃とかを持っていれば話はまた違って来るのだが、それでもリーチの長さで素手は槍には絶対に敵わない。
ならどうすれば良いか?
(一瞬の隙を見て飛び込んで行くしか無いだろーがよっ!!)
上半身のジャケットを脱いで対抗する事も考えたが、脱いでいる間に距離を詰められて突き刺されでもしたらそれこそ自爆になってしまう。
だからここは1番の無難策、だけど危険な事には変わりが無い作戦で行くと決めたジェイヴァスは一旦距離を取る為にバックステップ。
当然相手も槍を突き出しながら追いすがって来るが、リーチのある槍を存分に振るえるだけの広さがあると言う事は
その分ジェイヴァスも広くスペースを使えると言う事になる。
部屋のスペースを目一杯使って槍を余裕を持って避け、相手の槍捌きの癖やスピード等をじっくりと観察する。
(昔の俺なら突っ込んでやられてるだろうな!)
だけど今は違うぜ、と心の中で相手に宣言してジェイヴァスは勝負を決めにかかる。
相手は槍を振り抜いた後に、そのリーチの長さが仇になるのか若干切り返して来るまで溜めがある事をジェイヴァスは見抜いた。
ならばそのウィークポイントを利用しない手は無い。
槍の間合いに入らない様に相手との距離を測りつつ、せっかちな自分の性格を理性で殺しながら槍の挙動を見る。
(……今だっ!)
槍を振り抜きつつあるその一瞬の隙を、長年鍛え上げた動体視力で捉えたジェイヴァスは一気に槍を両手で
相手の外側に向かって弾き、その弾き飛ばしによって相手がバランスを崩した所でジャンプ。
そのジャンプから両足を使って相手の首を挟み込みつつ空中で身体を半回転してひねり、ぐるっと自分の身体と一緒に
相手の身体を首から回転させて引き倒した。
声こそはしなかったものの、相手は思いっ切り地面に叩きつけられて大きな隙が出来る。
ジェイヴァスはすぐに起き上がり、相手に馬乗りになってボコボコと相手の顔面を黒手袋をはめた両手で殴りつける。
「この、この、このぉっ!!」
実況で言う所のバウンド状態で、相手の頭部めがけて何度も何度も拳を振り下ろす。
やがて相手がぐったりして動かなくなった所で、その紫色のオーラに包まれた身体を足を掴んでグルンとひっくり返して、
再び馬乗りになってから首に両腕を絡める。
グイーっと思いっ切り後ろに引っ張り上げ、首を絞め上げ続けて相手が動かなくなるまでしっかりと感触を
両腕で確かめながら絶命させる事に成功したのだった。
完全に息絶えたその異形のモンスターは、武器のトライデントと共にジェイヴァスの手の中からシュウウ……と
音を立てて文字通り煙の状態で宙に分散し、消えていってしまった。
(お、終わったのか……?)
これが映画ならば、事が終わって油断した主人公が復活した敵に殺されてしまう様な展開があるものだが、
どうやらそれは杞憂に終わった様である。
(今のは一体何だったんだ?)
いきなりあんな訳の分からないモンスターが飛び出して来るなんて……と未だにジェイヴァスは動揺を抑えきれていないが、
このままここでこうしていても仕方が無いので取り敢えず辺りを見渡してみる。
そんなジェイヴァスの目に留まったのは、最初にあのモンスターが入っていた木箱の破片だった。
いきなり飛び出て来たモンスターのお陰でバラバラになっている木箱だが、その中にこの部屋の大きな窓から
射し込む太陽の光を反射する金属製の物体を発見したのだった。
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