A Solitary Battle Another World Fight Stories 3nd stage第19話


自分を追いかけ始めた人間達が居るその頃、ジェイヴァスは馬車に揺られながら西の町へと向かっていた。

(たまにゃーこうして、ゆっくりと景色を楽しみながら進むのも悪くねえかもな)

馬車の窓から見える景色を楽しみながら、ジェイヴァスは暫しの休息を取っておく。

次に何時、自分に戦闘があるか分からない身分なので休める時に休んでおかなければならない。

前線の戦いに出る事があった軍人としての地球での経験が、こうした行動に活かされる結果になっているのだ。

だが、そんな休息を取るジェイヴァスに馬車の御者が声をかけて来た。

「お客さん、この先の脇道から入って行った森の奥にある遺跡の事を知ってるかい?」

「遺跡?」

「っても今はもう使われていないんだけどな、その遺跡の奥には色々と持ち帰らずにそのままに

なっている物品があるらしいから、興味深いとは思わないかい?」

「そりゃまぁ、無いと言えば嘘になるが……何でそんな話を俺に?」


ただの乗客でしか無い筈の自分に対して、世間話のつもりで振った話にしてはミステリアスな

ものだな……とジェイヴァスは思わずにはいられない。

そしてこの後、ジェイヴァスの身体に関する新たな謎の発覚に繋がるエピソードがその御者からもたらされる事になる。

「ああ……あんたは見た感じ旅人だから、そこに行けば話の種になるお宝とかが見つかるかもしれないな」

「お宝ねぇ……。でも今の口振りからすると結構有名な話だと思うから、もう根こそぎ他の旅人とか

遺跡荒らしとかの連中に持ってかれてんじゃねえの?」


そうジェイヴァスは推測したが、実際の所は全く違うらしい。

「いいや、それが……王宮の高位魔術師でも解除出来ない様な魔術のロックが入り口にかけられているらしくてな。

その魔術師の分析によれば、遺跡にかけられた魔術のロックは1000年以上前のものだそうでな。

だから解除の為の資料もまるで集められなくて、未だに調査と分析と解除が進められているらしいんだ」

「……って事はつまり、そのロックがかけられた1000年以上前から誰も足を踏み入れられて無いって話なのか?」

「ああそうだよ。見るだけならその遺跡に続く道で降ろす事も出来るけどどうする?」

「うーん……」

ジェイヴァスは苦手な戦略について、必死で頭を回転させ始めた。

(あいつ等が追いかけて来ている今の状況だけど、そこで何か地球に関しての手がかりを見つける事が出来るかも

知れねぇな。それにあいつ等が、俺が西の町へ向かうって言う情報を手に入れないとも限らねえし、そうなると……)

相手にしているターゲットの動きを予測した行動をシミュレーションして、常に最善の状況で動く事が出来る様に

色々な作戦を組み立てるのも立派な戦略になる。


そしてジェイヴァスの導き出した結論は……。

「面白そうだ、降ろしてくれよ」

「ああ分かった。でも待つのは無理だよ。今はこの馬車に貴方しか乗っていないから降ろす事が出来るけど、

普段は西の町まで直通だからね。だからこのまま西の町まで行っちゃうけど良いかな?」

「ああ、それで構わないぜ」

だったら交渉成立と言う事で、ジェイヴァスは一旦馬車から降りてその遺跡に向かう事になった。

その後に御者が話した情報によれば、今では王都からたまに調査の魔術師が思い出したかの様にやって来る以外には、

基本的に誰も近寄らない場所らしいのだと言う。


ジェイヴァスはこの辺りでは見かけない顔の為、御者が遺跡の話を振ったらしい。

その御者があいつ等の仲間だと言う可能性もジェイヴァスは考えたが、このまま馬車に乗り続けていて

あの集団に追いつかれる可能性もあるのでここで降りる行動を選択した。

「降りた場所からどれ位歩けば辿り着く?」

「んん? すぐだよ。5分位さ」

「そうか」

馬車を降りて道なりにそのまま歩いて行けば、自然に遺跡の入り口が見えて来るらしい。

そしてロックに関しても御者がジェイヴァスに話してくれたのだが、その入り口のドアに触ってもまるで

実体が無いかの様にスカッと手がすり抜けてしまうのだと言う。


それでも、ジェイヴァスは1度その遺跡に行ってみる事で地球へ帰る事が出来る手がかりを見つけられれば

それで良い、との考えだった。

(ここでスルーしちまって、手がかりが実はここにありました……なーんて事になったらジョークじゃすまねえからな)

例え何も無くて無駄足だったとしても気になるポイントとしてチェックしておけるし、更にもう1つ……あの集団が

追いかけて来た時のシミュレーションで回避行動に繋げられる事にもなる。

(あの集団がもし俺を追いかけて来ていると仮定したら、あの馬車に乗っていると言う事も掴んでいる筈だ。

更にあの御者を尋問して俺の行き先を聞き出し、直接この遺跡に来ると言う事も考えられるな。

しかし、あの御者が言うには遺跡は森の中にあるって話だから死角になる場所はそれこそ沢山あると思う)

だったらその死角に隠れるだけだぜと思いながら、御者に馬車から下ろされたジェイヴァスは遺跡への道を

ブーツで踏みしめながら歩き出した。


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