A Solitary Battle Another World Fight Stories 3rd stage第1話


「何処に行った!?」

「こっちには居ないぞ!」

「向こうか!?」

バタバタと慌ただしく駆け巡る何人もの足音がすぐそばから聞こえて来るのを耳にしながら、

ロシアからやって来た軍人のジェイヴァス・ベリルードは心の中でポツリと呟いた。

(ちっきしょう、何で俺がこんな目に逢わなきゃいけねえんだよ……っ!?)

勿論、この状況をジェイヴァスは望んで起こした訳では無い。

悪態をつきつつも、今のこの状況になるまでの経緯を思い返しながら、どうやってここから

脱出して行けば良いかを考え始めた。


ロシア陸軍に所属しているジェイヴァスは少佐の地位にある軍人だ。

そして今の奇妙な事態の原因……かどうかハッキリとは不明なのだが、原因の1つかもしれない他国との

合同訓練に赴く事になったのが2016年の11月16日から22日までの事だった。

その合同訓練においてジェイヴァスは指揮官の1人として参加していたのだが、まさかこの合同訓練がきっかけで

今までの40年の人生における最大の出来事に見舞われようとはジェイヴァス自身が思いもしない事だった。

(あー、ウォッカ呑みてぇ……)

ロシア国外で行われているこの合同訓練。

ジェイヴァスは慣れない国の環境でフラストレーションが溜まっていた。

寒いロシアの冬を過ごすには、アルコール度数の高い酒は必需品と言える物だった。

しかし、夜にウォッカの様なアルコール度数の高さで有名な酒を呑んで寝てしまい、翌日の訓練において

2日酔いで頭痛に苛まれたり酒臭い口で部下に指示を出す訳にもいかなかった。


しかも今回の合同訓練は相手が1か国だけでは無く、同じヨーロッパのドイツを始めとしてガラダイン王国に

ヴィサドール帝国と合計4か国の合同だから尚更ロシア代表の自分が恥を晒す訳にはいかないのだ。

5年前の35歳の時少佐の地位になったので、年齢相応かもしれない昇進をして来たジェイヴァスは

そんなウォッカ不足のフラストレーションに悩まされながらも、指揮官としてのやるべき仕事はきっちりこなしていた。

(ああ……こうなったら最終日に思いっ切り町の酒場で呑んでやるぜ)

ロシア代表の自分達の部下が成し遂げた今日の訓練結果の書類をイライラしながら纏め上げ、ボスっと椅子にもたれ掛かる。

訓練結果でロシア軍の成績は芳しくない。

自分だって指揮を執るよりも前線で戦う方が性に合うタイプだと自覚しているので、昇進して少佐になったのは

間違いだったかなと個人的に思う日々がここ2〜3年続いていた。

それでも、もう今更ついてしまった肩書きに文句は言えないのでジェイヴァスは大人しく今の地位で自分の仕事をするしか無いのだ。


早く合同訓練の最終日にならねーかなと思いつつ、飯を食いに行って気を落ち着かせようとジェイヴァスは部屋から出る。

ここから食堂はそう遠くない。

だからさっさと食べ物を胃に収めてしまえば少しは来も紛れるんじゃ無いかと期待を込めての行動だったが、

その行動がジェイヴァスに思わぬ事態を呼び寄せる事になってしまう。

(ふー、食った食った)

食事とは言えまだ形式上は合同訓練中なので、酒が呑めない代わりに色々と出された料理をジェイヴァスは

しっかりと完食し、書類を纏めていた部屋に戻る。

自分の寝室も兼ねてあてがわれたこの部屋だったが、部屋のドアを開けて椅子まで向かう足取りの中でふと奇妙な事に気がついた。


(……ん?)

部屋の片隅で何かが光った様な気がした。

角のスペースを埋める様にして置かれている、観葉植物の大きな植木鉢。

その植木鉢の影辺りで、一瞬ではあるが鋭く何かが光った気がしたジェイヴァスは、何だかその光が気になったので

何の気無しに近づいてみる。

(何だぁ? 結構眩い光り方だったぞ?)

一体何が光ったんだろうかと原因究明の為に観葉植物に近づいてみると、その瞬間ジェイヴァスの目に

信じられない光景が飛び込んで来た。


「うお!?」

何と、その観葉植物が突然サーチライトの様に光り出す。

思わずその眩しさに腕で顔を覆ってぎゅっと目を閉じたジェイヴァスは、身体がふらつく感覚に襲われる。

「くっ……!」

軍人として鍛えられたバランス感覚で何とか持ちこたえたものの、腕を退けてみたその目に入った光景に

ジェイヴァスは間の抜けた声を思わず上げてしまった。

「は……?」

おかしい。絶対におかしい。

だって、今の今まで自分は暖房のきいている部屋の中に居た筈だ。

なのに何故、周りが石造りの壁に囲まれた堅い地面の部屋に立っているのだろうか?


こんな部屋の状況は絶対にあり得ない。

原因があるとすれば、間違い無くさっきの観葉植物から発せられた強い光しか考えられなかった。

「……何だ、ここは……」

思わず呆然とした口調の呟きが漏れてしまったジェイヴァスだが、一旦手に嵌めている黒の革手袋を

右手だけ外して自分の頬を思いっ切りつねってみる。

「いっだあっ!?」

どうやら幻覚でも幻でも夢でも無いらしい。

これは……この今自分が見ている光景、それに踏みしめている地面の感覚、そして換気もしていない建物独特の

籠った空気の臭いとその全てがどうやら本物であり現実であると手袋を嵌め直しつつジェイヴァスは認めざるを得なかった。


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