A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第50話
対照的な動作で料理を堪能する2人だったが、その料理の最中にふとクリスピンに
対してロシェルが口を開いた。
「そう言えば俺、団長に聞いてみたかったんですけど」
「何だ?」
「団長は、何で騎士団に入ろうと思ったんですか?」
単純に興味本意で聞いてみたのだが、その瞬間クリスピンは表情を少し曇らせる。
その表情を見て、ロシェルは首の後ろに冷や汗が流れるのが分かった。
「あ、いやあの別にまずい事だったら……」
「構わん。だが長くなるから料理を食べ終わってからにする。少し待て」
そう言ってクリスピンが残りの料理を何も喋らずに平らげ始めたのを見て、ロシェルも少し
ペースアップして同じ様に食事を終わらせにかかった。
「はぁー、食った食った」
「話し始めても良いか?」
「ああ、そうでしたね。お願いします」
新しい他の客はまだ入って来ないが、酒場の席に座りっ放しでは身の上話もある為に場所を
移した方が問題無いだろう、と判断したクリスピンは一旦酒場を出て騎士団の詰め所へと戻り、
あの宛がわれた部屋の鍵をしっかりと閉めて外の気配も確認してから改めてロシェルと向き合った。
ロシェルはベッドの端に腰掛け、クリスピンは窓のそばの壁に寄りかかって腕と足を組んでから口を開く。
「私は別に、騎士団に入ろうと思って入った訳では無いのだ」
「え……?」
初っ端からのまさかのセリフ。
それも騎士団長と言う、肩書きは騎士団のトップに君臨する人間が発するセリフとしては随分予想外な
セリフにロシェルは言葉を失ってしまった。
騎士団に自分の意思とは関係無しに入ってしまった様なそんな人物が、騎士団のトップまで上り詰めるものなのだろうか?
(いや、でもちょっと待てよ……?)
ふと考えて見ると、その昔にはアジアの日本と言う国で大活躍していたとされるボクシングの選手のエピソードで、
元々ボクシングに興味が無かったしやろうと思ってなかったけど、天性のセンスを認められて世界チャンピオンまで
上り詰めた人間が居た……と言う話を思い出した。
そんな事を思い返すロシェルの横で、クリスピンは自分の生い立ちを話し始めた。
「私は代々騎士の家系に生まれ育った。それで同じく騎士団に所属していた父上から、武芸や戦術等を
徹底的に叩き込まれて来たのだ」
「え……と言う事は、将来はなりたい職業が別にあったって事ですか?」
その疑問にクリスピンは首を横に振る。
「それは特に無かった。騎士団員の家系だからこそ、騎士団の道しか用意されていなかったと言うのが正しいか。
だから私も将来は必然的に騎士団に入るものだと思っていたし、武器や体術、馬術の鍛錬や礼儀作法の
練習をほぼ毎日4歳の時からしていれば自然とそうなるだろう。私には兄弟も居ないからな」
いわゆる1人っ子だから、騎士団員としての家系を途絶えさせない様にしたのか……とロシェルはその説明を聞いてそう思った。
「でも、騎士団長まで結局上り詰めた訳ですよね? 歳もたぶん俺とそんなに変わらないと思いますから、
凄いなーって思いますよ」
「そう……だな、私とお前はそんなに年齢が変わらないか。私は28歳だ」
「え!?」
まさかのセリフがこれで2回目。
「って事は、俺より年下なんですか?」
「そうなのか? 事情聴取の時には年齢までは聞いていないから分からないままだったが、今は幾つなんだ?」
「29歳です。と言っても、向こうに居たままだったらもう30歳になってます。向こうの世界に居た時から数日後が
俺の30歳の誕生日だったんですよ」
「誕生日か……そんな時に右も左も分からない世界に来て、色々な事に巻き込まれたのか」
「本当ですよ。この20代と30代の節目は俺、絶対に一生忘れられないと思いますね」
ただでさえ世代が1つ変わるのに、まさかの異世界に迷い込んでしまうと言うとんでもない出来事になってしまったのだから
ロシェルにとっては忘れたくても忘れられそうに無かった。
そして今度は、そんなロシェルにクリスピンが聞いてみる。
「そう言うお前はどうなんだ? 何故軍に入った?」
「俺ですか? 俺は全然シンプルな理由ですよ。俺は14歳からムエタイをやってまして。将来は漠然とこの仕事に
就きたい……って思った事が無くてですね。ムエタイやってたからせっかくだし体力を活かした仕事に就きたいなって
思って入ったのが、今の俺が所属している帝国海軍なんです」
「ああ、お前みたいな理由の人間は我が騎士団にも沢山居るな。良くある話だ……」
本当にシンプルな理由過ぎて、少し拍子抜けな顔をしたクリスピンだったがすぐに真顔に戻る。
「何はともあれ、今の俺は1人の軍人だからまだここでくたばっちまう程では無いですよ。少なくとも地球に帰る方法と、
それから爆発事件の犯人を見つけるまでは死ねませんね」
「そうか。なら今日はもう夕飯も済ませたし陽ももう落ちたから、明日に備えてそろそろ寝るとしよう」
「はい、分かりました」
手がかりを掴む為には迅速な行動が必要だと思うのはロシェルもクリスピンも一緒の様なので、2人は早々にベッドに潜り込むのだった。
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