A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第49話


3度目の敗北から3日後の夕方。ロシェルとクリスピンは1つ目の町へとやって来た。

クリスピンには手合わせを頼むのをこの1つ目の町まで一旦やめて、

クールダウンの意味と自分のムエタイのテクニックの見直しを兼ねてゆっくり身体を休めていた。

手合わせの事を考えないのであれば、ロシェルにとっては順調な滑り出しと言えるだろう。

そうして1つ目の町に着いた2人は、最初にこの町の騎士団の詰め所に行く事にする。

「まずは騎士団の詰め所へ私と一緒に行くんだ」

クリスピンはロシェルの監視も大公から命令されているので、その為にもロシェルを

単独で行動させる訳にはいかないのだ。

ロシェルにしても、今までのそんなに過ごしていないこの世界でのいろんな出来事で、

単独行動する事には大きな不安があるので別にそのクリスピンのセリフに逆らう理由も無かった。


「あれ? 詰め所って余り大きく無いんですね」

クリスピンと一緒にこの町の騎士団の詰め所までやって来たロシェルは、その詰め所に使われている

2階建ての木造建築の建物を見て疑問を口に出す。

「町の規模が規模だから、これ位の大きさの詰め所で十分だ」

詰め所と言うからせいぜい警察の分署位かなとロシェルもそこまで大きな建物を想像している訳では無かったが、

アメリカの映画で良く出て来そうな古めかしいモーテルの様な大きさと外観、と言われれば非常にしっくり来る。

そのモーテルを思い起こさせる詰め所の2階にロシェルは案内され、騎士団員の仮眠室の1つがあてがわれる。

「今日はここで宿泊して貰う。言っておくが、私も隣で寝るから監視は続くぞ」

そのクリスピンの宣言に、ロシェルはポツリと本音を漏らす。

「何か、重罪人の護送みたいですね」


半ば冗談のつもりでそう言ってみたのだが、当のクリスピンは本気らしい。

「当然だ。今のお前はまだあの爆発事件の容疑が晴れていない容疑者の立場なのだぞ? それに私は

大公からの命を受けてお前を監視しているのだからな。絶対に逃がさんぞ」

「……ああ、そう……」

この騎士団長は自分とは正反対の、物凄い堅物の仕事人間と言うイメージがまさに

ピッタリな男なんだなぁ……とロシェルは思わずにいられなかった。

一旦詰め所に荷物を置いて、ロシェルとクリスピンは町の中に繰り出す。

しかし遊びに行く訳では無い。これから先の旅路は何が起こるか分からないので、夕食を兼ねた情報収集を

酒場で行う為だった。 都のペルドロッグから離れているとは言え、クリスピンは騎士団の遠征の途中で国内の

色々な町や村を回っている経験がある為に今のロシェルにとっては非常に頼りになる存在だ。


事実、今の酒場に向かう足取りも全く迷いが無い。

(やっぱ、騎士団の団長だけあって国中を知り尽くしているって事か……)

ペルドロッグだけでは無く、国中が彼にとっては地元の人間と言うイメージがしっくり来ていたロシェルを尻目に

クリスピンは酒場のドアを開ける。

店内は詰め所と同じ様に木製の壁や床を使用しており、地球で言えばレトロチックな雰囲気を醸し出している

バーとレストランの合体と言った感じだった。

そしてこれまた木製の丸いテーブルが店内には等間隔に並べられており、1つのテーブルに詰めれば4人まで

座れるらしく椅子が3つのテーブルと4つのテーブルが混じっている。

地球の軍人と異世界の騎士団長は、その内の1つのテーブルに向かい合う形で席について適当に料理を頼んだ。


そして料理が運ばれて来るまでの間に、クリスピンが席を立って周りの客達のテーブルを回って情報収集を始める。

(本当、あの騎士団長は仕事熱心だなー)

せっかく酒場に来たんだから酒でも頼めば良いのに、とロシェルは情報収集をするクリスピンを遠巻きに見ながら思っていた。

実際、料理を注文したクリスピンは酒では無くて紅茶を注文。ロシェルも紅茶は飲めない訳では無いので

同じ紅茶を頼んで貰ったが、本音を言えばビールが飲みたかった。

しかし、ビールと言いかけた所でクリスピンからロシェルは人を殺せそうな位の鋭い目付きで睨み付けられてしまったので、

慌てて吃りながらも同じ紅茶を注文した。


そんなさっきの出来事を思い返して溜め息を吐くロシェルの元に、その溜め息の原因となった騎士団長が戻って来た。

「この辺りでは、特に怪しい集団の目撃情報は無いらしい」

「……うーん、ハズレですか」

クリスピンはあのペルドロッグでの爆発事件の犯人の情報、それからロシェルを路地裏で襲ったあの集団の仲間が

この辺りで目撃されていないかどうかの情報収集をしていたのだが、成果は全然だった様だ。

「別の方角に逃げたか、あるいはペルドロッグに姿を隠して潜んでいるか、もしくはもっと先の町まで行ってしまったか……」

考え込みながらも、目の前の肉料理に優雅な手付きでナイフとフォークを入れるクリスピン。

ロシェルは半ばかぶり付く様にして付け合わせのサラダを食べているので、こう言う日常の動作で育ち方の違いや

マナーの有無が見て取れた。


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