A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第40話


「ふー……」

1番狭い筈のこの武器庫でも、まだ何処に何があるのか分からないロシェルは

慣れない手つきながらも何とか整理を終わらせる事が出来て息を吐く。

「これで……宜しいですか」

「ああ結構。だが仕事はまだまだあるぞ。次は隣の鍛錬場の整備をして貰おう」

地面が荒れて来ていたから丁度良かった……とブツブツ呟きながら歩くクリスピンの

後ろ姿を見て、これも仕事だから頑張るかとロシェルは気合を入れ直した。

(ただ飯喰らいって訳には行かないだろうしな)

ギブアンドテイクの精神はこの世界でも重要なんだろうと肌で感じつつ、ロシェルは鍛錬場へと

足を踏み入れて次の作業の説明をクリスピンから受け始めた。


「はぁ……疲れた。やっと初日が終わった……」

割り当てられた部屋のベッドにどさりと仰向けに倒れ込み、自分以外誰も居ない部屋の空間に

そんな言葉を吐き出すロシェル。

軍人として日々身体を鍛えているので体力は有り余っている分、1つずつの作業に関しては

そこまできつい物では無かったのだがそれを何個も頼まれたとなれば話は変わって来る。

ロシェルだって、コラードだってそしてクリスピンにだって。どんな人間にも絶対体力の限界がある。

そうでなければ人間では無い。


(あー……風呂に入るか)

部屋の隣に併設されている小さいながらもしっかりとしたバスルームに向かい、風呂に入る為に軍服の

ジャケットとワイシャツ、そしてズボンと脱いでそれ等をクリーニング用に用意されているカゴに放り込んで、

バスルームへと続くドアを開ける。

この世界にもシャワー設備と言う物があるらしく、魔術を使って川から水を引いてからそれをまた魔術で

湯の温度まで温めて地下に貯蔵しておき、シャワーのコックを捻れば温かいお湯が出て来ると言う事らしい。

そんなこの世界の風呂に入ってさっぱりし、部屋の外に居る兵士に軍服のクリーニングを頼んで、

夜着に着替えてから改めてベッドに倒れ込む。


「こんな生活、一体何時まで続くんだろう……」

仰向けのまま、ポツリと暗闇の中の天井を見上げながらロシェルは呟いた。

行動を制限されてしまっている以上、今は城の手伝いをするしか無い事は今までの過程の中で

分かっている事なので、今更溜め息をついた所でどうなる訳でも無いのだが、それでもこのもどかしい

気持ちを抑える事は出来そうに無い。

でもやっぱり、城の外に抜け出そうにも土地勘も金も無い今の状況ではすぐに捕まってしまうのが落ちだろうと

判断してロシェルはそんな考えを振り払う様に頭を左右に振った。


それから次の日も、そのまた次の日もロシェルは城の手伝いをしながら書庫に通い詰めて何か有益な

情報が無いかを探してみる事にしていたのだが、沢山ある書物を幾ら調べてみてもさっぱり何も掴めそうに無い。

(これじゃ時間の無駄に終わっちまいそうだぜ……)

一体どのくらいの時間が地球に帰る為のヒントを掴むまでにかかるんだろう……と書物がぎっしり詰まった

本棚を横目で見て、溜め息を深く吐きながら開いた本のページの上に横顔から突っ伏す。

(どうしたもんかな……この世界から地球に帰れたとして、俺はその時にはもう白髪まみれのオッサンになってんじゃねーのかな)

ポジティブな性格故に、自分の結末を悪い方に考えてしまう事そのものが珍しいロシェルだったが今の状況から

してみればそう言う考え方になってしまいがちだった。


だがその時、ふっ……とロシェルの頭を1つの単語がほんの一瞬だが過ぎった。

(厳重機密書物……!!)

その単語にロシェルの脳が急激に支配されて行く。

(そうだ、そこにもしかしたら!?)

だけど、その厳重機密書物を保管している場所は以前クリスピンから聞いた話によれば魔術による最上級レベルの

強力な結界がかかっているらしく、事前に魔術の結界を魔術師によって解いて貰わなければすぐにこれも魔術で

作られた警報装置が作動してすぐに常駐している警備の騎士団員や魔術師が押し寄せて来るのだと言う。

でも、その結界の先に自分が地球に帰る事の出来るヒントがあるかも知れない。


(そうは言ってもなぁ……クリスピン団長が許してくれる訳無いだろうし……)

あの堅物の団長の事だから、絶対にNOを出すに決まっている。それに幾ら全面協力を申し出てくれた熱血な

あの大公でも、流石に国の厳重機密書物をほいほいと見せてくれるともロシェルは思えなかった。

(となれば取れる手段は1つだろうよ!)

魔術の結界をどうにかして解除し、そしてその先にある厳重機密書物を自分の手で確かめる。それだけだ。

(まずはこの書庫の中にある、あそこのドアにどうやって入るかを考えなきゃな)

幸いにも、今ロシェルが座っているこのテーブルからその書物を貯蔵している場所に続くドアが見えている。

しかしこの書庫の中には司書の人間や常駐の兵士が居るので、何とかして注意を反らさなければすぐに

自分の行動がばれてしまって計画が破綻してしまう。 肉体派のロシェルにとっては小難しい作戦を考えるのが

苦手なのだが、それでも今は必死に頭をフル回転させるしか無かった。


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