A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第41話


まずロシェルは一旦、今読んでいる本を本棚に戻しに行く。

その途中でなるべく悟られない様に、横目で司書や騎士団員の位置をある程度把握しておく。

すると、その観察の過程である事に気が付いた。

(あれ? ずっとこっちの方を見ている訳じゃねーのか……)

騎士団員も司書も、自分の動きを目で逐一追っているのかと思えば実はそうでも無いらしい。

(もしかしてこれはチャンスなんじゃねーか?)

無性にそんな気がしたロシェルは、今の自分が持っている本の中で最もそのドアに近い場所に

戻す本を選ぶ……つもりだったのだがあいにく場所を覚えきれていない為に、その作戦は

失敗に終わってしまった。

だが、その失敗が逆に成功を呼び込む事になる。


本を戻すのに時間が掛かったお陰で、ロシェルは「本を選ぶのに時間がかかる人間」だと言う

イメージを司書や騎士団員の心に植えつける事が出来た。

ロシェル自身は気が付いていなかったのだが、自然と自分に有利になる様に事態を進める事が

出来ていたのである。

当のロシェルはまだドアには近寄らず、ある程度の距離を目測で測ってから一旦別の本を選んで

自分が本を読んでいたテーブルに戻った。

(焦るなよ……まだだ、まだまだタイミングを見計らって……)

何度も何度も繰り返し、心の中で自分にそう言い聞かせつつ持って来た本の中身に目を通す。


その持って来た本の内容に地球に帰る為のヒントが載っていればわざわざこんなリスクを犯す

必要は無いが、その数冊の本にも相変わらずヒントは載っていそうに無かった。

(くそっ、これも何も無し……ああ、これもだ。とするとやっぱ……)

再び数冊の本を本棚に戻しに行くその足で、いよいよ立ち入り禁止の魔術によるセキュリティがかかっているドアへと向かう。

見た目は黒光りする革張りのドアで、城の中で見たどのドアとも違うドアである。

その革張りのドアの手前の床には、いかにもセキュリティがありますと言わんばかりの金属製の低い柵が立てられている。

(触ったら警報が鳴る……とか?)


だったらその柵に触れない様にして行けば良いんだろ、と覚悟を決めてロシェルは柵を小さなジャンプで飛び越える……が。

(……ありゃ?)

予想に反して何も起こる気配が無い。てっきり何か起こるかと思っていたロシェルは肩透かしをくらった形になる。

(あ、これはただのディスプレイだな! 本当の仕掛けは恐らくこっちに……)

心の中で気を取り直し、問題のドアに手を伸ばして取っ手を掴んでグッと押し込んでみると……。

「んん……!?」

そのドアはいとも簡単に、ロシェルの押す力に従って奥に開いてしまった。

(あ、分かったぞ!! この先に仕掛けがあるんだな?)

そうで無ければ、このドアがこんなに簡単に開いてしまう訳が無いしな……とここまで来たらもう後戻りは出来ない

ロシェルは1度後ろを振り返って書庫の様子を確認し、自分の方に司書や騎士団員の注意が向いていない事を

確認してから再びドアの方を向いて歩き出す。


(結構急だな)

ドアの先は螺旋階段になっており、手すりこそ壁に取り付けられているもののかなり急な階段が地下に向かって建設されていた。

(しかもこれ、石造りだから靴の裏が濡れてたら滑ってまっ逆さまに下まで落っこちちまうぜ)

そんな石造りの階段を、手すりのアシストも利用して素早くロシェルは駆け降りる。

(何かこうして歩いていると、どっかの秘密基地って感じだなー)

しかしその階段はすぐに終わってしまった。体感で言えば地下3階と言う所だろうか?

そして階段を降り切ったロシェルの目の前に、今度は鉄で作られた重量感たっぷりの不気味に輝くドアが現れた。

(えっとこれは……もしかしてここにセキュリティが……無いのかよ)

そのドアも何の抵抗も無くすんなりと手前に引く形で開いてしまう。

クリスピンが言っていたセキュリティ云々の話は、自分をここに近付けない様にする為のデタラメだったんじゃ……? と

ロシェルは段々疑惑の念が頭に浮かんで来たが、今はそんな事を気にしても仕方が無いかと思い直してドアの先へと

足を踏み入れた。


(ここは……)

ドアの先にあったのは、さっきの書庫よりも更に薄暗い部屋の中にある、何個かの本棚が置かれている1つの小部屋であった。

石造りの壁には魔術か何かを利用しているのであろう壁掛けランプが至る所に吊り下げられており、いかにも地下の

隠し部屋という雰囲気がぴったりである。

結局セキュリティに関してはあっさり過ぎる程ここまでやって来る事が出来たので微塵も感じられなかったが、もしかしたら

無音で何かの警報が作動していたりセンサーに感知されているかも知れないとロシェルは思い至る。

(もしそうだったらまずいな。とりあえず何冊か見繕って、そして上でこっそりと読ませて貰うとするか)

あのテーブルを離れてから結構な時間が経っているので、ばれている可能性は高いと言えるだろうがここまで来てしまったら

もう今更後戻りも後悔も出来ない。

ひとまずどんな本があるのかを調べようと、ロシェルは本棚の1つに向かって踏み出した……その時だった。


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