A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第1話
どうしてこんな事になったんだろうか。
そんな事を考えながら、ふとしたきっかけでこの妙な世界にトリップして来てしまった銀髪の男は
息も荒く身を潜めていた。そもそも、彼が何故今の様な状況に陥っているのかといえばこれまでに
様々な経緯があったからで、しかもまだ彼には山場が待ち構えていたのである。
これから始まるストーリーの主人公を勤めるこの男は、ヴィサドール帝国と呼ばれるヨーロッパの
1つの国で帝国陸軍に所属しているリオス・エルトレイン。少佐の地位を持っているだけで無く、過去には
帝国軍内の部隊別模擬試合トーナメントで自分が習得したカポエイラを使用して見事優勝した経験を持っている。
基本的に、彼は周囲からクールな性格であると評価される事が多い。
余り感情は表に出さないし、冷静沈着に物事を進める。それは自分自身でも分かっている事だった。
だけど、いくらクールな性格であるとはいっても彼はその前に人間である以上理解に苦しむ事だってある。
今はとにかく、この不可思議な状況をどうにかして理解しなければならない。
しかしそれには時間が掛かりそうだという事もまた事実。少なくとも、この状況は夢では無さそうだった。
周りを見渡すと、ここはどう見ても何処かの町らしき場所の路地裏だった。でも、決定的に違うのはまず建物だ。
中世ヨーロッパに出てきそうな建物の造りをしている。リオス自身もヨーロッパの国の生まれである以上、馴染み深い光景ではあった。
しかし、その光景は今だけのものである事を思い知らされる事態にこの後リオスは遭遇する。
実の所、今のリオスは内心で非常に焦っていた。
何故なら自分はこんな場所に居る筈が無いと言う事実を受け容れられないだけでは無く、こんな場所に居ないでさっさと自分が
やるべき事をやらなければならない場所に戻らなければいけなかったからである。それにはきちんとした理由があるのだが、まずは
この状況を把握しない事には戻るべき場所に戻る事も出来ない。
(それにしても、ここは一体何処だ……? 俺は森林地帯に居た筈なのに、この様な市街地戦に参加した覚えなど無いぞ)
自分はいわゆる「名ばかり少佐」。もともとは戦争でヴィサドール帝国の将校たちに多数の戦死者が出る事態になってしまい、
その結果として大尉の地位に居たリオスが2011年……5年前のに30歳と言う若さで少佐に抜擢されたのは能力が
あったからでは無く、人手不足で仕方無く昇進させられた。
それも自分が良く分かっている事なのだが、肩書きだけでも少佐の地位に居る自分がこんな場所で独りぼっち、と言うのは
ありえない状況。しかも、少佐の地位ともなれば指揮官になる為に訓練を受けるものだが、そんな人間が身勝手に行動する等
あってはならない事である。
ひとまずは誰か他のメンバーを探すべきだと思い、リオスは意を決して歩き出す。このまま黙ってここに居ても事態は進行しない。
だが、その足取りはすぐに止まってしまった。何故なら、リオスの目前から数人のものと思われる足音が聞こえて来たからだ。
「何者だ」
「誰か居るのか?」
誰かの声とリオスの声が重なったのは文字通りほぼ同時。
薄暗い路地裏の闇の中からリオスの前に姿を現したのは、これまた中世ヨーロッパのストーリーに居てもおかしくない
格好をした3人の男女だった。薄暗い路地裏でも分かる程の銀色に光る甲冑に身を包み、1人の腰にはロングソード、1人の
腰には短い手斧、女の手には弓が握られていた。
何だこの3人は……何かのイベントに迷い込んでしまったのか? とリオスは思わざるを得なかったのだが、次の瞬間そんな
リオスの目前に不気味に輝く切っ先が突きつけられた。
「……!?」
リオスはその瞬間、反射的に身を屈めて後ろ手に地面に両手を着き、地面に着いたその手を踏ん張ってバネにして身体を
前に押し出す。足を真っ直ぐ……というよりはやや斜め上に伸ばすのも忘れずに。
その足が蹴ったのは剣士の男の足。足技のスペシャリストのリオスが低い体勢から攻撃出来るならば相手の足を狙わない訳が無かった。
「ぬお!?」
いきなりのトリッキーな動きに剣士の男は対処し切れず反応が遅れ、足を取られて背中から後ろに倒れ込み他の2人を巻き込んでしまった。
倒れ込んだそんな3人を尻目に、リオスは3人の脇をさっさと通り過ぎる。しかし、こんな展開は何かの遊園地のアトラクションでも
無ければ映画やドラマの撮影でも無さそうだった。
そもそも俺はアトラクションに挑戦した覚えは無いし、映画やドラマの撮影のオファーだって来た覚えも無いとリオスは思いつつ、
後ろからさっきの3人が追いかけて来る気配をひしひしと感じ取っていた。
だけど、この状況で今の自分がさっきの3人から逃げ切れるかどうかという可能性について考えてみれば、その答えはNOだった。
だって俺はこんな場所、少なくとも今の段階では見た事が無い。でももしかしたら……。
そのリオスの僅かな疑問に答えるかの様に、自分の足が地面を蹴って路地裏を進む。そして足が自分の身体を運んだ先は……。
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