A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第2話


壁。

リオスの行く手を無機質な石造りの家の壁が阻む。

こんな事ならさっき、反射的に反撃せずにあの3人に色々と聞けば良かったと思ってももう後の祭りだ。

咄嗟にリオスは周囲を見渡す。

すると、右斜め上に何とか飛び付けそうな高さの小窓を発見した彼は、迷っている暇も無しと背の高さと

長い脚のバネを活かしてジャンプ。何とかギリギリ飛び付く事が出来、窓から中に潜り込む事に成功した。

けど まだ油断は出来ない。

さっきの3人組もさほど時間を置かずにやって来るだろうし、この窓に自分が潜り込む事を予想出来ないとは

考えにくかったので、素早く立ち上がって何処か別のルートを探す為に歩き出した。


リオスが潜り込んだのはトイレだった様で、その臭いに顔を若干しかめながらもトイレから出る。

とんでもない所に飛び込んだな、とリオスは溜め息を吐き出してこの民家から脱出を試みる。床は木製なので

歩く度にギシギシ音が鳴るが、出来る限り最小限の足音で気配を探りながら進む。別に潜入ミッションをしている訳では

無い事はリオス自身が最も理解しているが、この状況については未だに理解出来ないので自然にこういう足取りを脳が命令している。

さっきのジャンプも含めて、伊達にカポエイラで足技を鍛えている訳では無い。

しかも、余りにも特殊な格闘技や武術で無い限りは格闘技をやっている人間はつま先立ちになる傾向がある為、自然と

音を立てない様な歩き方が身につくとも言われているのだ。

(やっぱり格闘技にも例外はあるがな……)

ヴィサドール帝国軍に入ってからは軍隊格闘術も習得する事になったリオスは、カポエイラでの身体の使い方とはまた違った

軍隊格闘術における身体の使い方、歩き方、トレーニング方法を習得した。しかしもともとはカポエイラの使い手である為か、相手を

惑わせる……というよりも相手がまるで予想もしない様な場所や体勢からの攻撃や反撃の仕方をする事で、軍内部のトーナメントで

対峙した相手からは「非常にやりにくかった」との嬉しい様な嬉しくない様なコメントを貰っている。

その関係で、今の革靴を履いている状態でもなるべく音を立てない様に歩き続ける事が出来ているのでこの点に関してはリオスは

今までの自分の経緯に心の中で感謝していた。

トイレを出てから壁も木製の廊下を歩き、その突き当たりにあるこれまた木製の階段を素早く駆け下りる。

たった1人の今の状況で、さっきの様に3人同時相手というのは無理難題である。なので敵に見つからない様に脱出する事が

最善策なのは言うまでも無かった。


が、そう思っていたリオスの前に気配が現れた。

明らかに人の気配だ。

リオスはその気配に身構えながら、気配が何処から出て来るのかを探る。

(何処だ……?)

良く良く探ってみれば、その気配は1つだけでは無い。むしろ沢山だ。おおよその見当でも10人以上の気配がある。

だとすれば、ここは普通の民家では無さそうな予感がリオスの脳裏をよぎる。そもそも考えてみれば、今しがた自分が歩いて来た

廊下だってそうだ。薄暗くて気付きにくかったが、さっきの廊下の壁際には同じ造りのドアが並んでいた。

そしてこの今自分がやって来た1階部分は、まるで地元ヨーロッパのあちこちに存在する古城を思い起こさせる様な

だだっ広いエントランスになっている。違う所があるとすれば、古城の様に朽ち果てた場所では無くてきちんと手入れがされているのが

薄暗い中でも分かる程の生活感があった。

やはりここには人が居る。

リオスはそう確信したが、あの3人組がまだ自分を探しているであろうこの状況でここに留まり続けるのは良くないと判断し、更に

先程の路地裏での過ちは犯さないと決意してまずはこの民家……いや、恐らく誰かの屋敷であろうこの建物の出口に向かう。

だが、その時不意に空気が変わるのをリオスは感じ取った。前線で戦った事もあるリオスにはそれが分かる。

むしろ、その変わった空気は今自分が居るこの建物の内部に向かって強くなっている。間違い無い。この空気は……。

そしてそれを裏付けるかの様に、屋敷の上の方から騒がしい音が聞こえて来た。


この状況は余り好ましいものでは無い。そう考えて、目の前まで迫った入り口のドアを開けてリオスは外に出る。

思った通り、ここは普通の民家では無かった。内部の広さに対して申し分無い程、3階建てで横に広い屋敷だ。

何だかここまで来るだけでも神経を使ったと感じつつ、今度は目の前に現れた大きな門をくぐる。

その門をくぐった時、後ろの方から派手にガラスが割れる音が聞こえて来た。

振り向いてみると、メイド姿の女がガラスの欠片と共に地面へと落ちて行くのが目に見えた。

「……!」

思わず門をもう1度くぐり、そのメイドが落ちて来た場所へと駆け寄る。

「大丈夫か、しっかりしろ!」

リオスの呼びかけに、メイドからの反応は無い。もう息も無いらしい。

一体何が起きているんだ? とリオスは不審に思うが、今のこの状況でこれ以上頭を混乱させたくないので、

気になる気持ちを抑えつつその場所をそそくさと離れるのであった。


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