A Solitary Battle第3部第1話
「こっちは良いぜ」
「こっちもだ」
「よーし、これでまた1つ目標に近づいたな」
エスヴァリーク帝国の帝都から少し離れた場所の中にある、森の中の神殿。
うっそうとした木々の中にそびえ立つその神殿の中で複数の影がうごめいていた。
その影達は手早く素早くと言った感じで神殿の中を荒らし回り、用が済んだら
とっとと引き上げる。長居は無用だ。
こんな事件が今連続して起こっているので帝国側としても対処に追われている。
そしてこの集団がやっている行為が、後にとんでもない事件の火種になって行く!!
「また神殿が荒らされた?」
晴れて帝国騎士団員として修行を積んでいたセバクターの元に
そんな話が飛び込んで来た。今帝国内を騒がせている大きな事件が、
各地の神殿や遺跡が荒らされてそこの古代兵器が次々に盗まれている
事件なのだ。勿論帝国騎士団でも部隊を派遣してはいるのだが意外と
素早い犯人らしく、足取りが全然掴めていないらしい。
「そこで、あんたに傭兵としてそいつ等に接触出来ないかどうかと言う事を
考えてみたんだ。この前まで傭兵だったからそう言うのには慣れてるだろう?」
自分を騎士団に誘ったクローディルがそう作戦を練って来た。
「俺に1人で潜入をしろと?」
「そうは言っていない。ただ、あながち間違いとも言えないな。行動するのはあんた自身だが、
バックアップはしっかりとしてやるから安心しろ」
「…………分かった」
騎士団員になったのに、今までとやる事が余り変わらない今回のミッションに苦笑いを漏らしながら
セバクターは了承の意を返す。しかし心強いのは騎士団のバックアップがクローディルの言う通り
あると言う事だ。
その犯人は足取りが軽いらしいので、出来る事と言えば闇雲に追いかけ回すのでは無く
逆に待ち伏せをかけた方が良いのでは無いかと騎士団の中で結論が出た。そこでそう言った
盗品等の闇取引を行っている裏組織に大金を積んで、帝都からまた少し離れた所にある
遺跡で古代兵器が見つかったと言う嘘の情報を流す事でその犯人をおびき出す作戦だ。
そしてそれがもし失敗した場合には、その情報源となっている神殿の中にあると言う「魔石」と
呼ばれる石を回収して騎士団に持って来いとのお達しだった。
「またおとり捜査か……」
そうポツリと呟くセバクターだったが、今度は自分が騎士団員としておとり捜査をする番だと
言う事になる。帝国をこれ以上好き放題に荒らされる訳には行かないと言う事で失敗は
出来ないから、気を引き締めてミッションに当たろうとセバクターは考えた。
その為にも勿論騎士団の制服を着る事は許されず、また騎士団員である証拠として
胸に取り付ける金メッキの徽章も駄目だ。
ではどんなスタイルで行くのかと言えば、傭兵時代に何時も自分がしていた軽鎧にオレンジの
マント、赤い上着に黒のシャツ、そして白のズボンに紫のブーツと言った傭兵スタイルだ。
(これじゃ騎士団員じゃないだろ……)
でも騎士団員としての任務ではあるので、この格好ではあるが帝国騎士団の1人として
任務に挑むのだと言う誇りと自覚を持ってセバクターは出発するのであった。