A Solitary Battle第2部第13話
準備を終えて作戦決行の為に、夜遅くに一行がやって来たのは
貴族街と平民街の境目位にある2階建ての小さな邸宅だった。先端が
尖っている高い柵が邸宅の周りをガードしているので、侵入者対策は
それなりに成されているのだろうとセバクターはそれを見上げながら思う。
「良し、行くぞ」
クローディルの号令で一行は邸宅のドアから中に入る。1階はそれなりに広い
吹き抜けのエントランスになっており、豪華で大きなシャンデリアがぶら下がっている。
「ようこそ、我が家へ」
そんな一行を笑顔で出迎えたのは、セバクターがかつて勲章を貰ったあの
ルクレスと言う騎士団員とその右腕であるバリスの2人であった。
そしてそのルクレスがセバクターの存在に気がついた。
「あれ、君は確か……」
「今はこの男が俺の雇い主だ」
何かを言われる前に今の自分の立場を明確にしたセバクターに、ルクレスが
ニヤッと笑ってうなずいた。
「ははぁ、そう言う事か。まぁ良い……私達はスムーズな取り引きが出来れば
それで良いのだからな。さてさて、品物は持って来てくれたんだろうな?」
そのルクレスの言葉に、クローディルはチラリとニーヴァスに目配せをする。
それを合図にして、ニーヴァスが吹き抜けのエントランスに置かれているテーブルの
上に大きな木製のトランクをドンと置く。その中には大量の紙包みがぎゅうぎゅう
詰めにされて入っていた。
「ん、確かに。しかし品物の確認もさせて貰おう……おい」
後ろに控えているバリスにルクレスが目配せし、そのバリスが紙包みの1つを開けて
中に包まれている白い粉をペロリと指で摘まんで舐めた。
が、その瞬間バリスの顔色が変わる。
「……何だこれは?」
「どうした?」
「これ、ただの小麦粉だ……どう言うつもりだ?」
バリスが舐めたのはどうやら麻薬ではなかった様だ。しかしそんなバリスの態度を見ても
クローディルは顔色1つ変えなかった。
「あれ? 御前達が欲しいのは小麦粉じゃなかったか?」
とぼけた様にそう聞くクローディルにルクレスとバリスの表情が曇る。
「そんな筈が無いだろう。私達は小麦粉では無い物が欲しいのだ!!」
「こっちが求めているのは白い粉は白い粉でももっと違う物なんだ。甘く見るなよ?」
だがそんな態度を取られても、クローディルもニーヴァスも何処吹く風と言った表情である。
「え、何だっけそれ?」
そう聞き返したニーヴァスについにルクレスが切れた。
「貴様、私達が麻薬を求めている事位知っているだろう!! これ以上私達を馬鹿に
するのも大概にしろ!!」
そうルクレスが叫んだ瞬間、クローディルの顔つきがニヤリと嫌らしい物になった。
「そうだ、俺達はその言葉が聞きたかったんだ」
「これであんた達の発言が証拠になる。逃がすなよ……全員捕まえろ!!」
そう言いつつニーヴァスは指をパチンと大きく鳴らす。すると入り口のドアだけで無く1階部分の
窓を叩き割る形でも大量の兵士達が雪崩れ込んで来た。
「な!?」
「くそ、私達をはめたのか!! ならばこっちも応戦だ!!」
そのルクレスの一声で屋敷の中からワラワラとルクレスとバリスの部下達が現れる。
勿論セバクターも応戦する為に腰のロングソードを抜き、向かって来る敵を迎え撃つのであった。