A Solitary Battle第2話


「この地域はエンヴィルーク・アンフェレイアのベリジール地方。見ての通り横に

広い地方だよ。端から端までは大体馬を使えば全速力で1ヶ月位かな」

テーブルの上に地図を広げて、それを指で追いながら説明を始める。

「で、今僕達が居るのがここね」

イレインの指がスススッと移動し、あるポイントをトントンと指す。

「イクバルトの町って所。王都は無くなっちゃったけど、この町その物はまだ存在しているから

ここを拠点に行動するのも良いだろうね。あとこの町は騎乗用や輸送用のドラゴンやワイバーン、

馬等が大量に飼育されている事でも有名だよ。もうそれ等は見たかな?」

「いや、それはまだだ」

「そうなの? それなら後で見ておきなよ」


今度はイレインの指が別の方向へ移動する。

「それからこっち側がエスヴァリーク帝国。このヴァーンイレス王国を滅ぼした大国だ。

この世界でも1,2を争う位の国力だし、無理も無いかもね。そしてここが帝都の

ユディソス。見ての通り湖に囲まれている場所だ」

確かに、イレインが指差している場所には黒い点が打ってあるのでそこが都だと

言う事が分かる。そしてイレインはこんな事をセバクターに聞いた。

「君は帝都を目指すのかい?」


が、それにセバクターは首を横に振る。

「ああ。だけど俺はこっちに来たばかりだからもう少しこっちを見て回るつもりだ」

「ああそうなの。もし目指すのであればこの帝都までは凄い時間が掛かるから、ここから

ワイバーンに乗せて行って貰う事をお勧めするよ」

「忠告どうも」

セバクターはそう言って席を立とうとした……が。

「あ、ちょっと待ってよ。僕の話はまだ終わってない」

「……?」

すると次の瞬間、セバクターが驚く様な事をイレインは言い出した。

「傭兵として君も武器を使ってその腕1つで稼いでいると思うけど、その腕を少し見せて

貰いたいと思ってね。どれ位の腕なのかが非常に気になるんだよ」


要するに、イレインはセバクターと手合わせをしたいらしいのである。

「俺の?」

「うん。別に無理にとは言わないよ。ただ、僕も傭兵として少しは自信があるんだ。だから色々な

人に手合わせを申し込んで自分で特訓をしている訳。やっぱり1人じゃ強くなれないからね」

1人では強くなれない、と言うイレインのセリフにセバクターは心の中で同意する。

(それもそうか……)

そのセリフで、余り乗り気では無かったセバクターの心境が変化した。

「分かった。だったら1度だけだぞ」

「やってくれるの? ありがとう。だったら良い場所があるんだよ」


セバクターを酒場の外へと連れ出し、イレインがやって来たのは町外れにある空き地だ。

と言っても完全な空き地では無いみたいで、元々は石造りの家が建っていたらしい。

「ここは僕の特訓場所でもあるんだ。見ての通り若干廃墟の跡があるけど戦うには問題ない。

まぁ手合わせだし、軽くやりあうつもりで」

「ああ」

セバクターは傭兵として旅立った時から、今まで5年間ずっと使い続けている愛用のロングソードを

腰から引き抜き、イレインも同じく腰から2本の短剣を引き抜いて構える。

(短剣使いなのは見て分かるが、素早さが武器かもしれない。これは少しやり難そうだ)

それでも手合わせである以上どちらかと言えばやはり負けたくないので、5年間の傭兵生活、

いやそれ以前の貴族生活から培った剣のテクニックで恥じる様な戦いだけはしたくないと気を引き締めた。


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