A Solitary Battle第15話
辺りはすっかり日も暮れ、燃える様な夕焼けが街中を照らし出す。そんな夕日を
背中に浴びながら馬を降りたセバクターが辿り着いたのは一軒の集会場。
その前にある小さめの広場で、庭として利用されている場所だった。そこでは1人の
男が、まるでセバクターが来るのを分かっていたかの様に集会場の前の花壇に座っていた。
「……」
男はセバクターの姿を視界に捉えると、薄く笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
「まさか、君があのラディとその部下達を全て片付けてしまうとはね。正直言ってびっくりしたよ」
男は腕を組んで感心したかの様にうんうんとうなずく。
「それはこっちのセリフだ。人の良さそうな顔をしているけど、まさかその正体がそんな立場の
人間だったとはな。最初に感じた警戒心はどうやら間違いじゃなかった様だ。そうだろ、イレイン?」
うなずくその男……最初に冒険者ギルドで、そしてこの町にやって来てから色々と情報を
くれたあのイレインが全ての黒幕だったと言う訳である。
ちなみに何故セバクターがここまで来る事が出来たのかと言うと、冒険者ギルドの受付で
イレインが何時も帰る場所を教えて貰ったのだ。
「君が色々キナ臭い動きをしていたのは僕の耳にも入って来ていたからね。色々と嗅ぎ回って、
それであのラディ達と一悶着を起こして僕の事を知った訳だ。いや、お見事」
パチパチと拍手をするイレインだが、セバクターはそんな彼の言動にも動じない。
「そうだ。それで俺はこの町から依頼を受けた。スパイを捕まえろと」
それを聞いたイレインは鼻で笑って答える。
「はっ、成る程ね。それで僕を捕まえに来たと言う訳か。言っておくけど僕はそう
簡単には捕まらないよ?」
「それもこっちのセリフだ。俺も簡単にあんたを逃がす訳には行かないんだ」
そう言って更に、何故スパイの正体がイレインであるのかが分かった理由をセバクターは
当の本人に話し始めた。
「あんたはヴァーンイレス王国の元騎士団員だと言ったな。騎士団員であれば俺達
傭兵とは違って兵力とか戦略とかそう言った事も勉強するし、国に雇われている身分で危険と
隣り合わせの職業だからそれなりの給料も出る。となればあの盗賊団を裏で雇えるだけの金を
貯める事も頑張れば出来る筈だからな。で、あんたは隣のエスヴァリーク帝国から送り込まれた
スパイとしてヴァーンイレス王国の騎士団員として潜入し、色々な情報をあの盗賊団を使って
エスヴァリークに流していた。恐らく、その見返りとして多額の金を貰っていたんだろう。そして王国を
壊滅させた後はほとぼりが冷めるまで傭兵として活動し、冷めたら帝国に戻る算段だった。違うか?」
そのセバクターの推理を聞いて、先程よりも更に大きな拍手をイレインは彼にする。
「正解だよ。まさにその通りだ。僕はヴァーンイレスに帝国の命を受けて送り込まれたのさ。そもそも戦争に
勝つ為だったら何でもするのが当たり前だし、真っ向勝負をするだけが戦争じゃない。幾つもの戦略が
絡み合ってぶつかり合って、そうしてその勝負で打ち勝っても良い訳だからね。王国騎士団では5年間
過ごしたから凄い長かったよ。そして傭兵に成って2年。やっとほとぼりが冷めたと思ったのに、ここに来て
邪魔者がこうして現れるとはね。全く、余計な事に首を突っ込むのは感心しないよね、ほんと」
飄々とした口調でそう言うと、イレインは腰から自分の得意武器である2本の短剣を
あの手合わせの時と同じ様に引き抜いた。
「でもまぁ、そこまで僕の事を知られてしまったのなら生かして帰す訳には行かないし……。
第一、君がここに来たのは僕を捕まえる為なんだろう? だったら捕まえてみるが良い。
果たして君に僕が捕まえられるのかどうか、凄く気になるよ。さぁ……始めるとしようか。
生きるか死ぬかの本気の戦いをさぁ!!」
A Solitary Battle第1部第16話(最終話)へ