A New Fighting Adventurers第19話
レディクがノレバーに追いかけ回され、ヘルツがカインとバトルを繰り広げている頃
その1階層上の1階においてはマルニスと分かれたブラインが、白髪の男に追いかけられていた。
(俺を追って来てる奴は、レディクの因縁の相手のティレジュじゃなかったっけか?)
自分よりも、レディクを追うべきじゃないのかなとブラインはふと考えてみるが、
追われている以上は逃げるしかない。
奴が持っているのは槍と斧を合体させた武器であるハルバードだ。
その為、まともに戦おうとすればリーチの差で苦戦は必死となってしまう。
だからこそ、どうにかして有利な展開に持ち込みたいので振り切ろうと
頑張ってはいるブラインであったのだが、なかなか振り切れ無い。
と言うよりも、このまま振り切る事は無理に近そうだ。
(だったら……!!)
目の前の曲がり角を曲がり、後ろから追って来たティレジュ目掛けて
スライディングをかまして思いっきり転倒させる。
「ぐおあっ!?」
派手に転倒したティレジュは鼻から顔面を地面に強打。そこをブラインは見逃さずに
素早くハルバードを足で踏みつけ、遠くへと蹴り飛ばす。
そのまま剣先をティレジュの目の前へと突きつけた。
「まさかこんな初歩的なテクニックに引っかかるなんて、本当に帝国騎士団員か?」
「ぐぐっ……くそっ!」
「おーっと、動くと首と胴体がスッパリと離れる事になるが、それでも良いのかなぁ?」
ニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、ティレジュを脅すブライン。
これでは第三者から見た時に、どちらが悪者であるのかわからない事であろう。
「色々聞きたい事があるんでね。俺達に聞かれちゃまずい事をあそこで
話して居たんですよねぇええええ!?」
剣の先端をティレジュの目の前から首へと変更して突きつけ、さらに鬼の様な形相で
詰め寄るブライン。
「答えないと本当に殺すぞ? 俺を殺すつもりだったんだろうが、先にやっちゃうよ?」
「く……くそっ!!」
「それも返答次第によっては……だがな?」
その言葉に、ティレジュは間を置きながらもモゴモゴと喋り始めた。
「あそこで話していた事は全て事実だ」
「それを証明する物は?」
「さっきの部屋に荷物がある」
「それだけか?」
「そうだ」
そうか……と呟き、納得の表情を浮かべるブラインだが、
その瞬間をティレジュは見逃さずに渾身の力を込めて両手で剣を突き放す。
「!?」
「はっ!」
寝転がったままの姿勢からブラインの足を両足で蹴り飛ばし、足を掬う形で転倒させて
転倒した隙を突いて自分のハルバードを回収する事に成功。
そのままブラインに斬りかかって行く。
「くっ!!」
咄嗟に剣でその攻撃を弾くが、勢いがあるのはティレジュであり一気に形勢逆転され
不利な状況に追い込まれてしまった。
(だったら……また逃げるだけさ!!)
踵を返して逃げ出すブラインだが、それをティレジュが見逃す筈も無くまた追いかけっこがはじまる。
しかし今度の追いかけっこはそう長く続く物では無かった。
曲がり角を曲がり、直線を走り抜け、目の前に現れた扉を開けるとそこは……何と
やや広めの部屋になっており行き止まりであった。
「うっ!?」
ブラインがその事態を飲み込んだ直後、後ろから殺気がしたので振り返るのでは無く
咄嗟に横っ飛びからの回転受身をする。
その瞬間、今まで立っていた場所にティレジュの渾身のダッシュ突きが炸裂していた。
「……外したか」
「そんなヤワな攻撃でやられる程俺は生半可な鍛え方はしていないし、
伊達に修羅場も潜り抜けて来てはいないもんでね!!」
「なら、殺し甲斐がありそうだ!」
にやりと笑ったティレジュは、扉を閉めるとブラインに向かって走り出してハルバードを振るう。
それをギリギリでかわしたブラインは、そのままファイヤーボールを撃ち出すが
それをティレジュもギリギリで回避。
「魔法剣士か」
「ああ。剣だけじゃあ何かと不便な事も多いからな、俺もよぉ!」
今度はブラインがロングソードを振るい、ティレジュは防戦になる。
ガキン、ガキンと部屋の中に金属音が響き渡る。
この戦いは武器だけの攻防を考えてみれば、ティレジュに軍配が挙がるのは間違いないであろうが
ブラインは剣術だけでは無く魔法も使える魔法剣士。
魔力切れに注意しながら、弱めの魔法で牽制をかけつつ剣で応戦するスタイルである。
それで互角の戦いになっている為、賞賛の言葉をここでブラインがティレジュに投げかける。
「罠には引っかかりやすいが、それでも流石現役の騎士団員。俺のこの戦い方にも全く動じないとはな」
「……」
言葉ではブラインに返さず、代わりにハルバードで薙ぎ払う事で答える。
「言葉では表さず、刃を交えて通じ合うって奴か。俺もその方が燃えるんだよっ!!」
再び金属音が響き渡り、両者はヒートアップする。それは永遠に続く訳では無いのだが、
互角の戦いである為になかなか決着が着かないのもまた事実なので、この勝負は
ひたすらガマンの勝負と言えるだろう。
スタミナが切れ、集中力が持続しなくなった瞬間こそ自分に死が訪れる時であるのだ。
それはバトルを繰り広げている2人もわかっているからこそ、全力の力でお互いの動きを
見極め、攻撃を繰り出し、そして防御をして自分の身を守る。
戦術と言う物は存在し無い。ただ自分の本能だけを信じて、武器と武器を交えて限界バトルに挑む。
だが、それもそろそろ終わりを迎えようとしていた。
繰り出されたティレジュのハルバードを、わずかなタイミングのズレで流し損ねたブラインの
腹が軽く切り裂かれる。
「ぐあ!」
それを皮切りにブラインに対し猛ラッシュをかけ、一気に勝負に出るティレジュ。
ブラインも必死に受け流しを開始するが、そこにハルバードではなくティレジュのミドルキックが
その腹の切り裂かれた部分に入ってしまう。
「があっ!!」
ブラインの後ろは丁度壁であり、倒れこまずには済んだ彼であったがまだ勝負は終わっていない。
しかしその瞬間、ブラインはある戦法をふと思いついた。痛みによってバランスを崩し、
それによって壁に叩きつけられたブラインに、ティレジュは思いっきりハルバードを突き刺そうとする。
それを咄嗟に身体を横にずらす事でかわし、何と次の瞬間ブラインは左腕とワキで
ハルバードを挟んでロックした。
「何っ!?」
「こう言う戦い方もあるんだよ。騎士団では習わないもんだがなぁ!!」
がっちりロックされた事に戸惑うティレジュが、ハルバードをロックから解除しようと動き出す前に
ブラインのロングソードが次の瞬間ティレジュの心臓を貫いた。
「ごっ……」
背中から突き抜けたロングソードの切っ先が、彼の傷の深さを物語る。
ロングソードを引き抜き、血を払うとティレジュの身体がずるりと地面に力無く倒れこんだ。
「御前が俺を殺す前に、俺が御前を殺す方が早かった様だな」
そう息絶えたティレジュの屍骸に向かって吐き捨てて、ブラインは下の部屋へと荷物を取りに行き
その後にマルニスと合流するべく扉を開けて駆け出した。
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