A New Fighting Adventurers第20話(最終話)


遺跡の入口でバイラスに追いつかれ、少し剣を交えた後に向かい合う形でマルニスは口を開いた。

「帝国騎士団長のバイラスだな」

「貴様、私の名前を知っているのか?」

「ええ。僕は元々貴方の部下だった。まぁ、貴方は知らないでしょうけど」

その言葉に、バイラスにはピンと来る物があった。

「貴様はまさか、あの一斉リストラの……」

マルニスもその疑問の声に、首を大きく縦に振った。

「そのまさかですよ。貴方は僕の顔すら知らなかった筈ですが、貴方は僕達

アーエリヴァ帝国の騎士団員からしてみれば、団長と言うトップの存在なので

有名過ぎるから、顔を覚えてしまうのも無理はありませんよ」


そして、マルニスは残念そうに首を振った。

「でも、まさか帝国の騎士団長がこんな事を考えていたとは……思いもよらなかった訳だけれども」

「こちらにしてみれば、私達の動きをリストラの対象にされた元騎士団員が

ひそかに追いかけて来ていたのも思いもよらなかったな」

「シークエル皇帝陛下と、エンデス宰相の直々の命令ですからね」

「あの皇帝め……軍を動かさず、こうして一見関係の無い奴に私達の動きを追いかける様に

託すとはな。全く、嫌な事を考え付く物だよ」


「ですから、僕等は貴方を連れて帰る様に言われているんです。……生死問わずにね」

マルニスはロングソードを構え、それを見たバイラスはもう1度両手剣を構える。

「僕達騎士団員をリストラして、それで経費を浮かせてこの古代兵器を

開発しようとするなんて……僕は絶対に許せない」

「許せないか。なら、私を倒して止めてみるが良い」


遺跡をバックにして2人が向かい合い、相手の出方を待つ。

そうして、ほぼ同時に2人は動く。

パワーで言えば両手剣のバイラスが有利だが、ロングソードは軽い分スピードが

上がるので若干マルニスの方が速い。

だがバイラスも流石騎士団長だけあってか、その両手剣の重さを感じさせない素早い剣術を披露する。

少しだけマルニスが上回っていると言った程度だ。

闘技場でカリスドと戦った時とは比べ物にならない程速いが、見切れないスピードでは無い。

(勝てるのか、僕に……!? いや、勝たなくちゃ駄目なんだ!!)


自分が勝負できる所と言えばスピードのみ。

そこを生かせる様な戦法を取りたいが、騎士団長は幾多もの戦場を駆け抜けて来ているので

実戦経験も豊富だ。

一見すると勝ち目が無さそうに見えるバトルであるが、マルニスは1つだけ戦略を思いついていた。

(あれしか『勝ち』には持って行けそうに無い。そこまではじっと我慢だ!!)


まともに両手剣とロングソードを合わせるのは自分の剣が折れてしまう可能性もあるので

マルニスはどちらかと言うと回避をして、自分から攻撃を仕掛けて行くスタイルで戦う。

両手剣の威力を自分のロングソードで受け止めるのではなく、自分のロングソードの攻撃を

バイラスに仕掛けて行くのだ。

しっかりと剣の軌道を読み、そこから反撃に出て行くスタイル。


だが、そんなマルニスを嘲笑うかのように一旦距離を取ったバイラスは、

マルニスの剣の良さに驚きながらもまだまだ余裕がある様な表情を浮かべる。

「剣筋は良いな。だが詰めが甘いぞ!!」

両手剣を振りかぶって来るバイラスの攻撃を横に避けるマルニスだったが、そのまま

連続でミドルキックをマルニスの腹へと入れるバイラス。

「ぐほっ!?」

怯んだ所に、剣の柄を使ってマルニスの顔面を殴打。そのまま前蹴りで頭を蹴り飛ばす。

「がはっほぅ!!」


どさりとマルニスが仰向けに倒れこみ、そのまま覆いかぶさるように両手剣を突き立てようとするバイラス。

それをギリギリで何とか避けたものの、今度は腹を思いっきり靴の裏で踏みつけて来た。

「があっ!?」

「そろそろ楽にしてやろう。胸を一突きにしてやるからなぁ!!」

そうして剣を持ち上げるバイラスだが、マルニスはこの瞬間をまさに待っていたのであった。

バイラスの腹を踏みつけている右足を両手で掴んで、全力を振り絞ってしりもちを付く様に

仕向ける為前へと引っ張る。

「おりゃあああっ!!」

「ぬおっ!?」

その計算は上手く行き、バランスを崩して盛大にしりもちを付いてこけるバイラス。


マルニスは間髪入れずに転がり、そこからすばやく立ち上がってバイラスに向かう。

体勢を立て直しかけたバイラスの顔面に前蹴りを叩き込み、さっき自分が

されたのと同じ様に後ろへと蹴り転がす。

そのまま剣を使うのでは無く、バイラスの剣を持っている手を踏みつける。

「ぐあ!!」

両手剣を遠くへ蹴り飛ばし、更に腕に向かって剣を突き刺すマルニス。

「うあああああ!?」

鮮血があふれ出るがそんなことはお構い無しとばかりに、顔面を足の裏で何度も蹴りつける。

「あんたのせいで、僕達だけじゃ無く帝都まで危険に晒される事になったんだ!!」


最後にバイラスの足にも立てない様に思いっきり剣を突き立てて、そこから最後は

十字架を立てるかの様に、バイラスの心臓目掛けてロングソードを突き立てたマルニス。

「ごっ!?」

突き立ててから数秒で動かなくなったバイラスを見下ろして、荒い息を吐きながら

安堵の表情をマルニスは浮かべた。

「はぁ、はぁ、はぁ……後は……陛下に報告するだけだな」

騎士団では習う事の無かった独自の戦術で倒す事に成功した、騎士団長バイラスの

屍骸を見下ろし、マルニスははぁっと息を吐いてそう呟いた。



その後、駆けつけたシークエルとエンデス、それから配下の護衛騎士達にこれまでの事情と

証拠として彼等が持っていた古代兵器に関するメモや資料を手渡した。

「これが、この騎士団長を始めとしたこの遺跡の中で息絶えている奴等が

帝都を吹き飛ばそうと画策していた証拠になります」

手渡されたそのメモや資料をぺらぺらとめくり、シークエルは1つの判断を下す。

「わかった。筆跡を調べてみよう」


そうして城に持ち帰ってそれらを調べてみた結果、そのメモからは騎士団長を始めとした

6人の筆跡が発見されたので間違いなく有力な証拠になる、とマルニス達には伝えられた。

これにより騎士団長を始めとした6人は全員遺跡において死亡が確認され、その後の調査で騒ぎを起こしていた

いわゆる騎士団の不穏分子となっていた騎士達も、みるみる内に逮捕されて一層されていった。


そうしてその事実が国民に明るみに出ると、最近の騎士団の横暴に反発していた帝国の人々から

騎士団の再編成を求める声が上がるのにもさほど時間はかからなかった。

勿論マルニス達6人の功績は大いに称えられ、彼等は一躍

アーエリヴァ帝国の中ではこの帝国を救った有名人として注目される様になった。

やっと1つの事件が、これによって解決したのである。


そうして2ヵ月後、そんな騒動も落ち着いた所で新たな騎士団の編成が行われる事に。

新帝国騎士団の団長には、何とマルニスが抜擢される。それからその副騎士団長には

ブラインが任命された。ヘルツは兵士部隊の総隊長に昇進し、レディクは兵士部隊に入隊。

ヴァラスは騎士団に入団し、それと兼業で王城の片隅で鍛冶屋を再び開業した。

カリスドは兵士部隊に入隊した傍らで、ヴァラスの手伝いをしている。


こうして、アーエリヴァ帝国の騎士団は生まれ変わったのだ。



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