A New Fighting Adventurers第18話


ノレバーにレディクが追い掛け回され始めた頃、ヘルツは同じ地下1階の1つの部屋で

槍使いであるバイラスの側近のカインと対峙していた。

「ネズミが……。俺達の邪魔をしようとは良い度胸だな?」

カインは槍を構えて、ヘルツに向かってそう言い放った。

「済まないけど、これは皇帝直々の命令だから断る訳にも行かなくてね。

それと俺が調査した結果、騎士団の奴等の殆どはこっち側についているらしいな?」


調査と言っても単なる噂程度であり、今のはハッタリを半分程かけた発言をしただけなのだが

そのヘルツの読みはどうも当たっていた様だ。

「ネズミにしちゃあ、結構な調べ方をしているじゃないか」

「と言う事は、あの鍛冶屋の襲撃事件や闘技場の摘発もそうなんだな」

「ああ、大当たりだ」

「だったら教えてくれないかな。何故鍛冶屋を襲ったんだ? それに闘技場は

国が定めた合法の施設の筈だろう? 摘発なんて起きない筈なのに」


それを聞いたカインの口から、次の瞬間信じられない発言が飛び出て来た。

「ほう、だったら話してやろうか。全ては俺達の計画に含まれていたんだよ」

「何だと?」

「まずは鍛冶屋を襲わせたのは、武器の拠点を潰しておく事が目的だったんだ。

武器屋もその後に勿論襲わせ、俺達側に着いていない帝国騎士団の

武器の流通ルートをストップさせておく事で、少しでも戦法を有利にさせようと考えた訳だ。

鍛冶屋は武器を造り出したり修理をする事が仕事だから、武器屋とセットで潰したのさ」


「じゃあ、もう1つの闘技場の件については?」

「そっちは人員の確保だ。闘技場は名のある戦士が集まって来る場所だから、俺達の

仲間にする為にそいつ等を摘発の名目で拉致した後に、札束で顔をひっぱたいてやったのさ。

そうしたら面白い様に俺達の仲間になるって言い出してな。全く、人間なんて浅い生き物だと思ったぜ」

「だから闘技場の騒ぎを起こしたのが、こっち側に着いている騎士団の人間だったんだな」


そのヘルツの結論に、カインは笑いながら肯定の返事を返す。

「そう言う事だ。まぁそれでもこっち側に着かないと断った奴等も居たから、そいつ等には秘密を

知られている訳だしその場でさっさと殺してやったよ。仲間になっておけば生き延びられたものを」

「う、嘘だろ……?」

あまりにも惨い事を淡々と話すカインに絶句するヘルツだが、そんなカインはまた笑いながら答える。

「はははっ! 秘密を知った奴等は殺されるだけの事。今の御前みたいにな!!」


その心無いカインの発言に、ヘルツの怒りのボルテージがマックスまで跳ね上がった。

「てめぇ……、人間のカスだな。騎士団員として陛下に忠誠を誓ったんじゃあないのか!?」

「ああ〜、入団当初はそんな事も言ってたっけ。だけど今の俺は騎士団長に忠誠を誓っているんだ。

そしてこの俺の自白を聞いた御前は、そいつ等と同じ様に秘密を知ってしまった奴として

死んでもらう事になる。……俺の槍に串刺しにされてなぁっ!!」


そう言い切り、ヘルツに向かって駆け出すカイン。

当然ヘルツはバックステップで距離を取りつつ弓を引き絞るが、カインは簡単に避けてしまう。

「くっ!」

「はっはあ! その程度か!?」

挑発を繰り返し、自分のペースに持って来ようとするカイン。ヘルツは別段熱くなり易い性格でも

無いが、かと言ってここまで挑発を繰り返されては怒りのボルテージが

マックスを越えて、その上まで上がって来る。


「くそっ!!」

カインは槍のその長さに振り回されやすい槍使いにしては、動きが素早い方なのでヘルツが

弓を引き絞っても狙いがずれるばかり。弓のストックも余り多くないので何とかして決めたい所だが

いかんせん障害物も何も無いこの部屋では、アーチャー特有の奇襲作戦や

遠くから弓を引き絞って狙い打つのは難しい。

相手は槍使いなのでリーチもそこそこあり、不用意に近づけないのも実情だ。


(どうすれば良い……? どうすれば!)

次第に追い詰められて行くヘルツ。それによって判断力が低下するが

その時この旅の途中において、こう言う状況になった事があるのをふと思い出したのである。

(あっ!!)

それに気がついたヘルツは、その戦法を取ろうと動き出す。


だがカインはその前に、槍の先端を使って突き刺すのでは無くヘルツの身体を

槍を使って壁へと押し付けて、そのまま壁へと押し付けたら全力を込めて

刺し抜いてしまおうと言う戦法に出た。

その押し付ける場所は……胸の真ん中、心臓である。

「ぐおっ!?」

腹に槍を押し付け、そのまま力を入れてヘルツを後ずらせて行く。

「ぐ、ぐう……!!」

カインの戦法は見事成功し、それを受けて絶体絶命のピンチに陥るヘルツ。


だが、そこでヘルツはカインの思いも寄らない行動に出た。

「……のやろぉぉぉおぉっ!!」

「なっ!?」

押し付けて来る槍に刺し抜かれる前に、右手の弓を地面へと落として

その槍の柄をがっしりと両手で掴む。

掴んだ槍を右へと渾身の力を込めてずらし、その槍を両手で持ったまま

持った手を使って槍の柄の部分をずるずると素早く辿る。


カインはヘルツを振り払おうとするが、人間1人の重さが加わった槍はびくともしない。

それに戸惑っているカインを見据えつつ、ヘルツはそんな彼の顔面に思いっきり

右ストレートを叩き込んだのである。

「がはっ!!」

その衝撃でカインは槍を手放すだけでなく、思いっきり後ろへと吹っ飛んで背中から落ちる。

対するヘルツはと言うと、槍を部屋の隅へと投げて自分の弓を再び手に持つ。

そうして今度はヘルツの方が戦法を実行する事に。


まずは弓を引き絞り、何発もカインに向かって射る。このカインがそれぐらいでやられる奴では

無いと計算に入れた上での行動であり、そこは予想通りすんでの所で

飛んで来た矢をかわすカイン。

「くっ!!」

自分の槍を取りに行きたいが、その槍はヘルツの斜め後ろにある為に迂闊に近づく事が

出来ず、ただ弓を避け続けるだけになってしまった。

そんなカインを見据えてヘルツはさっき考え付いた、この旅の途中で1回だけ実行した戦法で

勝負を決める為の賭けに出た。


数発カインの足元に向かって矢を放ち、それにカインが気を取られた所で素早くヘルツは

次の矢を弓にセットして引き絞る。

そうして放たれた矢はカインの足元では無く、太ももに命中する。

「ぐわああああっ!?」

カインの動きが止まった所に続けて矢が射られ、今度の矢はカインの腹に命中する。

「ぐおっ!?」

そうして完全に動きが止まり、最後に放たれた矢はカインの額を見事に射抜いたのであった。

「がっ……」

頭を撃ち抜かれたカインは前のめりに膝をついてから倒れこみ、そのまま息絶えた。


この戦法はあのセーメインの町において、レディクの追っ手を始末した時に使った戦法だったのである。

一か八かの賭けではあったが、このヘルツの戦法は見事に成功して

不利な状況を覆しカインを倒す事に成功した。

(結構ギリギリだったけど、よく勝てたな……俺)

間一髪のギリギリバトルであった事を振り返りつつ、他のメンバーと合流する為に

扉へと向かって歩き出したヘルツであった。


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