A New Fighting Adventurers第17話
ヴァラスとカリスドのそれぞれの戦いが地下2階において繰り広げられている間、その1階層上の
地下1階ではレディクがピンク髪の男に追いかけ回されていた。
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
幾ら魔術でも、射程距離が長いロングボウに狙われたのではたまったものではない。
(ヘルツは何処かに行ってしまうし、くそっ……僕の狙いはあのアサートだったんだぞ!!)
因縁の相手のアサートも何処かへ行ってしまい、自分はロングボウを持った男に追い回されて
悔しさから歯ぎしりをするレディク。
この遺跡の中では弓を使う場所がほとんど無いとは言え、射程距離が長い弓とは
距離を取りたくないのも事実。
しかし止まったら矢で射殺されてしまうのもまた事実なので、なるべくスピードを
落とさない様にして、このウェローソス遺跡を縦横無尽に走り抜ける。
「逃げるだけなのか!? 少しは戦おうとか思わないのか?」
後ろからピンク髪の男のそんな言葉が聞こえて来るが、レディクは全くもって無視。
全力疾走で駆け抜ける。
……だが、そんな体力も限界まで続く訳が無い。まして自分は貴族生活で、武術よりは
魔法に力を入れていたので体力面での特訓は余りした事が無いのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう、限界か……」
スピードが落ち、ついにはへたり込んでしまうレディク。
しかしここで気が付いた事が1つだけあった。
「……あれ? 居ない?」
後ろから追って来ていた筈のあのピンク髪の男が居ないでは無いか。
(な、何で? あのアーチャーは僕を狙って来ていた筈だろう?)
まさか振り切ったのか? と思うが、そんなはずはありえないと首を横に振る。
事実、自分とあのアーチャーのスピードは互角だったので振り切れそうに無いと
焦りが出ていたのを、今の今までレディクは実感していたのだから。
(だったらあいつはどこに行ったんだ? 他の獲物を見つけたのか?)
息を整えて、首のスカーフを少し緩めて空気を取り入れやすくする。
それと同時に、レディクのあのアーチャーに対する考え方はもう1つの結論に辿り着いていた。
(もう1つ考えられる事があるんだ。それは……どこかで待ち伏せをしている!!)
そう、走りながら弓矢を射るのはほぼ無理である。弓は普通に止まったまま射る時にだって
正確に狙いをつけなければいけないのだから、そんな繊細な矢のコントロールを走りながらやるのは
それだけ失敗のリスクが高まるわけだし、そもそも走りながら弓を居る奴は射ない筈である。
(となれば……僕をどこかで待ち伏せして、物陰からあの弓矢で狙って来る可能性が高い!!
ここは慎重に……。さっきのヴァラスの言葉を思い出すんだ)
ヴァラスがさっき最深部の扉の前でカリスドに言っていた、何があるかもわからないのに突っ込むのは
自殺行為であると言う言葉を思い出しつつ、とにかく冷静になってから、辺りの気配を探る為の
探査魔術も併用してあのアーチャーを探し出す事に。
(これは余り遠くまではカバーできないんだよなぁ)
それでも使った方が良いのは目に見えているので、魔力を少しずつ消費しながら慎重に
レディクは遺跡の通路を進んで行く。
角を曲がる時は慎重に曲がり角の先を確認し、それ以外でも物音1つも聞き逃さない様に
耳の神経を極限まで鋭くして、アーチャーの攻撃に備える。
(どこからだ……どこからでも来てみるが良い! 僕は準備万端だ!!)
可能性があるとすれば狭い通路ではなく、広い場所の方が動き回る事が出来るのでその場所を探してみる事に。
そうしてなるべく足音を立てない様にして進んで行くと、空気の流れが若干変わる様な感じがして来た。
それと同時に探査魔術にも反応が現れる。
(……!!)
空気の流れが変わって行く方向からの生物の反応は1つだけ。これは可能性が大だ。
探査魔術を終了させ、これ以上魔力を消費させないようにして少しずつ
1歩1歩息を潜めながらその方向へと歩いて行く。
思った通りその方向には扉が無い出入り口があり、その奥には大きな四角い部屋が広がっている。
そこの様子をうかがってみるが、人影は見当たらない。
(どこかに隠れていそうだな……油断は禁物だ!)
部屋に入ってみると、今入って来た出入り口の他にも3つ出入り口があり、各方面へと繋がっている
大きな部屋にそこは造られていたのである。
(どこだ……どこにいる!?)
より一層神経を鋭くさせたレディクの耳に、次の瞬間コツリと言う音が聞こえて来た。
それと同時に後ろから殺気を感じ、咄嗟に前方へとジャンプしてみる。するとそこには矢が突き刺さった。
「くそっ!」
矢の飛んで来た後ろを振り向きつつ火の魔法であるファイヤーボールを撃ち出すが、
そのボールが向かっていった先で矢を構えていた人物は、そのファイヤーボールを飛び降りて回避。
「やっぱり君はここに居たか。僕の読みは当たったな」
「それは偶然じゃないのか?」
弓を構えながらこの部屋の出入り口の上の縁に、何と座って待っていたそのピンク髪のアーチャーが
同じ様に再び弓を構えつつレディクの前に立つ。
「どうかな……。それはさておき、僕が会いたいのはあの白い髪の人なんだよね。
君はその側近なんだから、僕の邪魔をしないでもらえるかな?」
そんなレディクの上からの物言いに、少し苦虫を噛み潰した顔をしながらアーチャーはこう返す。
「側近だからこそ俺が邪魔をするんだ。ティレジュ様に会わせる前に、あの世へ送ってやる。
そして穴だらけの身体になってから、望み通りティレジュ様に会わせてやろう」
そんな答えが返ってきたので、レディクも舐められた事に対し顔を歪ませる。
「僕にそんな大口を叩いたのは君が初めてだよ。名前を聞いておこうか?」
「ノレバー・ザディヴォス。ティレジュ様と同じ騎士団所属だ。俺も御前の名前を聞いておこう」
「……レディク・ルバールだよ。これで満足か?」
「ああ。お礼に俺の矢をくれてやる!!」
そう言い終わると同時に矢を放つノレバーだが、そのセリフの途中で危機感を感じたレディクは
ほぼ同時に横へとすっ飛ぶ。
そのままファイヤーボールを放つが、それをノレバーが今度は同じ様に横に避ける。
そこから先は、何も障害物が無い所で魔術と矢がぶつかり合う展開になった。
レディクが雷の魔法であるサンダーを放てば、お返しとばかりに2本の矢をノレバーが同時に射る。
「くっ!」
「ちっ!」
しかしその攻防がいつまでも続く訳では無い。
レディクには魔力切れが、対するノレバーには矢のストック切れがいつか待っている。
それを感じ始めたノレバーは、ここでフェイントをかける事に。
まずはレディクの足元を狙って矢を放ち、それにレディクが気を取られた所で
彼の胸を目掛けてもう1本矢を放つ。
が、焦りからか若干狙いがぶれてその矢はレディクの腕を掠めるだけに終わる。
そして背中の矢筒に手をやれば、矢のストックが無い事に気が付いて愕然とした。
「はっ……!?」
それを見たレディクは、矢が無い事に戸惑って隙が出来ているノレバーに、
魔力をすべて使い切るつもりで最大級の魔法を放った。
「お返しだ!! ハイパーウィンドカッター!!」
ドォン、と言う音と共に手から撃ち出された風の塊は、そのままノレバーの身体を縦横無尽に切り裂いた。
「ごああああっ!?」
全身を風の刃で切り裂かれ、力なくその場に崩れ落ちて絶命するノレバー。
「穴だらけになれなくて残念だったな。君の負けだ」
一瞬のチャンスを逃さずに、そこに確実に攻撃を仕掛けるスタイルの戦い方で
勝利を掴む事に成功したレディクであった。
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