A New Fighting Adventurers第16話


ヴァラスは地下2階で敵を撒く事にしたが、しつこく追って来るのが金髪の男であった。

(奴だけは振り切れないか!?)

そうこうしている内に、何と行き止まりの部屋に辿り着いてしまった。

「どうやらここまでらしいな」

あくまでクールに振舞うヴァラスの前に、金髪の男で元神官の経緯を持つ

騎士団員のドラソンが、今自分が入って来たドアを塞ぐ形で立ち塞がった。


「貴様は何者だ?」

「ただのしがない鍛治屋だ。私は殺されるのか?」

「まぁ、成り行き上はそう言う事になる。さっきの話を聞いていたんだろう?」

「ああ、途中からだけどな。帝都を吹き飛ばすとは凄い事を考え付く物だ」

そこまで言うと、ヴァラスは槍を構えた。

「私とやるつもりか?」

「黙って殺されるのも面白くないだろう?」

そのヴァラスの挑発とも取れる言葉に、ドラソンの顔色が変わる。

「では、お望み通り相手してやろう」

「それは良い。こちらも全力で迎え撃つ迄だ」


2人はほぼ同時に動き出す。武器を見れば2人の戦闘スタイルは正反対だった。

長い槍を振り回すヴァラスに対し、ドラソンの武器は短剣である。

しかもドラソンにはそれに加えてもう1つ攻撃手段が存在していた。

「叩き潰せ、ウォーターハンマー!」

突然地面からあらわれた水のハンマーが、ヴァラスを叩き潰そうとして来るではないか。

「ちっ!」

舌打ちをして横っ飛びで回避したヴァラスが見た物は、水のハンマーが自分が今まで居た場所に

叩きつけられて飛散する場面であった。

その叩きつけられた地面が軽くへこんだ事から、かなりの威力がある事がうかがえる。


「厄介だな。魔術か」

「私は元神官なのでね。攻撃魔術も少しだが嗜んでいるんだよ」

「なるほどな。ますます面白い」

ヴァラスはそう言い終わると同時に槍を突き出し、それを横に避けられるのを見越してサイドキックを放つ。

だがそれも避けられたので、今度はそのサイドキックの体制からクルッとターンをして

回し蹴りに繋げて行く。これはドラソンの腹にヒットした。

「ぐっ! ……やるな」

「そっちもなかなか反射神経が良い。さすが騎士だ」

続け様に槍を振るうヴァラスの攻撃を、短剣で受け止めて流すドラソン。

だがリーチはこっちの方が長いので、距離的に考えてみれば有利な展開には持ち込みやすい。

(後は魔法に気をつけるべきだ。まぁ、早めに決着を着ける事が大事なんだけどな)

金属と金属がぶつかり合う音が部屋に響き渡り、2人の息も上がって行く。


そこでヴァラスは勝負に出る事にした。

まず、ドラソンが短剣を突き出して来るのでそれを身体を捻って回避。

そうなるとドラソンには致命的に大きな隙が出来るので、横から前蹴りを食らわすヴァラス。

「ぐっ!」

よたついたドラソンに猛攻を仕掛けるが、ドラソンもまだ諦めてはいない。

今度は短剣を振りかぶって来るので、槍を両手で横にして受け止める。


そこから素早く槍の柄の部分をドラソンの腹に叩きつけ、彼が若干前屈みになった所で

今度はがら空きになった彼の背中に、柄の部分を振りかぶる形で叩きつける。

「ぐあ!」

続け様にミドルキックで背中を蹴り飛ばし、ドラソンが振り返ると判断したヴァラスは

彼に向かって槍を投げつけた。

「ごっ!?」

その槍の先端はドラソンの胸に突き刺さり、彼は苦悶の表情を浮かべてドタリと後ろに

ゆっくり倒れこんで息絶えた。


(終わったか……)

屍骸となったドラソンの胸から愛用の槍を引き抜き、ヴァラスはドアへと向かって血を払いながら歩き出す。

その血はドラソンの屍骸へ降りかかり、振りかけた彼はそんなことを気にも留めずに

残りのメンバーの元へと急ぐのであった。



カリスドは両手斧で、振りかぶられるイワンの剣をしっかりと受け止めて反撃に出る。

だが、イワンも横に振り抜かれた斧を後ろに大きくバックステップをする事で回避。

「このやろおおお!!」

「おらあああっ!!」

お互いに熱くなりやすいタイプの攻防は、ヴァラスとドラソンの戦いと同じく地下2階の

別の部屋において行われていた。

部屋の造りも広さもその2人のバトルと全く同じなので、1対1の正々堂々としたバトルが出来る。


「まさか、そんな計画をあいつと一緒に練っていたなんてよ!!」

「はっ、ネズミがここに入り込んで計画を聞かれた以上、生かして帰す訳には行かねぇのさ!!」

この国の騎士団長とその側近達がそんな計画を練っていたとなれば、カリスドは激怒しない訳にも行かない。

そして今自分が相手にしているのは、騎士団のナンバー2である副騎士団長のイワンだ。

まさかこの男が自分を追って来るとは思わなかったカリスドだが、意外と戦いやすい事に気が付く。

(何故だ? 俺はこいつを相手にするのは初めての筈だ。だけどさほど苦労しないぞ?)


副騎士団長ともなればそれなりの戦術や武術の腕を持っていなければなれないはず。

いくら自分が闘技場の元チャンピオンだからって、限界と言う物はある。

でも、今の所は互角に戦えているのは何故なのだろうかとカリスドは疑問に思えて仕方がない。

「おらあっ!!」

ジャンプして上から叩き付ける様に振り下ろされるイワンの片手剣を、横にずれてカリスドは回避。

そのまま奴に隙が出来た所で、斧を使って足を払う。

「くぁ!」

盛大にしりもちをついたイワン目掛けて素早く斧を振り下ろすが、それを転がって回避されてしまう。

「ちょこまかと逃げ回りやがって!!」

「御前こそ、俺の剣を黙って受ければ良いんだよ!!」

「そうは行くか!」


2人は罵りあいながらもしっかりと武器を振るい、金属音を響かせて戦いを繰り広げる。

パワーのカリスド、スピードのイワンと正反対のバトルだが、カリスドにはこのバトルで

自分の戦い方にとある変化が訪れていた。

「ほっ!」

「くっ!」

薙ぎ払われた剣をしっかりと柄の部分で受け、お返しに斧の先端でイワンの腹をどつく。

「ぐえっ!」

そのまま足を続けて払い、そこに今度は斧を振り下ろすのでは無くジャンプで飛びかかる。


「ぐっ! お、重い……!!」

「鍛えてるからな!」

カリスドにのしかかられたイワンはもがき苦しむが、イワンよりも体重のあるカリスドの身体はびくともしない。

「ぐぐ……くそ……!!」

「これで……終わりだっ!!」

斧を地面に置いて、カリスドは両手でイワンの身体を抱きかかえる。

そしてそのまま後ろにバックドロップをかまし、後頭部からイワンを落下させた。

「ごひゅっ!?」

物凄い音が響き渡り、意識が吹っ飛ぶイワンに対してカリスドは斧を再び手に取ると、

思いっ切りその仰向けのイワンの身体に向かって振り下ろした。

「ごっ……!」


胸を思いっ切り砕かれ、イワンは絶命する。

そして何故自分が、この男と互角に戦えたのかをこの時理解したカリスドは、息絶えたイワンに

語りかける様にして呟き始めた。

「俺は御前と勝負する前に、闘技場でマルニスとバトルをした。そのマルニスの戦い方と

盾があるか無いかの違いはあれど、とてもよく似ていた。それで俺は、攻撃が同じ事に無意識に

気が付いていたから互角の対応が出来たんだ。新たな戦い方の境地を切り開いてくれた御前に感謝するよ」

斧の血を払い、カリスドは出口のドアに向かって歩き出した。


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